執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

SGマークという亡霊が生きていたことが分かった。日本の製造業がまだ粗悪品を製造していた時代に生活者の安全を守るために国による安全基準がたくさん生まれた。SGマークはその一つである。日用品や運動用具を対象にいまから24年前に導入し、通産省の外郭団体である製品安全協会が決めた基準をクリアした製品にSGマーク入りのシールを貼って品質保証した。

PL(製造物責任)制度が導入されて3年にもなる。消費者は製品事故に対して直接メーカーを訴えられるようになり、政府の庇護はもはや必要ない。だからSGマークなどはよもや存在しないのかと思ったら、どっこい生きていた。しかも対象の製品は5年前の99から110に増えていた。ベビーベッドや老人用杖などどこに”安全基準”が必要なのか分からない製品からシール代を取って天下り役員を受け入れ続けている。

●なんでいまさら品質保証マークにコスト

1993年秋、円高が進み内外価格差がどんどん拡大していた。背景に日本の基準認証を中心とした許認可に対する批判が高まり、1万数千件に及ぶ許認可の整理が政府の課題となった。当流通担当だった。知り合いのメーカーの人から聞いた「SGマーク」の在り方を問うべく取材に入った。

プレー中にゴルフ・クラブが折れて、怪我をするケースがあった。さっそく通産相が「消費生活用製品安全法」に基づく「特定製品」にゴルフクラブとシャフトを認定した。寸前のところでゴルフクラブもSGマークの歯牙にかかりそうだった

スポルディング・ジャパンに電話取材すると担当者の怒りの声が伝わってきた。

「ゴルフ・クラブがSGマークの対象に認定されたから、協力してほしいと業界団体から話があって、頭にきているんです。なんで今ごろなんでしょうか。製造工場で安全性試験をしたうえで出荷する商品になんでいまさら品質保証マークのためにコストをかけなければならないんですか。小売価格の0.5%を支払ってSGマークのシールを買ってくれというのですよ」

業界団体の日本ゴルフ協会に電話を入れると「業界ではクラブの折れやひねりなど強度に安全基準をつくることに異論はないはずです」とすでに業界は了解済みのように話した。通産省が無料でやってくれるのならともかく、スポルディングなど外国メーカーが強硬に反対し、ゴルフ・クラブへのSGマーク導入は失敗に終わった。

●だれもスキー板に付けなくなったSGマーク

SGマークは1986年には貿易問題にまで発展したいわく付きの制度だ。スキー板に導入しようとしたとき、ロシニョールなど欧州メーカーが非関税障壁であると反発した。これに対して通産官僚が「日本の雪質はアルプスと違う」と抗弁して失笑を買った。欧州側はスキー先進国が加盟する国際基準(ISO)の基準をクリアしていれば十分だ、と主張したため、通産省はSGマークの安全基準を大幅に緩和した。当初は通産省に従った国産メーカーでさえ数年経つとだれもSGマークなど付けなくなった。

規制緩和は20年にもわたる官と民との闘いだった。これまでどれだけ政府が規制緩和策を打ち出したかしれない。しかし、日本社会はどうもなにも変わっていないのではないか。そんな気がしてならない。過去十年間ぐらいのレンジで政府が約束した規制緩和がどこまで実施に移されたか、われわれは検証しなければならない。民が独り立ちしなければならないのに、だれも独り立ちしようとしない。忘れっぽい民族性こそを打破する必要がある。