執筆者:伴 武澄【共同通信社経済部】

給与所得しかないサラリーマンに3月15日は関心がない日かもしれない。サラリーマンでも原稿料収入があったり、家賃収入などがある人には重たい気分にさせられる特別の日だ。筆者は1989年に「追跡NIES経済」(教育社)を上梓して以来、まじめに確定申告をしている。10年目の今日も領収書のたばと格闘した。

●確定申告で源泉徴収税を取り戻そう

自分の所得を合計して支払うべき税金を計算するのは繁雑だが、慣れてしまえば1日もかからない。自分が支払う税金と社会保険料の金額を再認識する作業は有益だ。年度末に全国いたるところで道路工事が繰り返される時期と重なるのでなおさら税金の使い道に関心を持たざるをえないからだ。

20万円以下の雑所得は申告しなくていいことになっているため、税務署に行かない人が多いが、あなたはすでに源泉徴収で10%の所得税を支払っていることを忘れているようだ。20万円の所得ならば2万円だ。雑所得には必要経費が認められているから、15万円の経費をたてれば課税所得は5万円となり、ふつうのサラリーマンなら1万円から1万5000円の税金を取り戻せる(還付)はずだ。

20万円ぐらいの領収書はどこの家にもある。医療費が10万円を超せば税金の還付を受けられる。萬晩報の読者でいままで確定申告をしていなかった人がいれば、来年から申告することをお薦めする。課税所得5万円には翌年度、地方税がかかるがぜったいにマイナスになることはない。特に何十万円ものアルバイト収入がある学生さんには確定申告が絶対に有利だ。

●シャウプ勧告も求めた確定申告への切り替え

給与所得の源泉徴収は、1940年に始まった。食糧管理法、日本銀行法と並んで太平洋戦争遂行を目的に導入されたいわば戦時立法である。そもそのその10年前にサラリーマンはほとんど税金を払っていなかった。大正時代には法人税と個人所得税の区別さえなかった。満州事変以降に税収増を図るため所得税の課税水準がどんどん高くなって、ほとんどのサラリーマンの所得が補足されるようになった。

さらに戦後1947年の税制改正で雇用主による年末調整の仕組みが取り入れられ、必要経費を認めない現在の源泉徴収が成立した。GHQは当初、日本の源泉徴収制度をやめさそうとし、シャウプ勧告の際も「確定申告制への早急な切り替えを求める」ことが盛り込まれていた。アメリカとしては「国民の通税感」や「タックスペイヤーとしての自覚」を促すのが租税民主主義の根幹であると考えていた。いまも考えているはずだ。いうまでもないことだが、先進各国は確定申告がふつうである。

大蔵省は消費税導入に当たって「先進国型税制の導入」をしきりに強調したが、徴税法にはまったく言及しなかった。情報開示としてはウソの部類に入る。付け加えると戦時立法の食管法は1995年廃止され、日銀法は今年4月から生まれ変わる、源泉徴収でだけが戦時のままである。

●憲法違反を問うたレストラン主

これは、聞いた話だが、東京のレストラン主が従業員の給与から源泉徴収をしなかったことから所得税法違反に問われた事件が1952年起きた。レストラン主の主張は「企業経営者が強制される源泉徴収の経済的負担や苦役が憲法の財産権の侵害や法の下の平等などに抵触する」というものだった。つまり戦前の一時期まで企業に対して徴税の手数料が支払われていたが、そのうち企業側の無料奉仕となった。レストラン主は10年後の最高裁判決で有罪となる。

その後も、サラリーマンの必要経費の面から同志社大学の教授が源泉徴収の違法性を問うなど一部で源泉徴収に対して問題提起がなされてきたが、孤立無援の闘いだったようだ。現在、年間の税収60兆円の約4分の1がサラリーマンの支払う源泉徴収によって賄われている。

4月になると自民党による経済対策が政府による経済対策として登場する。またしても10兆円を超える金額が所得減税ではなく、農村部や山間地にばらまかれる。

レストラン主が10年闘ったようにわれわれサラリーマンも闘わなくればならない季節がきたようだ。7月に参院選挙がある。