1996年「ASIAWEEK」アジア企業ランキング
執筆者:伴 武澄【共同通信社経済部】
香港の経済週刊誌「Asiaweek」の昨年11月21日号で「アジア企業ランキング1000社」を掲載した。 アジアの通貨危機が始まる前の年の企業業績は決して悪くない。タイなどの不動産バブル的要因はさておき、アジア全体に波及している通貨不安の引き金は実は国内経済とは別の次元で起きた可能性を示しているのではないだろうか。
アジア企業トップ1000の売上高は前年比7%減の5兆8000億ドル。日本企業が80%を占めており、3月末の円ドル相場が前年の1ドル=105円から122円へと円安になったのが大きく響いた。トップ1000の純利益は10%ダウンの1124億ドルだった。このうち日本企業は50%しか占めていない。売上高で1%しかない香港が10%(113億ドル)を稼ぎだし、同4%のオーストラリアが8%(9億ドル)を上げた。4位はシンガポール、5位はマレーシアである。
アジア企業の売上高トップ1000のうち、709社を日本企業が占めた。前年より16社減り、売上高も5790億ドル減少して、4兆6000億ドルとなった。純利益では円安にもかかわらず前年水準を維持した。
中国は25社から23社へとランキング企業数を減らしたが、売上高は1277億ドルと若干伸ばした。しかし純利益は国営企業の大幅減益によって大きく後退した。北京政府は、国営企業の民営化を促す方針だが、輸出市場では通貨下落で競争力を増した東南アジア勢の攻勢にあい、苦しい展開が続きそうだ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)企業は健闘している。純利益のトップ30には7社も入った。シンガポールは34社が売上高ランキング入りし、売上高は12%増の974億ドル、純利益は14%増の63億ドルである。マレーシア、フィリピンの企業も大幅に収益を向上させた。
香港企業にとって1996年は最高の年だった。純利益は14%増の113億ドルにも達した。ただ韓国企業の純利益は33億ドルと70%もダウンさせた。
以下は1996年度の純利益のトップ30企業のランキングである。
順位 企業名 国名 純利益100万ドル
1 トヨタ自動車 日本 3,547.7
2 Petroliam Nasional Malaysia 2,892.0
3 Australia Wheat Booard Australia 2,389.4
4 NTT 日本 2,311.6
5 本田技研工業 日本 2,033.2
6 中華テレコム 台湾 1,998.3
7 サンフンカイ不動産 香港 1,815.4
8 長江実業 香港 1,570.6
9 Hongkong Telecom 香港 1,433.0
10 ソニー 日本 1,282.0
11 松下電器産業 日本 1,267.3
12 Telstra Australia 1,266.0
13 台湾電力 台湾 1,247.9
14 Henderson Land Devt. 香港 1,232.8
15 Singapore Telecom Singapore 1,176.2
16 三菱重工業 日本 1,136.3
17 Rio Tinto Australia 1,098.4
18 Electric Generating Authority Thailand 1,069.1
19 Hewlett-Packard Singapore Singapore 1,040.7
20 Hucthson Whanpoa 香港 1,015.4
21 Swire Pacific 香港 0,981.3
22 キヤノン 日本 0,865.8
23 日本電気 日本 0,841.9
24 Telephone Organization Thailand 0,830.4
25 日立製作所 日本 0,812.0
26 Seagate Technology Singapore 0,797.2
27 日本たばこ産業 日本 0,794.7
28 富士写真フィルム 日本 0,784.6
29 東京電力 日本 0,750.2
30 Telekom Malaysia Malaysia 0,747.8
注目すべきは、香港企業の収益力で、サンフンカイ不動産、長江実業、香港テレコム、ヘンダーソンランド、ハチソン・ワンポアの5社が10億ドル以上の純利益をあげて、上位にランクされたほかチャイナ・ライト&パワー、ニューワールド、ジャーディン・マセソン、CITICパシフィックなどが5億ドルを超える高水準の利益を確保した。香港上海銀行はロンドンに持ち株会社を移したため、ランク入りしていないが、実は影のアジアナンバーワン企業である。
ASEAN企業の収益で特徴的なのは、電力や電気通信など民営化された元国営企業が高い収益を維持していることである。半面、現地で上場していない外資系企業の業績がトップ1000に反映されていないのは残念である。シンガポールを基地とするヒューレート・パッカード社とシーゲート社以外にも、シンガポールに多くの製造拠点を持つ松下グループ、タイとシンガポールでの売上高ではランキング入りするはずのミネベアなど多くの高収益企業が存在しているからである
ただ、1997年度はバーツはじめ多くの通貨危機で多くアジア企業が打撃を受けるのは確実である。トップ1000の売上高の80%を占める日本の円が10%近く下落、ASEAN各国は7月以降、ドルに対して50%前後も下がっており、ドルベースの売上高が下がるだけでなく、国内経済の混乱に伴う消費の冷え込みや為替市場での損失など巨額の損失を計上、97年度のランキングは相当の変動が予想されそうだ。