信濃毎日新聞1994年1月12日

  衛星利用してアジア全域受信が可能な「国境を越える」テレビ番組がことし一挙に17チャンネル(現在6チャンネル)に増える。タイ財閥大手のシナワトラ・グループが昨年12月同国初の衛星を打ち上げ、この2月に5チャンネルの衛星テレビ「IBC」を開局する衛星テレビ3社(11チャンネル)が相次いで開局するためだが、越境放送を認めてこなかった郵政省もこの現実を無視できなくなり、放送法を改正し今年から海外の衛星テレビの商業利用を解禁する方針で、アジア衛星放送をCATVを通じて手軽に楽しめる時代が到来する。
 「将来は各国のニュースを交換してワールドニュー事業を手掛け、第二のCNNを目指したい」
 タクシン・シナワトラ会長は熱意を込める。IBCに加え、今開局の3社は、香港の国際企業連合(5チャンネル)、シンガポールのアジア・ビジネス・ニュース(1チャンネル)。いずれも24時間放映で、日本の民放と同様コマーシャルを導入した無料放送だ。
 越境テレビのパイオニアは1991年開局の香港の「スターTV(6チャンネル)。英語、北京語、ヒンディー語の3カ国で、アジア向け編集のBBCの24時間ニュース、映画やドラマ、アニメーション、世界のスポーツ、音楽、ファッションなどアジアになかった新しい世界を導入。
 アジア全域で1800万世帯の視聴者を獲得した。
 この巨大な視聴者のマーヶットにスポンサーの関心は異常に高い。同社広告収入ははトヨタ自動車やソニーなどの日系企業で40%を占めている。
 昨年末に東京で開催催されたアジア広告業界シンポジウムでスターTVのジェームス・グリュフィス社長は「来年打ち上げる第二号衛星には一つの電波に何倍もの情報を詰め込むデジタル圧縮技術を導入する」とアジアIB事業強化を宣言した。
 アジアでの衛星テレビ事業の展開について、電通の高井五郎業務局部長は「アジアの人々が同じニュースやスポーツを見るということは情報の共通化つながる。スポンサーとな
る企業にとってもアジア諸国の需要を掘り起こすボーダーレステレビの魅力はは計り知れない」と熱い視線を注ぐ。世界の国境を越えるテレビの歴史は古くない。スターTV関局年前の89年、ルクセンブルクで欧州連合(EU)主要国出資で通信衛星「アストラ」を使ったテレビ放送が始まった。48チャンネルで主な言語をカバい、受信世帯は4000万を超え、EUの象徴的存在となっている。
 アジアのボーダーレステレビも同地域の一体化を促すことは確実だが、その分各国政府とも神経質だ。
 NHKの衛星放送も一時「文化侵略になる」として韓国で問題視されたここもある。マレーシアなどでは今でもパラボラアンテナがは禁止。中国も咋年10月、西側思想の過度な流入をを危ぐしてアンテナ設置を許可制した。日本もこれまで衛星からCATVに流すことを禁止し、
越境電波を認めていなかった。
 日本でスターTVの電波を直接受信するには、2メートル級ののパラボラアンテナを含め40円の費用が掛かり、視聴者は数千人と推定されている。しかし法改正でCATV局が受信して流すことが可能になれば、一挙に茶の間にアジアの番組が普及するのは間違うない。
 アジアのボーダーレステレビの急増は、規制でがんじからめになっている日本の衛星放送の行方そのものも問うている」との声も出ている。