俳優の勝新太郎が麻薬密輸出の容疑で逮捕されたことをきっかけに、麻薬問題が再び社会問題として急浮上してきました。覚醒剤密売に加えて新たにコカイン乱用も広がりつつあるのが特徴です。とくにコカインは都心部のディスコを中心に密売が行なわれるなどファッション感覚での乱用が目立ちます。麻薬がそうした風潮で広がることに警察庁も危機意識を高めているようです。今年から「国連薬物乱用防止10年」でもあり、市民レベルでも改めて麻薬撲滅の意識改革が必要となっています。
 恐いコカイン汚染
 コカインは2、3年前から日本にも本格的に上陸、東京・六本木を中心に出回り始めているといわれます。警視庁の調べによりますと、全国の税関が押収したコカインは昨年64キロ。前の年の実に4・7倍にも増えています。これはあくまで押収した量だけです。この5月にはコロンビア船籍の貨物船から約42キロの大量のコカインが押収される密輸事件も発党しています。
 日本にコカインが持ち込まれるようになったのは、欧米と比べてみて、倍の値段で取り引きされているからです。コカインが危険なのは、覚醒剤などのように注射器を使わない手軽さにあります。粉末を鼻から吸収するため、注射針からのエイズ感染もないことが人気の秘密ともなっているのです。麻薬取り引きでも金満日本は早くも上得意客となってしまっているようです。
 コカインの最大の供給元は南米のコロンビアです。栽培から製造、販売にわたる巨大なシンジケートが存在、国内では政府の警察や軍の力も及ばない”独立王国”を形成しているのが実情です。主な販売先はアメリカで、高速艇を使ってマイアミ州などの海岸に陸揚げされるルートも確立しています。
 アメリカ政府は大統領の命令のもとに国内の麻薬撲滅運動を展開しているだけでなく、直接シンジケートの拠点つぶし作戦を展開しています。また各国に対して資金源から麻薬を絶つマネーロンダリング(通貨の洗浄)を求めています。つまり麻薬売買によっ得られた資金が金融機関に流れ込まないように阻止するのが狙いです。
 日本の警察庁としても警視庁にコカイン取り締まり専門班を設置、南米の麻薬シンジケートと日本の暴力団との癒着が起きないうちになんとかコカイン汚染を水際で阻止したい考えめようですが、アメリカが巨大な組織を使ってさえ根絶できないシンジケートが存在することも確かなのです。
 覚醒剤に新製品
 覚醒剤による汚染も衰えているとはいえません。警察庁は検挙者のうち、再犯者が5割を超えている最近の状況に警鐘を鳴らしています。また従来は粉末の覚醒剤を水に溶かして注射する方法が一般的でしたが、最近では「金魚」と呼ばれる飲んで効く覚醒剤が多く出回り始めているようです。これはポリエチレン製のミニ容器に溶液を入れて密売しているもので。ジュースなど清涼飲料水にまぜて飲むものです。
 飲みやすいということでちょっとした好奇心から乱用が始まりやすく、注射方式よりいっそう危険が多いのです。
 かつての麻薬乱用者は、「人間の弱さ」に付け込まれてずるずると中毒にいたるケースが多く、暗さが伴っていたものですが、コカインや新製品の覚醒剤にみられるように、最近はスナックやディスコでの男女の出会いがきっかけとなるなど、あっけらかんとした風潮がみられるのが特徴です。
 それだけに一般の人々にとっても、麻薬との接触の機会がより増してきていることは事実なのです。麻薬の恐さは、興味本位で試してみても、最後は深みにはまって麻薬から逃れられなくなることです。それがまんえんしてからでは遅いのです。
 すでにアメリカ社会は異民族間での社会的軋轢も多いことなどから、麻薬問題はかなり深刻な社会問題と化しています。麻薬乱用の拡大は、犯罪の温床ともつながるだけに他人ごとととらえずに、もっと身近な問題として取り組む必要があり、その点を市民社会の構成員としてもっと認識しておく必要があるのではないでしょうか。