クレジットカード発行枚数は1億2000万枚。カード先進国の米国ほどではありませんが、赤ちゃんから老人まで、国民1人に1枚という水準まで普及してきました。都会の平均的サラリーマンなら3、4枚、大学生でもカードで買い物をすることは、もはや常識。もちろん保護者の了解が必要なのですか、最近では未成年にまでカードの使用が浸透、話題を呼んでいます。カードでの買い物は現金を持ち歩かなくてもよいという利便性がある一方で、つい使いすぎるという落とし穴もあります。月末の引き落としができなくなり、ローン地獄へ、という危険も隣り合わせ。主婦にとっても生活から切り離すことができないカードですが、使い方をもう一度見直すことも必要でしょう。

 いまやカード戦国時代
 カードの発行枚数がこのところ急増している背景には、クレジットカードの発行会社同士の競争が激化している状況があります。クレジットカードは大きく分けて百貨店、スーパーなど流通系、銀行系、信販会社系、その他の4つの分野があります。これまでは、それぞれが発行したカードは系列店舗や加盟店、といったように一応使用する範囲が限られていましたが、最近の動きは、「相互乗り入れ」カードが増え、いわばカード戦国時代を迎えているといってよいでしょう。
 カード戦国時代の先鞭をつけたのが、「西武クレジット」や「ダイエーファイナンス」な
ど流通系のカード会社です。昭和50年代のカードといえば、銀行が発行するカードが圧倒的に多かったのですが、これからのカード発行数の伸び率が大きくなるのは、流通系のカードといわれています。
 流通業界がカード普及に力を入れ始めたきっかけは、意外なところにあるといわれていま
す。それは、「丸井」の成功です。「丸井」はクレジット、つまり割賦販売を売り物にした百
貨店でした。従来、割賦販売はどちらかといえば、「暗いイメージ」にあった業界ですが、「丸井」がヤング指向の店舗戦略を前面に打ち出し、”変身”を遂げたことによって大きくイメージチェンジをしました。若者は丸井に足を運び、カードで分割払いの買い物をする味を覚えました。本来、「丸井」の40年代からの経営戦略が今日の成功を導いたのでしょうが、人びとの目にはそうは映らなかったようで、「丸井」の成功はカードを使ったクレジット戦略にある」と受け止めたということです。
 ともあれ、大手百貨店やスーパーなど流通業界がこの数年、カード戦略を重視するようになった背景は、こういうところにあるようです。

 カード社会の落とし穴
 とにかくカードは使いやすくなりました。その一つは海外旅行ブームに端を発したカードの国際化です。カード発行会社が、世界の2大カード発行組織のVISAやマスターズとそれぞれ提携をしたのはもう過去のこと。一昨年前からの動きは、この系列を越えた提携に動きだしたことですか。
 たとえば、従来VISAカードの国内発行は住友銀行系のクレジット会社が独占的に取り扱っていましたが、いまでは日本信販ダイヤモンドクレジット(三菱銀行系)、ユニオンクレジット(第一勧業銀行など)、ミリオン(東海銀行系)といった銀行系のクレジット会社だけでなく、西武百貨店、ダイエーなど流通系の会社もVISA共通カードを発行しています。
 カードの右側に小さくVISAと書いてあるカードが共通カードです。マスター・グループでも同様の勣きがみられます。もはや何枚ものカードを携帯する必要はなく。1、2枚のカードで、ショッピングからキャッシングまですべてできることになってしまいました。
 カードが便利になったことで、われわれはますます現金を必要としない時代に巻き込まれていくことになりそうです。しかし、ここで注意すべきことは、カードはいまや発行するのにほとんど資格をとわれないことと、いうまでもなく、通帳におカネがなくても利用できる点です。また。引き落とし時点で通帳に残高がなくとも電話一本でその月の引き落とし額を分割払いにできることも、大きな落とし穴であるといってよいでしょう。
 カード発行の資格については世帯主に一定の収入があれば、家族にもカードが発行されます。支払いのため設けられた一つの通帳で、何枚ものカードが使われる状況を想像すると少々恐ろしい気もします。ご主人が、「いつもは倹約しているから、今月はパーツと使ってみたい」と考え、主婦も、「よし、このブランドの洋服気に入ったから思い切って」と思い、普通のサラリーマン家庭では、双方がそのように実行するとつぎの月の引き落とし口には、引き落としが不可能となります。当然ながら、その月の支払いはローンでということになります。

 家庭教育の重要性が求められる
 こういうことが年に1回や2回程度なら、家計に支障はないでしょう。度重なったばあい、「しばらくはカードの使用はやめましょう」ということで倹約ができれば問題はないのでしょうが、やはり、カードを使い慣れた人にとって、月末の財布が軽くなったときのカードの魅力はなかなか簡単に忘れられるものではありません。
 カードの誘惑に負けたときの結果はそれこそ大変です。サラ金地獄とまではいいません
が、家計が平常にもどるまで相当の時間がかかることだけは間違いありません。ボーナス
時に赤字を埋めることになるでしょうが、それで家族旅行は中止、買い換えようと計画し
ていた耐久消費財の購入も延期、ということになるのは必至です。
 奥さんからカードを取り上げた経験のあるご主人も少なくないでしょう。また、自分からカードの使用をやめた人もいるでしょう。そうした家庭を少なからず見ています。家族の不満も当然ながら溜まるでしょうし、おカネが原因で家庭崩壊になってしまっては、元も子もありません。
 現在では、こうしたカードの使用をめぐるトラブルは大人の社会に限られているようで
すが、カードの使用が子どもにも広がるようであれば、問題はおカネだけにとどまらず、
青少年の教育問題にも波及することになります。米国では未成年に対する酒、たばこの版
売は禁じられており。店の方でも相手が未成年だと分かると売りません。日本の場合は、必ずしもそうしたモラルが徹底しているとはいえません。カードの普及に伴い。家庭教育の重要性がいまほど求められている時代はないのではないでしょうか。
          共同通信社 伴 武澄