【クアラルンプール発】7月19日、高知市のよさこい国際交流隊とマレーシア日本語協会の合同チーム120人が、クアラルンプール郊外のシャーアラムのBonOdoriでよさこい踊りを披露した。観衆は4万人。日本の盆踊りを見に来たのではない。踊りに来たのである。プログラムが進むうちに夜のとばりが降り、やがて会場は興奮のるつぼに包まれた。
BonOdoriは毎年、空前の規模で開催される「マレーシア」の祭である。主催者こそはクアラルンプールの日本人会であるが、参加者のほとんどがマレーシア人であるところが他のところの盆踊りと様相を異にしている。
会場は松下スポーツセンターのグラウンド。おもしろいのは会場入り口で配られる「うちわ」。4万本しか用意しないのは、それ以上が会場内に入ると警備上危険だと当局から制限されているためだ。
やぐらを中心に出来る4万人の輪は空前絶後である。日本では若者が見向きもしなくなった東京音頭や花笠音頭の曲が終わるたびにうちわが乱舞し、参加者の絶叫が会場をヒートアップする。
そんな熱気の中で、この日のために編曲されたアップテンポの「YosakoiBoleh 2003」の曲が鳴り始め、120人のそろいの法被姿の踊り子隊が会場に姿を現す。「よっちょれ、よっちょれ」の掛け声がとともに踊り子の隊列が4万人の輪の中に吸い込まれる。地元テレビのカメラが回り出すと、会場の興奮は絶頂に達した。
YosakoiBolehはもともと、日本語協会の日本語学習のインセンティブのために導入された「教材」だった。単調な語学教育に踊りの要素を入れて「生徒」たちに日本への興味を抱かせようと考えたのは、日本語協会のリーダーのエドワード・リーさんである。
昨年1月、よさこい踊りのVTRテープがほしいという要請がマレーシアから高知市のよさこい交際交流隊に届いた。とんとん拍子に話が進み、昨年8月、クアラルンプールのショッピングセンターで日マ合同チームによる公演が実現した。よさこい踊りの心地よい興奮と汗を知ってしまったマレーシアのチームは今年再び、公演のチャンスを探った。たまたまクアラルンプール日本人会の事務局に高知出身の松村寿美さんがいたことから、BonOdoriへのよさこい踊り参加が認められ、マレーシアチームは3カ月、累計100回を超える練習をこなし、この日を迎えた。
高知のよさこい踊りが海外にわたったのは一度や二度ではない。しかし、現地の人々を踊りの輪に巻き込んだのは今回が初めてである。ステージと観客席に分かれた「交流」にはない一体感が生まれる。
クアラルンプールのBonOdoriが異文化を見る祭から参加する祭に変貌した時期は定かでないが、マレーシアでは数年前からペナンとジョホールにもBonOdoriが開催されており、BonOdoriはマレー語の単語としても定着しつつある。イスラム教に体を動かす祭がないこともBonOdoriが受け入れられる要素となっているのかもしれない。ただ一度の宣伝広告もないのに、毎年7月の土曜日を楽しみに待つマレーシア人がこれほど多くいることにある種の感動を覚えざるを得ない。
高知チームに合流するため中国寧波市から参加した岩間孝夫さんは「日本の庶民文化も捨てておけへんちゃうか。日本の祭をアジアン・スタンダードにしたらどや」「いや驚いた。こんな平和で享楽的なイスラム教徒もいることをブッシュ大統領も知るべきだ」を興奮気味に語った。
当地のよさこいチームの一部は8月9日から高知市で開かれるよさこい祭に参加する予定で、メンバーたちはマレーシアのよさこいが本場の踊りに溶け込む日を心待ちにしている。