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国債というブラックホールに吸い込まれる個人資産

2003年02月04日(火)
萬晩報主宰 伴 武澄


 政府が2月3日に発売した「個人向け国債」の販売が好調だそうだ。郵便局などで即日完売の動きもあり、大蔵省はさぞホクホク顔であろう。

 マスコミは最低買い入れ金額が一口5万円から1万円に下がり買いやすくなったうえ、「半年ごとの金利見直し」を導入したことが好感されたと評しているが、国債を購入しようとする人々が1万円単位で買うはずもない。しかも普通の10年物国債の発行時の金利は0.8%近辺であるのに、今回の「個人向け国債」の金利は0.09%。100万円で利回りは年間900円にしかならない。利回りは一けたも低いのである。銀行預金より多少はましであるが、ゼロに等しいのは変わらない。

 そんな投資意欲をそそらない条件であるにもかかわらず一部でブレイクしたのは、ペイオフで行き場を失った個人の金融資産が殺到しているだけの話である。

 郵便貯金は半年ごとの複利で金利を計算する国内で最も有利な貯蓄性預金。今度の国債は複利ではないものの、「預け入れ上限(1000万円)」がないから、ペイオフの全面解禁をにらんだ個人の金融資産が「個人向け国債」に雪崩を打ったとしてもなんら不思議ではない。これまで国債の最大の購入者は郵便貯金だったから、国債流通の「中抜き」と考えてもいいのだが、購入金額の上限がないから、国債の新たなはけ口が現れたと解釈してもよさそうだ。

 萬晩報は大分前に、国債の大量発行は将来の金利上昇を促し、景気にマイナス効果を与えると警鐘を鳴らし続けた。しかし幸か不幸か金利はまだ上がっていない。逆に金利はジリジリ低下していった。何のことはない。国家の別の財布である郵便貯金を通じて財政投融資計画が買い、日銀もまた資金供給の名の下に国債買い入れを増やしていたのだった。

 国債を発行して別の財布で買い戻していたのでは金利は上がるはずもない。しかし郵便貯金や日銀といえども無限に国債を買えるわけではない。国債発行が一向に減る気配をみせないなかで、次に起きたことは銀行が競って国債購入に走ったことである。

 4年ほど前、政府による大手行への資本注入があったが、せっかく注入された巨額の資金は産業には回らずに大半が国債購入に充てられた。その時、確かに大手行の財務は急をしのいだのだが、国が借金して大手行につぎ込んだお金が国債に還流したのではマクロ経済的にみれば、あまり意味がない。国家と大手行との間で資金は行って来いの関係になったのだとしたら、背任の疑いすらある。その後も銀行は急角度で国債への投資を増やしていった。

 恐ろしいのは、不景気だ、デフレだと騒いでいる最中にも国民の貯蓄はどんどん積み上げられているということである。個人の金融資産はここ数年で200兆円増えて、1400兆円を超えているのである。そして行き場を失ったお金がますます、国債という国家のブラックホールに吸い込まれていってしまっていることである。

 金利は「景気を推し量る体温計」であるというようなことをどこかで読んだことがある。国債の大量発行による金利上昇は景気にはマイナスではあるが、それでも体温計が正常に機能している証左でもあるはず。大量発行すればするほど金利が下がるという日本経済が直面する事態はマクロ経済の機能不全を意味する。

 「個人向け国債」のあまりの人気に財務省は早くも“増発”をもくろんでいるようだが、とまれ。個人は金融機関のように10年後も買い替えてくれるとは限らない。あまり調子に乗っては鳴らない。「個人向け国債」が売れているのはあくまでペイオフの完全解禁が前提であることを忘れてなならない。

2001年03月22日(木) 金利が消滅するほどの日本経済
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