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過小評価すべきでない企業のV字回復

2002年12月18日(水)
萬晩報主宰 伴 武澄


「トヨタ自動車や日産自動車の9月中間決算は史上最高を記録した。ホンダも最高水準だった。世界の優良企業と比較してもはずかしくない利益水準を確保する企業がようやく現れた。上場企業に利益は40%増だったそうじゃないか。マスコミは景気に対して悲観的すぎるのではないか」
「電機業界はさんざんじゃないの。どうして楽観的になれるのさ」
「確かに電機の業績はレベルが低すぎる。でも何千人規模のリストラをやっているのだから割増退職金だってすごいぜ。そのリストラだって峠を越えたんでないの」
「なにいってんだ。電機業界を含めて日本の景気って輸出依存ばかりじゃない」
「ちょっと待ってよ。日本経済は明治このかた輸出一辺倒でなかった時期ってあるの。いまさら始まったことではないじゃない。なにかすべてが後ろ向きに解釈されているんだよ。明るい兆しが出てもいつだって「しかし・・・・・・」と否定的コメントを付けることにやっきとなっている。自分たちで悲観的な見通しを書いてだめだだめだと、ちょっとやりすぎだよ。最近は」

 1週間前、こんな会話が職場仲間とあった。その相手が「伴ちゃん、読んだ」と毎日新聞(13日)の社説を差し出した。「V字型回復を素直に認めよ」という見出しにわが意を得たりという思いがした。

 新光総合研究所が発表した上場企業の業績まとめによれば、銀行、証券、保険を除く9月中間期の決算は売上高は1%減少したものの経常利益で40%近い増益となった。通期では0・3%程度の売り上げ増で、経常利益は65%の増加を見込んでいる。日本経済新聞まとめでは同71%増となっている。

 毎日新聞の論説委員は「決算の集計は企業の損益を集約したもの。粉飾決算をしているならともかく、政府や各種研究機関の調査・分析より経済の実態を表している。決算の数字こそが事実なのだ。アメリカ経済の見通しや、外国為替市場の着通しなどは予測。事実よりも予測を重視する議論は、不必要に悲観論を強めたり、現状認識を誤らせる」と一刀両断。

 そして「このV字型回復を過小評価すべきでない。したり顔に不安材料をあげつらう景気の分析者の多くが、日本経済の回復に依存する証券会社の関係者という現状は不可解である」と結んでいる。

 12月13日に日銀短観が発表されて「景気改善に足踏み感」「景気先行きに不安」という見出しが夕刊を飾った。よくにみると2本目の見出しは「現状は小幅改善」となっている。短観を子細に読むと「現在の景気は3期連続で改善」しているものの「1月以降に不安がある」という内容である。「実績」と「見通し」のどちらを見出しを取るかにとるかで大いに迷うものだが、悲観的な方が「知性」をくすぐるのだろうか。

 いずれにしてもアナリストとかマスメディアとかは、過去の景気の大きな転機をほとんど見誤ってきた。誤った場合でも、いつも政府のの見通しの甘さのせいにして、責任をとったことがない。景気拡大のときはいつまでも拡大するような楽観論が新聞紙面を飾り、逆に景気後退のときもいつまでも悲観論から抜け出せないでいる。

 筆者の場合、この3月決算で、企業業績が史上最低水準を更新したとき、反転は近いと考えた。理由は簡単だ。利益が限りなくゼロに近付いたから、あとは反転しかないからだ。

 多くの場合、企業業績の足を引っ張ってきたのは本業よりも資産の目減りだった。本業で頑張っても、土地や株式、それに退職金引き当て勘定などの評価損で利益が大きく目減りした。加えて大規模リストラに伴う割り増し退職金だとか、不採算事業からの撤退負担もが企業業績に重くのしかかっていた。

 いま述べたいくつかのマイナス要因のうち、リストラ負担は大方、峠を越えたはすだ。土地の値下がりはまだまだ続くと思われるが、株式の方はどうだろうか。株価配当率はかつてなく高まっている。平均で1・5%ぐらいだろうか。株価によっては年間に3、4%という企業も出現している。底を打ったといえるほどの確信はないが、中期的にみて底値であろうことは誰にでも想像出来る。

 鉄鋼業界はちょうど一年前、2002年度について「粗鋼生産1億トン割れによって大幅減産が余儀なくされる」というような悲観的見通しを発表した。政府や民間の多くの経済見通しも同様の傾向を示した。いまも景気に対する国民的感情はブルー一色だが、足元の実態は必ずしもずべてブルーではない。自動車のようにばら色の業界もあるし、前年度を上回っている業界も少なくないのだ。

 評論家の竹村健一氏が夏ごろのメルマガで「国民的株式下支え運動」を提唱していた。これは企業業績のV字型回復とは別の次元の問題提起だったが、今回は株式市場反転が企業決算上の数字ではっきり裏打ちされている。

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