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 ロンドンより
    
(『世界国家』1950年6月号から転載)賀川豊彦



 ボイド。オーア卿を訪う
 1月16日の日曜日、ボイド・オーア卿を、そのオフィスに訪問しました。オフィスといっても国際平和協会の事務所とあまり違わない手狭なところで、思わず胸を打たれました。それに資金の欠乏も同様で、卿もその点について語って居られました。その時、聞いた話ですが、フランスでは110ケ村が世界連邦に参加を表明する準備中だそうです。中世期「都市国家」が近代国家となったように、「世界連邦」意識が確知に目覚めているから面白い――とボイド・オーア卿傘下の一幹部が私に語っていました。広島が世界都市を宣言したらおもしろいでしょうね。(1月20日)

 日本伝道の座談会
 毎日毎夜、まるで高麗鼠のように忙しく、伝道に飛び回っています、その中で、寸暇を惜しんで勉強をしています。今年のロンドンの冬は予想外に暖かくて、手袋なんか全然必要がありません。ロンドン市民は外套なしで颯爽と歩いています。今日は初めて大きな風が吹いていますが。
 昨夜は英国教会連合書記長カノン・カンペの家で座談会があり、カンタベリー大監督の夫人をも交えた約30名の英国教会の中心人物が集まってくれまして10時過ぎまで、日本の伝道の話がはずみました。
 私の集会は一週間に4日平均で、たいてい各教会連合で催されています。小さい教会でも1000人ぐらいは這入り、いつも満員です。至るところで歓迎され、またみんな喜んでくれています。総選挙でイギリス研究には好都合です。(2月3日)

 アイルランド共和国へ
 3月上旬、アイルランド共和国に参ります。大統領も歓迎してくれるというのですが、入国手続きがなかなかむつかしく、簡単に行きません。実をいうと私はアイルランドが独立国であることを忘れていたのです。もちろん、知ってはいたのですが、つい、うっかりとしていたのです。忙しく独りで飛び回っているとこうした手抜かりができます。アイルランド入国の許可を外務省を通じてGHQから貰って下さい。同時にカナダ、ドイツ、フランス、オランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、スイスの入国許可も貰って下さい。
 拙著「人格社会主義の本質」を翻訳のためご努力下さる由、感謝にたえません。イギリスでの出版はSCM(学生キリスト運動)のヒュウ・マルチン氏が引き受けてくれました。イギリスは聖書の研究が盛んで善い書物が沢山出ています。(2月5日)

 女優よりも人気がある
 毎日、連続しての伝道で、休みは二週間に1回だけ、そのため研究ができないのがやや遺憾です。しかし祈りつつ努力を続けています。英国の社会主義の研究はぜひ完成したいと思って参考書も買い入れました。
 私の集会はどこも大勢の聴衆が集まるので、新聞は「カガワは女優よりも大勢の人々を吸引する」といってひやかして書いています。しかし前もって祈り会の準備がないのが一抹のさびしさを覚えしめさせます。
 英国の神学校もいささか分業になりすぎて、社会に訴える力に欠けていると思います、明日から一週間西イングランドを巡回します。(2月19日)

 平和と好景気と独立と
 私は暴風の如くイギリスを伝道して回っています。マッカーサー元帥の好意により。カナダ及びアメリカ入国の許可が下り、早速、ロンドンの大使館の手続きもすませました。私は英国の伝道を終わり次第、4月には大陸に渡り、ドイツやスカンジナビア諸国を経て、カナダに渡り7月アメリカに入ります。
 アメリカからの通信によりますと、アメリカは不景気で460万人もの失業者が出ているそうで、祈らざるを得ません。イギリスも無理をして回復を急いでいるようで、共産党も平和と好景気と、そして独立(アメリカよりの)を叫んでいます、日本における世界連邦運動の同志の上に祝福を祈ります。(3月4日)



Japan Association for International Peace