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肩書きはずしノウハウを伝えあう記者と編集者のサイトを提案(2)

  『新聞研究』1998年6月号から一部修正して転載

1998年06月10日(水)
共同通信社記者 畑仲哲雄

畑中さんへ

 前日のコラム「肩書きはずしノウハウを伝えあう記者と編集者のサイトを提案(1)」の続きです。

 つながりを生かして不正暴いた市民団体

 話は少々脱線するが、数年前から官官接待が大きな話題になっている。報道各社もこぞって税金の無駄遣いを批判する論陣を張ったが、ずっと気になっていたことがある。それは、食糧費などの公的情報を取った多くが、市民のボランティア部隊だったことだ。

 彼らは特殊なことをしたわけではない。情報公開制度に基づく市民的権利を行使したのである。しかも、グループ同士の横のつながりを生かし、ノウハウを伝えあいながら公費の乱用を次々暴いていったあたりは、どこか、アリゾナ・プロジェクトに似ていないだろうか。

 そうした市民グループの中には、ジャーナリストのあり方を批判する声が強い。「情報公開法を求める市民運動」の奥津茂樹事務局長は『メディアと情報公開』(花伝社、97年)のなかで「本来はマスコミがやるキャンペーンを、一般の市民やボランティア的献身に委ねることになってしまう」と書いている。平たくいうと《あなたたち記者は、素人集団に抜かれたのですよ。そんなことではいいのですか》と、私たち記者たちの存在意義を憂慮しているのだ。

 奥津氏をはじめ、官官接待を追及した市民運動団体の多くは、記者たちに情報公開を使って調査報道をすることを強く望んでいる。

 だが、記者たちの多くは記者クラブにからめ取られているのが実情だ。

 クラブは外から見れば情報優遇装置だが、内部にいるとキツネとタヌキの化かし合い的な面もある。昼間は大っぴらに聞けない情報は、夜回りで得なければならない。発表が相次ぐ昼間にクラブを空けて「情報公開に行って来ます」というわけにはいかない。

 情報公開などよりも、当局とのパイプを太くしたり、未発表の情報やヒントを教えてくれる夜回り先を開拓しているほうが上司の覚えもよい。

 しかし、私たちは牧歌的な時代を生きているのではない。いやな言葉だが、私たちの世界に「マルチメディア」が流れ込んできている。新聞経営者たちは、それが業界にどんな打撃を与え、どんな新商売ができるのかといったことに頭を悩ませている。そして、これまで言論活動と無縁だった巨大資本がこの業界に大挙して進出してきた。

 海外に目を向けれると、ホワイトハウスや、EU、英国政府も《電子政府》のような公的情報の電子データベースをネット上に公開し始めた(EU =http://europa.eu.int英国の電子政府 = http://www.ccta.gov.uk/)。それに呼応するように欧米の記者たちが、コンピューターで公的情報を検索・分析するテクニックを互いに教えあっている。

 日本の記者だけが、時代に取り残されているような印象を私は抱く。

 もう1つの公的情報

 私たちの本来の仕事は、公共の福祉に関わる情報(公的情報)を手に入れて、わかりやすく正確に、しかも早く伝えることである。  公的情報は大きく分けて2種類ある。1つは記者クラブや官報、企業報などで発表される情報。もう1つの公的情報は、市民グループが報公開制度で引っぱり出したような情報だ。

 従来の記者活動では、発表される公的情報と、それに付随した夜回り情報に軸足をおかれすぎて、後者の公的情報をおろそかにしすぎてきたのは否めない。

 その反省は、立花隆氏の田中角栄金脈報道のときからある。当時の立花氏は自治省政治資金課に日参し、請求すれば当たり前に閲覧できる公的情報を丹念に拾い、精査した。この手法を使えば、だれでも金脈の全ぼうをつかめたはずだが、当時の記者はそれを怠った。このたびの官官接待と同じ構図だ。

 今後、記者が、立花隆氏や市民団体から"抜かれ"ないようにするには、請求すれば得られる公的情報をきちんと請求することかもしれない。

 幸い、昨今の市民団体や立法府の動きをみていると、公的情報が広く公開される方向に進んでいる。欧米にならって、それが次々と電子化されていくのは時間の問題だろう。昼間に記者クラブを抜け出して役所に足を運ばなくても、ネットを通じてできるようになれば、しめたものである。

 先人たちは、なんの法的根拠もないところから、苦労して記者クラブを作ってくれたのかもしれない。だが、情報公開が進めば、従来型の記者活動だけでは太刀打ちできなくなる場面が、いま以上に増えることは必至だ。そんな時代に、私たち1人ひとりの記者になにができるだろう。

 まず手弁当で小さな作業から

 一足飛びにIREのような組織を作るというのはあまりに現実離れしているが、冒頭で書いたように「○○社の」という肩書をはずして、小さな勉強会を催すくらいはできるのではないだろうか。

 遠く離れた場所で働いている専門の違う記者となら、日々の仕事で競合することもない。雑誌編集者やフリーライターにも参加を求めるのもいい。電子メールを使えば、距離や時間の制約は受けずに情報交換ができる。肩書をはずしたジャーナリスト同士で非営利サイトを運営することも不可能ではない。

 最初はデータベースの使い方や、すでに明らかにされている情報源の所在を教えあう程度でもいい。小さな作業だからこそ、手弁当で始められる。

 こうした趣旨で、すでに何かを始めている記者・編集者、あるいは、やってみたいと思っている記者・編集者がおられるようなら、メールをいただきたい。


 畑中 哲雄氏は共同通信社大阪支社ラテ部記者。1997年からホームページ Press Roomを主宰。辛口コラムと内外の報道機関、統計などへのリンク集が好評です。OfficialMailは press@ing.alacarte.co.jp

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