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やがて金券ショップが格付けする平成商品券の価値

1998年10月11日(日)
萬晩報主宰 伴 武澄


あなたは目の読者です。

 窮余の景気対策のとして商品券を国民に配る構想が浮上し、是々非々の論争が始まっている。筆者の職場では約1カ月前から話題になっていた。もちろん景気対策などというちんけな発想ではない。ことのおこりは香川県引田町の商工会に勤務する友人からファックスしてきた京都新聞のコピーだった。

 「伴ちゃん、ひさしぶりやね。ぼく前の職場辞めて引田町の商工会におるねん。いまファックスした件なんやけんどな、うちの町でもやりたいんや。なんぞ情報あったら教えてほしいねん」

 ●京都府園部町で始まった商品券販売
 京都新聞のコピーは、京都府園部町で町内だけで使える商品券を発行した経緯が書いてあった。園部町は野中官房長官のお膝元で、実弟が町長を長年やっている。町主宰のお祝い事の引き出物に商品券を送ることをことを昨年から始めた。あまり役に立たない引き出物よりは、商品券の方が実質的だし、商店街の振興にもなるというのが発行の背景にある。町民の結婚式や葬儀などでも活用してもらおうと、ことしからは商品券を一般にも販売する。9月町議会で正式決定した。京都に住みながら不覚にしてこの記事を読んでいなかった。

 「使用地域を町に限定しているけど、これって町の通貨になるんじゃないの」
 「だけど、そんなことよく大蔵省が許したな」
 「新聞に書いてあるけど、官房長官を通じて大蔵省にご意向を聞いたら、無理ですといわれたらしいよ」
 「それでもやるってところが、けっこう骨っぽい」
 「やっぱり身内に官房長官がいたからやれたんじゃないか」

 そんな議論をしていたら、タイミング良く山口支局から「敬老慰労金の代わりに商品券」という原稿が「敬老の日」向けに届いた。記事を書いた記者は「東京都の港区や台東区でもやっているそうなのですが・・」と電話してきたが、当方は盛り上がっていたから、「いや、これはおもしろいから全国流しだ」ということになった。結果はけっこう多くの地方紙の紙面を飾ることになる。

 ●商品券は金券(有価証券)である
 園部町では、町が商品券を販売する動きで、山口県での敬老慰労金は自治体が贈与する金券(有価証券)である。どちらにしても地域限定の使用となっているが、他の地域の業者が受け取りを歓迎したらどうなるのだろう。中国では香港ドルの流通を認めていないが、広東省を中心にホテルでも商店でも受け取りを拒否しない。拒否しない返還後の情勢は知らないが、返還前までは、中国元による支払いより歓迎された。

 おかげで、香港ドルの3分の1は中国で流通するという事態が起きていた。現代の通貨(紙幣)は、金や銀の兌換性がない。あるのは発行体である国家や政府への信用だけである。いまの日本でそんな信用がある自治体があるのだろうかという議論もあろうかと思うが、国によって発行する国債の金利が違うのは、信用度の格付けが違うということである。自治体の信用度が同じでいいはずはない。

 借金の多い少ないや、返済能力の高い低いは当然あるはずだから、自治体の発行する地方債だって金利が違うのが当然である。商品券発行という園部町での小さな出来事からいろいろなことを考えた。結論がある話でないことはいうまでもない。

 ●小渕政権は日本に二つ目の紙幣を流通させるのか
 月が変わると、今度は国が商品券を発行するという風向きとなったから驚いた。だが、萬晩報は「自治体が発行するのとはちょっと違うのではないか」と考える。「減税をしても貯金に回ってしまう」という議論は数年前からあった。そんなことから公明は「商品券」というアイデアを持ち出した。

 国家にはれっきとした通貨がある。以前09月05日「ドル紙幣はアメリカ政府に対するニューヨーク連銀の借金証書」で説明したように「紙幣(notes)」は国家の信用をもとに流通する疑似通貨である。国家が商品券を発行する行為は、二つ目の「紙幣」を発行するに等しい。景気のためとはいえ、「日本銀行券」という紙幣を持ちながら、商品券の発行をするのは自ら政府の権威を自ら否定するようなものである。

 国家は、百貨店やスーパーと違うのだ。園部町が商品券を発行するのと訳が違うのだ。

 先週、大阪で乗ったタクシーの運転手さんに「どう思うか」聞いたところ、即座に「町の金券ショップが繁盛するのとちがいまっか」ときた。そういうことですよ。小渕恵三総理大臣閣下、商品券配布の効果は知れている。金券ショップをもうけさせるだけである。

 それより、やがて金券ショップで売られることになるだろう。「平成商品券」の値段が「伊勢丹」の商品券より安かったら小渕恵三首相はどう申し開きをするのだろうか。

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