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使い捨てアルミ缶は果たして環境問題か

1998年03月29日(日)
萬晩報主宰 伴 武澄



 ●ビール業界の序列を変えたスーパードライ
 1990年代の産業界での最大の出来事は、アサヒビールのスーパードライがキリンのラガーのシェアを抜いてトップに立ったことだと思う。戦後の日本でトップシェアが入れ替わったのはほとんど初めてといっていい。特に酒販という古い商慣行を色濃く残す業界では起きたことに驚かざるをえない。

 流通食品業界を担当していたときに聞いた。「アサヒビールのシェアが7%を切ったときほど悲しかったことはなかった。北海道なんて卸がアサヒを取り扱ってくれないんですよ」。このままアサヒビールが歴史から消え去ってしまうのではないかと思ったという。

 10年経ってみると状況は一変した。スーパードライが歴史を変えたと思っている人が多いと思うが、筆者はディスカウンターの登場が酒販の形態を一変させ、アルミ缶が消費者の購買行動を変え、スーパードライ快進撃の追い風となったと考えてきた。

 かつてどこで買っても価格が変わらなかったし、ビンは重たかったから買い物かごに入りきらなかった。だからビールは町の酒屋が配達してくれる商品と相場が決まっていた。ところが容器がガラスからアルミ缶に変わって流通そのものが変わった。他の食料品同様、持ち帰りが可能な商品に生まれ変わった。スーパードライは業務用ではなく、缶ビールが売り物だったことを思い出して欲しい。

 ●ビールも水もジュースも同じ
 ディスカウンターが目玉商品としてビールを取り扱った。安くなった背景には輸入ビールの存在が欠かせない。1993年当時、河内屋の樋口社長に聞いたことがある。350ml、24本入りの輸入価格はいくらなのか。答えは明快だった。「1箱7ドル」。3年後、ファミリーマートに聞いた話では「カナダ産ビールは1箱4ドル」だった。24本入りだ。1本20セント足らずだったことに驚いた。

 日本の缶ビールの工場出荷価格はだいたい60円弱が相場となっている。アメリカとかカナダのビールのコストは日本の3分の1なのだ。ダイエーがかつてベルギーから「ベルゲンブロイ」というビールを輸入、店頭価格128円で販売したことがある。中内功社長は「128円でも利益がある」と主張したが、ビール各社は「80数円のビール税を負担したら赤字販売だ」とダイエーの真意を疑った。本当に国際的なビールの価格を知らなかったのだとするとビール業界はなべて井戸の中の蛙だ。

 所詮、ビールなんてものはそんなものだ。缶入りの清涼飲料が110円しているが、だれでも不思議に思うことは「なんで水とオレンジジュースが同じ価格なの」という実態である。コーヒーであろうとジュースであろうと中味は5円もしない。ビールも同じである。一番高いのは小売店の手取りで、次はアルミ缶代である。アルミ缶は表面にいろいろ印刷すると20円弱のコストがかかっている。中味の5倍から6倍のコストである。日本の消費者は便利さを買う代償として、多大なコストを容器に支払っていることを明記すべきである。

 ●アルミ缶は一過性の使用でしかない
 ガラス瓶は回収を前提としていたが、アルミ缶は使い捨てである。アルミ缶が環境問題として浮上した。化粧品のコストで一番高いのは容器だということはだいぶ前からいわれてきた。だか化粧品は何ヶ月も使う。清涼飲料とかビールの容器は一過性である。アサヒビールの躍進は日本が変わった数少ないひとつの象徴として肯定したいのだが、アルミ缶は問題である。アメリカは別として、欧州ではアルミ缶のビールは輸出用が中心である。国内消費の多くはいまだにガラス瓶だ。

 アルミ缶は環境問題であると同時に日本ではコストの問題でもある。      

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