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ナベツネ氏の不可解な辞任に沈黙するメディア(2)
2004年08月21日(土)
萬晩報通信員 成田 好三
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プロ野球界全体を統括する立場にある根来泰周コミッショナーは同じ日(8月16日)にこんな発言をした。裏金問題の調査に関して、「調査能力に限界があるし極めて難しい。過去は過去としてそのままにしておく」。渡辺氏の「たかが選手の分際で―」をはるかに超える暴言である。
根来氏は、極めて政治色の強い法務・検察官僚だった。プロ野球界にも、渡辺氏の傀儡として送り込まれた人物である。そうだとしても、現実に起きた裏金事件を調査せず、過去の調査も行わないと即座に断言するとは、いったいどんな見識をもった人物なのだろうか。過去を(現在も)清算せずに、どんな未来をつくろうと考えているのだろうか。自らの地位の安泰以外は何も考えない人物なのだろう。渡辺氏が球界の表舞台を去った後も、この人物は渡辺氏の傀儡であり続けるつもりだろう。
■メディアの不可解な沈黙
渡辺氏のオーナー辞任発表は実に絶妙なタイミングで設定された。球界再編を巡る混乱の中で、1リーグ制の旗振り役であった渡辺氏の辞任は、当事者である読売を除く全国紙各誌がトップニュースとして扱った。読売は1面左肩で4段見出し扱いにした。TVでもNHKはニュースのトップに位置付けた。
長年にわたるプロ野球界の病巣であった裏金の事実が発覚したことによる、球界の「ドン」の辞任である。球界再編の帰すうを決する9月8日のオーナー会議まで1か月を切っている。1面トップで扱う価値のある重大ニュースだとの認識があってのことだ。しかし、彼らに価値判断はたった1日で変わった。翌日から彼らの関心は別のテーマに向かったからである。
渡辺氏の辞任が発表用されたのは8月12日である。翌13日にはアテネ五輪の開会式が行われた。新聞やTVはアテネ「狂想曲」を激しく奏で始めた。柔道の野村忠宏、谷亮子、競泳の北島康介、体操男子団体の28年ぶりの金メダル獲得と、メディアはアテネに照準を絞ってしまった。誰も渡辺氏の辞任とその背景にある問題など気にしなくなった。渡辺氏の辞任は、アテネ五輪での日本選手の金メダルラッシュの中で忘れられた。各メデイアとも読売のメディア戦略に乗ったようである。
現実は、アテネ狂想曲の陰で忘れられてしまう程度のニュースではないことを、読売自身が自ら行った人事で示している。読売は事件の責任を取らせるとして球団社長、球団代表を解任したが、球団代表の後任は、東京本社運動部長を充てた。アテネ五輪の開会式前日に、読売五輪取材の現場指揮官を交代させたのである。イラク戦争開戦前日に、米国が現地司令官を解任したようなものである。
読売は、アテネ五輪に社運をかけて取り組んでいる。JOCの公式スポインサーになり、印刷工場を各地に新設するなど巨額の設備投資を行っている。その読売が、アテネ報道の現場指揮官を直前に交代させてまで、球団体制の建て直しを図っている。
読売のライバルである朝日は、渡辺氏が押し進めてきた球界再編・1リーグ化に異議を唱えてきた。その朝日は、先の西村氏のコラムで、球界の内部文書で裏金の存在を暴露している。しかし、朝日や西村氏は何故、この事実をストレートニュースとして扱わなかったのだろうか。その理由が分からない。
渡辺氏の辞任と「200万円供与」事件の意味は、球界で常識になっていた裏金の存在を、当事者、しかもプロ野球界の盟主を自認する読売自身が認めたことである。その事実を読売はもちろん、アマ・プロの野球界ばかりか、メディア界までもが加担して矮小化しようとしている。アテネ五輪に出場しているプロ選手24人にしても、ドラフトに関して裏金とは無関係だと言える選手はどれだけいるだろうか。
■国税庁に「保護」させてきたプロ野球界
裏金についてはもう一点だけ指摘しておく必要がある。球団と選手との入団契約の過程で、正規の契約金以外の金品が存在することは、違法行為に当たる。双方とも税金の申告などしようもない金品であるからである。
読売は7月27日付の連載「野球再生」(1)「パ・リーグ 補填も限界」の中で、近鉄の40億円など親会社が球団の赤字を補填している実態に触れた中で、こう書いている。
「こうした補填は本来なら、子会社への寄付金とみなされ、親会社は補填額の大半を課税される。ただ、プロ野球の場合は(19)54年の国税庁通達で、赤字(欠損)補填金が広告宣伝費の性質をもつ場合は全額経費として認められている。」
プロ野球界は、国税庁から税金面で特別な保護を受けている業界なのである。戦後、国民的娯楽を提供する業界として認められ、さらに当時の業界人の強い政治力によってこの「保護通達」ができたのだろう。そうした特別扱いを受けている業界が、赤字で球団経営が成り立たないと言いながらも、巨額の裏金を横行させているとしたら、これは間違いなく悪質な犯罪行為である。
■辞任カードですべてを矮小化、隠蔽するのか
読売自身が明らかにした裏金の存在という球界の病巣を、手術で除去することではなく、メディアも含めた関係団体がよってたかって隠蔽し、少なくとも矮小化している。渡辺氏の辞任カードとその絶妙なタイミングは、それでだけ効果的だった。しかし、そんなことをしているプロ野球界は、現行のままの歪な構造の2リーグ制を維持しようが、1リーグ制に変わろうが、展望ある未来など切り開けるはずもない。(2004年8月20日)
成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/
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