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アメリカ諜報機関の一断面
2004年08月05日(木) ワシントン在住ジャーナリスト 堀田 佳男
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民主党の大統領候補ケリーは2002年10月11日、連邦上院の、ある採決で賛成票を投じた。イラク戦争をはじめる権限を、ブッシュにあたえるかどうかの採決だった。これは事実上、ブッシュに先制攻撃を許すための法案で、77対23で可決されている。下院でも296対133で可決され、ブッシュは議会からのバックを受けて、胸をはってイラク戦争をはじめたのである。ケリーの副大統領候補、エドワーズも「OK」サインをだしている。
本来であれば、共和党ブッシュに楯突くため、ケリーもエドワーズも「NO」を出すべきだった。民主党の重鎮、ボブ・バードやエドワード・ケネディは戦争反対を唱えてブッシュに「NO」を突きつけている。
戦争支持に回ったケリーは、あとになってブッシュのイラク占領政策を失政と批判する。これは矛盾である。ケリーの言い訳は、法案採決直前に諜報機関がまとめた報告書をみせられ、そこにイラクの大量破壊兵器についての記載があったので賛成に回ったというものだ。
ブッシュもケリーも諜報機関の情報に「素直に」従ったためとの立場である。ブッシュは最近、開き直って「イラクに大量破壊兵器がなくても、攻撃する権利があった」などと嘯(うそぶ)いているので、背後にこっそり回って背中に頭突きをぶちかましたくなるほどである。
諜報機関といえば、今週ちょうど連邦捜査局(FBI)の法律顧問スパイク・ボーマンという人物に会った。彼はテロ問題で最初から白旗をあげているかのように脆弱で、FBIや中央情報局(CIA)、国防情報局(DIA)といった諜報機関が情報を共有してこなかったことが“大事件”を誘発した一因だといった。これは縦割り行政の弊害である。
日本でも、たとえば外務省の情報が内閣府に行きわたることはないので、役所はどこへいっても省益を守りたがるものなのだ。それにしても、FBI職員といえばこれまでずっと大きな顔をしてきたものだが、その顧問が弱気な姿をみせたことに、多少驚いた。いまのアメリカの諜報機関は自信を失い、崖っぷちにたった枯れ木のようでさえある。
どの諜報機関も9.11を境にエージェントの数を増やしているはいるが、アタマ数をそろえれば事足りるというわけでもない。技術改革も必要なのだ。ボーマンは、興味深い話を披露してくれた。
「9.11の実行犯19人のうち、13人が同じ電話番号からフライトの予約をし、同じ住所を使っていたことがわかった。ただ、事前に彼らをマークしていたとしても、攻撃を阻止できるわけではなかった」
インターネットでクレジットカードを使い、その番号からさまざまな個人情報を割りだすことは、今の段階ではできないという。私はFBIであれば、すでにそれくらいのことは「左手で」できると思っていた。
「クレジットカード番号から特定人物の銀行口座やその他の情報を得るためには数学のアルゴリズムを使った最新技術が必要になる。これは政府の諜報機関の力だけではできない。民間のIT技術に頼らざるを得ない」
民間企業のなかには、クレジットカードで購買された物品を分類し、たとえばサーフィン用品を多く買う人をサーファーと特定し、新製品の紹介サービスを開発、実施しているところもあるという。
開かれた社会に住んでいるかぎり、テロ攻撃を100%阻止することは不可能である。そうかといって、はじめからお手上げ状態でいるべきではない。現段階でやるべきことを着実にこなすことが大切である。それには官民共同の技術開発がかかせない。諜報機関の復活はとうぶん先になりそうである。(文中敬称略)
堀田さんにメールは mailto:hotta@yoshiohotta.com
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