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暑い夏の年金講座(1)−年金と出生率

2004年07月26日(月)
萬晩報主宰 伴 武澄

 2003年度の出生率が1・29であることが分かり、参院選前の日本ではいろいろな意味で大騒ぎとなった。「出生率の動向が将来の年金のかぎを握る重要な要素だ」といわれては関心を持たざるを得ない。そう思っていたら、26日付日経新聞朝刊に興味深い記事が掲載されていた。

 香港やシンガポールなどかつてNIES(新興工業国・地域)と呼ばれた国々でも出生率が急低下して、昨年度はそろって日本を下回ったというのだ。シンガポール1・25、台湾1・24、韓国1・17。香港にいたっては0・925と1を割り込んでいる。驚くべきことは、4カ国の出生率は1990年にはすでに2を切っていたということである。

 まさに経済的躍進をおう歌していた時代から出生率の低下が顕著だったことは筆者にとって一つの重大な発見だった。日本の出生率低下に対して政治家もアナリストたちも「将来への不安が増大しているから」などと訳知り顔に語っていたが、NIES諸国の出生率の有り様を見るとそんな分析は怪しいものだといわざるを得なくなるからだ。シンガポールや香港などには日本のような公的年金はないから、日本のような「将来への不安」はありようがないのである。

 もっと不思議なのは、NIES諸国に公的年金がないからといって老人たちが飢え死にしたという話を聞かないことである。年金制度はあった方がいいに決まっている。だが公的年金がなかった時代の日本だって老人たちは飢え死にしたわけではない。苦しいながらも家族とか地域が協力しあってなんとか生きていたのである。

 もちろん大家族制度が残っていた時代と核家族化が進んだ時代とを同列に比較することはできないが、最近の日本での年金をめぐる議論をみていると、年金という制度が本当に人々を幸せにするのか。そんな疑問も湧いてきた。

 国内的に見ても出生率と将来の年金とはまったく関係ないことも分かってきた。日本の年金不払い率のワーストワンは沖縄県のある島であることを先日のNHKで放映していたが、映像を見ているかぎり実にのどかな雰囲気で年金問題に対する切迫感はほとんど感じられなかった。

「そんなものもらわなくとも生きていける」。島人の反応からそんな印象すら伝わってきた。出生率を調べてみたら日本の自治体でいちばん高いのが沖縄県なのである。多良間村では3・14と日本平均の2倍以上なのである。

 暑い夏ではあるが、年金に対する素朴な疑問を考え、シリーズでみなさまにお伝えしていきたいと思う。どこまで続くか分からないが、期待していただきたい。

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