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「東アジア野球リーグ」を国家戦略に

2004年07月22日(木)
萬晩報通信員 成田 好三

 既に制度疲労があらわになった現行の2リーグ制を存続させても、プロ野球に未来はない。一方、読売の渡辺恒雄オーナーらが推し進める1リーグ化も、一人勝ちした読売への依存度を強めるだけで、将来への展望が開ける道ではない。では、どうしたらいいのか。

 6月28日付毎日新聞「論点」のページでは、1リーグ制の是非を識者に語らせている。その中で北矢行男氏(多摩大教授)は、プロ野球は1リーグ化し、米国の大リーグ傘下に入るべきだと提案している。1リーグ制は必然の流れ、プロセスのひとつだとした上で、こう述べている。

 「いずれは大リーグとの一体化を軸とした球界再々編成が起こるだろう。私が予測する日本のプロ野球の将来は、1リーグ制がいずれ8球団となり、メジャーのア、ナ両リーグに4球団ずつ加わり、ファーウエスト(極西)地区を構成する、というものだ」

 北矢氏は、大リーグ傘下に入ることによって、プロ野球界を支配する読売の一極構造も打破できるというが、はたしてそうだろうか。野球の本家である米国が、日本を大リーグと同格に扱うだろうか。大リーグの球団の本拠地はほとんどすべて米国内にある。カナダに2球団あるが、そのうち1球団(モントリオール・エクスポス)は、経営難から来季はカナダから米国内に本拠地を移す可能性が大きい。

 大リーグはそれでも、ア、ナ両リーグの勝者による優勝決定戦を「ワールドシリーズ」と名付けている。多くの米国人にとっては、「米国一」は、「世界一」と同義である。そんな世界観をもつ米国人が、日本の野球を大リーグと同格であると認めるとは考えられない。プロ野球が大リーグに擦り寄ることは、北矢氏の考えとは逆の結果を生むことになる。

 プロ野球は大リーグのマイナーリーグ化し、日本人選手を大リーグに供給する補完的リーグになる。日本の野球市場も、大リーグ市場に取り込まれることになる。現在でも、大リーグは、日本を含む東アジアを選手供給の場であり、将来有望な市場と位置付けている。ヤンキースが今季の開幕戦を東京で開催したことは、そうした戦略の一環である。大リーグにとって、プロ野球が米国に軸足を置くことは、願ってもないことである。

 ここからは筆者の提案である。現行の2リーグ制は破綻したのも同然の状態なのだから、1リーグ制移行はやむを得ない選択である。その上で、米国の大リーグではなく、東アジア各国の野球リーグと連携することである。「東アジア野球リーグ」を立ち上げることである。球界の時代遅れで歪なシステムを抜本的に改革することが、当然ながら、その前提条件になる。

 東アジアには、米国に劣らないほどの野球人口と野球市場が存在する。日本以外にも、韓国、台湾には長くプロリーグが存在してきた。中国にも一昨年、北京、上海などを本拠地にした4球団によるプロリーグが誕生した。この4カ国のプロリーグが連携し、統括組織である東アジア野球機構のもとでリーグ戦を行うのである。

 東アジアには、米国にはない有利性がある。米国の周辺には米国と対峙できるほどの野球市場が存在しない。北米、中米の国家はすべて、経済的には米国の「衛星国」である。これに対し、東アジアは1カ国が「一人勝ち」した地域ではない。韓国、台湾の経済力は大きくなった。中国、特に沿海部の経済成長は驚くべきものがある。野球市場を支えるに足る十分な経済力を、東アジアの4カ国は既に保持している。

 東アジアリーグは2段階でステップアップすべきである。第1段階では、日本、韓国、台湾のリーグがそれぞれ国別でリーグ戦を行う。その上で3カ国のリーグ優勝球団が、東アジア優勝決定シリーズを行って、「東アジア一」の球団を決定する。数年後には中国リーグが参加することは、当然の合意事項になる。

 中国リーグも参加した第2段階では、東アジア4カ国のリーグは、米国の大リーグと同様に、一体となったリーグ戦を行う。米国の大リーグでは、東、中、西の3地区に分かれているが、地区内の球団だけでリーグ戦を行う訳ではない。各地区の順位は地区ごとに決めるが、他の地区の球団とも試合を行う。ア・リーグでは、松井秀喜の所属する東地区のヤンキースと、イチローのいる西地区のマリナーズは、地区は違うが年間何度も試合をする。そうしたリーグ運営を行えば、日本リーグは日本中心に試合をするが、韓国、台湾、中国の球団とも試合ができる。

 第一段階、第2段階とも、東アジア野球機構は、米国の大リーグに対して、真の「世界一決定戦」の開催を要求する。ほとんど米国だけの「ワールドシリーズ」は、世界一決定戦ではないのだから、東アジアリーグの要求は筋が通ったものである。しかも、東アジアの巨大な市場を敵にまわすことは、彼らの選択の枠外になるだろう。

 そうした段階を踏むためには、東アジアの野球を統括する組織が必要になる。その機構、東アジア野球機構は当然ながら、国家を超えた公平、公正なシステムの構築が前提になる。日本以外には通用しない、プロ野球の「鎖国的システム」では機能しない。参加各国に共通するシステムを構築すればいいのである。

 東アジアリーグは、野球、スポーツの分野を超えた大きな有益性をもつ。冷戦後、米国の「一人勝ち」の時代の後は、アジア、とくに中国を中心とした東アジアの時代になるだろう。東アジア経済は既に巨大なものになっている。しかし、日本、韓国、台湾、それに中国を結ぶ「絆」が見つかっていないのが現実である。同じ漢字文化圏でありながらも、日本と中国、韓国は第2次世界大戦の後遺症をいまも引きずっている。

 日本の保守政治家の「不用意」発言と、それを利用した中国、韓国政府の反日キャンペーンがいまも続く。中国と台湾は経済的に強く結びついたが、政治的、軍事的な緊張関係が続いている。

 東アジアリーグは、各国の文化的結束を強める「共通文化財」になる可能性がある。米国が、大リーグなど4大スポーツによって、米国民の共通意識を維持していることは確かなことである。ならば、東アジアも野球によって、共通意識を醸成できるのではないだろうか。

 中国が参加する、あるいは中国が近い将来に参加する東アジアのスポーツリーグほど、経済界にとって魅力的なスポーツイベントはない。中国を含めた東アジアリーグ構想は、1リーグ化を応援する奥田碩日本経済連会長をはじめとする財界にも大きなメリットがある。

さらに言えば、プロ野球がその将来を米国に求めるのか、あるいは東アジアとの連携に求めるかの選択は、日本がこれから国際社会で生きていくための軸足をこれまで通り米国におくのか、東アジアにおくのかの、象徴的選択にもなる。東アジア野球リーグ構想こそ、プロ野球界だけではなく、財界、政界も含めて、日本の国家戦略に位置付けるべきものである。(2004年7月21日記)

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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