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ブリスベン発パーマカルチャーの挑戦
経済的にも環境的にも持続的な社会を

2004年03月16日(火)
萬晩報通信員 廣田 裕之(やすゆき)

この日曜日に福岡市内で行われた、ジル・ジョーダン(Jill Jordan)女史の講演会に参加してきた。オーストラリア北東部、ブリスベン近郊のマレニー(Manely)在住で、パーマカルチャー(Permaculture)と呼ばれる持続可能な農法や生活スタイルを地域の仲間と確立し、地域通貨システムLETSを同国で初めて立ち上げた人である。

マレニーはもともと林業が基幹産業であったが、乱伐のために森林がなくなってしまった。その後元森林で放牧を行っていたが、大規模農場との競争に勝てず、1970年代には地域の経済は完全に疲弊していた。中心街はゴーストタウンと化し、人口流出もはなはだしかった。そんな時代に、殺伐とした都市部の生活に嫌気がさした当時の若者(ジルもその一人だったのだが)たちがこの地域に住み着き、有機農業や環境に配慮した生活を模索し始めたのだ。

とはいえ、彼らは地元にもともと住んでいた住民たちから隔絶する形で自分たちだけの閉鎖的なコミュニティを作ったわけではない。むしろ土着の住民とともに生活し、自分たちが目指しているオルターナティブのよさを体験して知ってもらうことで、土着の人と一緒に新たな生活スタイルを作ってゆくことになる。

たとえば、有機農法で作られた農産物を扱うオーガニック・ショップを開設したところ、当初は地元の人はこの店の存在意義がわからず非常に懐疑的であったが、シャンプーやジャムなどを入れるために空き瓶のリサイクルを開始したところ地元の人も空き瓶を持ち寄ってくれるようになったり、有機野菜のほうが普通の野菜よりも売れることがわかると土着の人も有機農法に切り替えるようになった。

彼らの動きは、農業だけにとどまらない。住宅や森林再生においても、人間にとっても自然にとってもやさしい方法を模索している。たとえば住宅であれば、地域の気候を十分考慮した上で夏涼しく冬は暖かく過ごせ、水資源が限られた地域であれば生活排水を家庭菜園への農業用水として自然に再利用できるような仕組みが考えられている。

環境保護というと砂浜に落ちているゴミ掃除や植林など各人の努力が必要な事業が思い出されるが、それ以上に大切なのは環境保護に無理なくごく自然に取り組めるような社会的しくみや建築様式だと教えられた。

また、地域住民のさまざまな需要を満たすため、学校やFMラジオ、さらには地域金融機関としてクレジットユニオンなどが協同組合という形で創設されたことにも注目したい。一般的に起業というと営利企業の創設を思い浮かべがちだが、営利企業は経営の最終目的が株主への配当の最大化であるため、利益増大のために従業員に無理を強いたり、地域を犠牲にすることもあり得る。

しかし、協同組合の場合は必ずしもその必要がなく、あくまでも組合員が自分たちの力で運営してゆく形を取るわけなので、組合員の理想に沿った形で経済運営ができるのである。グローバル化した資本主義のさまざまな弊害を考えると、こういった形で具体的に経済面でもオルターナティブを作り上げてゆく必要があるのではないか。

実は、オーストラリア最初のLETSもそういった社会的関心から生まれたものである。確かにクレジット・ユニオンを通じて地域のための事業への資金提供が可能にはなるが、金利を通じて現金資産の少ない人から多い人への富の再配分が行われる以上、既存の金融の枠組みでは社会的に本当に公正な融資ができない。

であれば、手持ちのお金がなくても少なくても地元の人たち同士の取引が可能になるLETSを導入して、普通であればかなりの現金を支払わなければできないと得られないようなサービス(たとえばマッサージや語学教室)など相互にやり取りすることで、地域住民各人の生活の質を向上させてゆこうというのだ。

日本社会には現在閉塞感が漂っているが、それは本来持続可能ではない資本主義を持続させるために社会のさまざまな分野が犠牲になっていることが大きな要因だと思われる。ジル・ジョーダンの明るい表情は、そういった資本主義の重圧から解放された喜びなのだろう。

広田さんにメールは mailto:mig@lime.plala.or.jp

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