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エイズ30年への夢

2004年03月03日(水)
ワシントン在住ジャーナリスト 堀田 佳男

「毎日、20機のジャンボジェットが墜落しているのと同じ。1日8,000人の死者が出ているのにメディアは報道しない」

 その日の記者会見は閑散としていた。ブッシュ政権の世界エイズ対策室の室長、ランダル・タビアスはガランとした記者席にむかって話をはじめた。会見がはじまる5分前には私をふくめて4人しか記者がおらず、主催者側の方が多かったが、開始直前になって5人ほどが駆け込んできた。エイズというトピックではもはやメディアの関心は惹けないのだ。「いまさらエイズがどうした」という思いがメディアのなかにも受けての側にも広がっている。

 だが、エイズの窮状は拡声器をつかって伝えなくてはいけないほど悪化している。現在、世界中の感染者・患者は約4200万人で、毎日あらたに1万5000人が感染している。医療の現場での感染は少なくなっているが、性行為による感染は増えつづけている。

 特筆すべきことは、アメリカをはじめとする先進諸国の感染者数はすでに90年代半ばをピークに減っているが、日本国内の感染者は増えつづけている点である。現在、日本のほとんどのメディアは牛海綿状脳症(BSE)や鳥インフルエンザといった目先の伝染病に重点をおき、水面下で増えつづけるエイズに大きな関心をよせない。エイズ感染者は数万人いるとさえいわれている。

 84年にエイズがウイルスによる病であることが判明したあと、魔の病気の恐怖は一般市民の胸元にまで忍び込んだ。80年代後半、エイズ検査をしてもらうためにこっそり病院を訪れた輩もいたはずだ。問題は、その時代に危機感を覚えていても、いまは「だいじょうぶだろう」的な楽観から風俗店などで無防備な性行為を行っている人たちがいることだ。こうした意識があるかぎり、日本のエイズ感染者は減らない。

 タビアスはその日、日本のエイズ感染については言及しなかった。世界的な見地からすれば、爆発的に感染者数が増えているアフリカ諸国の方がより重要だからだ。ブッシュ政権は今後5年で、約1兆6000億円の緊急予算を世界のエイズ撲滅運動と感染者・患者治療などにあてると発表した。公衆衛生の分野でこれだけの緊急予算が割かれたことは史上かつてない。さらに、他国との協調政策によって感染者と死者の増大を食い止めるという。

 これはなかなか重要な行政決断である。「カネだけ出せばいいのか」という批判はあたらない。カネによってできることはドシドシやるべきで、カネも出さない、治療もしない、予防もしないということではエイズと闘えない。エイズはいまだに不治の病である。いちど感染してしまうと、いずれは死にいたる。現代医学ではウイルスだけを取り除くことは不可能なのだ。

 ただ、ウイルスの活動を抑える薬剤がいくつも登場している。87年にAZTという薬がFDA(米食品医薬品局)に認可されて以来、アメリカでは現在までに17剤が「エイズに効くクスリ」として市販されている。その最初の薬剤であるAZTから3番目までを日本人医学者、満屋裕明(みつやひろあき)が世にだしたことはあまり知られていない。

 世界最大機関であるNIH(国立衛生研究所)で、いまもエイズと格闘する満屋は近年、新しい治療薬を開発し、その薬剤が臨床治験(実際にエイズ患者に投与する)の第2段階に達している。第3段階を通過すると新薬として世に出まわることになる。

「30年も夢ではなくなってきた」

 満屋が「30年」というのは、エイズウイルスに感染してから30年間も生きられるということだ。ウイルス感染後、すでに20年以上も発症せずに生活している感染者が増えている。多くの薬剤を同時に服用する多剤併用療法のおかげだ。20年前には考えられなかったことだ。当時は感染したら半年から3年で死亡するといわれた。だが、医学者たちの努力によって新しい薬剤が世に登場し、今後はエイズに感染しても違う病気で死亡するという状況がおとずれるかもしれない。

 もちろん粗忽(そこつ)で浮薄な行動は慎まなくてはいけない。なにしろ、ウイルスに感染したら、一生、大量の薬剤を飲みつづけなくてはいけないからだ。「アーラ、大変」どころの騒ぎではないのである。

 堀田さんにメールは mailto:hotta@yoshiohotta.com
 急がばワシントン http://www.yoshiohotta.com/

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