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メディアに不利益をもたらす五輪代表「一発選考」

2004年02月29日(日)
萬晩報通信員  成田 好三

 中山竹通氏が主張する、マラソンの五輪代表「一発選考」は何故実現しないのか。いや、それ以前の問題として、何故メディアは一発選考自体に触れたがらないのか。何故一発選考を、いわば『タブー』のように扱っているのか。その理由は簡単である。一発選考は、メディアに不利益をもたらす選考方式だからである。

 日本では、新聞・TVなど主要メディアとスポーツイベントが深く結びついている。高校野球では、高野連とともに春の選抜大会では毎日新聞が、夏の選手権大会では朝日新聞が主催者に加わる。関西地区以外では、NHKが独占的に全国放送する。正月恒例の箱根駅伝では、読売新聞・日本テレビグループが実質的に大会を統括している。

 メーンのスポーツイベントは、ほとんどすべて競技団体とメディアグループとの『共生関係』で成り立っている。メディアの後押しによって競技団体は、彼らが運営する大会の開催費用を賄い、大会のステータスを上げることができる。メディアはまた、彼らが後押しする大会の隆盛によって視聴率や購読者を伸ばし、さらに広告料を増やすことができる。その背後には大手広告代理店がいる。こうした関係は、マラソンの五輪代表選考レースに指定されている男女の国内3レースでも同じである。

 男子の3レースは福岡国際(11月)、東京国際(2月)、びわ湖毎日(3月)である。主催者には日本陸連とともに各メディアグループが加わっている。福岡国際は朝日新聞とテレビ朝日、東京国際は読売新聞と日本テレビ、びわ湖毎日は毎日新聞(NHKが後援)である。それぞれのレースは各メディアグループによって大掛かりな事前キャンペーンが展開される。当日は主催(後援)のTV局によって制作された番組が全国ネットで生中継される。

 男子に比べ後発の女子マラソンも関係性は同じである。女子の3レースの主催者には日本陸連とともに、東京国際女子(11月)では朝日新聞とテレビ朝日が、大阪国際女子(1月)は産経新聞と関西テレビ(フジテレビ系列)が、名古屋国際女子(3月)では中日新聞(後援にフジテレビ系列の東海テレビ)が加わっている。新聞・TVなどの主要メディアとの『共生関係』なしにレースはもはや成り立たなくなっている。

 日本陸連がマラソンの五輪代表を一発選考で決定するとした場合はどうなるか。選考レースを新たに設定するか、男女の3大レースの中から1レースを選択することになる。新たなレースの設定は現実的ではないので、このケースは除外して考えてみる。1レースを選択することになれば、各メディアグループ間で激烈な競争関係が生まれる。指定されたレースには五輪を狙う有力選手が集中するから、このレースの注目度とレースを主催(後援)するメディアグループの利益は格段に上昇する。選定されなかったレースには逆の効果が生まれる。

 激烈な競争を避けるため各メディアグループが『紳士協定』、つまり選考レースを持ちまわり開催する協定を結んだ場合はどうなるか。五輪は4年ごとに開催されるから、男女とも各メディアグループが主催するレースが選考レースに指定されるのは12年に一度ということになる。それまで4年ごとに利益を生み出してきたレースの間隔が3倍に伸びる。

 一発選考は明らかにメディアに不利益をもたらすのである。だから、メディアは一発選考に触れたがらない。自らに明らかに不利益をもたらす方式など採用どころか、論じたくもないのである。

 日本人はマラソンが大好きである。五輪も大好きだ。大好きな2つのイベントが重なるのだから、五輪マラソンは他の競技とは比べようもないほどの社会的関心を集める。五輪マラソンのメダリストは一夜にして国民的ヒーロー、ヒロインになる。バルセロナ、アトランタと2大会連続でメダリストになった有森裕子、シドニー五輪金メダリストの高橋尚子が受けたその後の名声と金銭的評価をみれば、その辺の事情は詳しく説明する必要もないだろう。

 有森や高橋への評価は、彼女らの周辺にいる関係者や組織にも大きな利益をもたらす。それゆえにこそ、マラソンの五輪代表選考はいつも大きな社会的関心を集める。そして、選考方法をめぐって何度も混乱が生まれている。

ソウル五輪代表選考では、福岡国際を欠場し、びわ湖毎日で『追試』を受けて五輪本番に出場した瀬古利彦をめぐって賛否両論が沸き起こった。

 有森、高橋と3大会連続でメダリストを生み出した女子マラソンは、男子以上の話題を提供してきた。バルセロナ五輪では、3番目の枠をめぐって世界選手権4位の有森と大阪2位の松野明美が争った。「私を選んでください」と記者会見して訴えた松野は選に漏れた。

アトランタ五輪ではやはり北海道優勝の有森と大阪2位の鈴木博美が3番目の枠を争い、有森が出場権を得た。シドニー五輪でも、やはり3番目の枠を山口衛里と弘山晴美が争い、弘山が涙をのんだ。2時間22分台の自己ベストをもつ弘山は、シドニー五輪出場を逃した中で最速のランナーになった。

過去の例ではいずれも、選手や関係者はもちろんファンも納得する明確な選考基準は示されなかった。最も明確な選考方法をとるとすれば、それは恐らく一発選考しかない。しかし、その是非はともかく、一発選考はメディアグループの利害によってその論議さえ封じこまれているのが現状である。

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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