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記者会見を言葉による戦いの場に
2004年01月09日(金)
萬晩報通信員 成田 好三
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最近、首相会見における日本の新聞記者(通信社・TV局記者を含む)の姿勢に変化が見られ始めた。質問に際して、所属会社名と自らの姓を名乗るようになったことである。
萬晩報に書いたコラム「匿名性に隠れる日本の新聞記者」(2003年11月18日)で、首相会見において所属会社名と自らの姓名を名乗らない新聞記者の姿勢を批判した。生中継するTVカメラの前では、新聞記者はもはや「黒子」ではない。舞台に上がった役者の役割を果たしており、取材される側と同様に国民から監視されている。そうした趣旨で、会見で名乗らない新聞記者を批判するコラムを書いた。
政治においては本来、国の最高責任者が、メディアを通してであっても、国民に直接肉声で語りかける首相会見ほど重要なものはない。しかしこの国では、最高責任者は多くの場合、真摯に国民に語りかけることを拒んできた。話題をずらしたり、問題の本質を避けたりしてきた。国民が痛みを感じるテーマについて、真正面から説得しようと試みる最高責任者はほとんどいなかった。
新聞記者の側も、彼らが所属するメディアの見解や、あるいは自らの考え方を提示した上で質問することはほとんどなかった。新聞記者は匿名であっても構わない。メディアもそこに所属する新聞記者も、客観報道を前提にした「中立性」を保持すべきだ。そうした暗黙の了解事項の範囲内で、質問と答弁が繰り返されてきた。
しかし、会見場にTVカメラが入り、重要会見は生中継される時代になった。答弁者も質問者もリアルタイムで国民の目と耳にさらされることになった。それでも長い期間にわたって、暗黙の了解事項に変化は見られなかった。
変化は昨年12月9日の首相会見から始まった。この会見はNHKが生中継した。小泉純一郎首相が、自衛隊のイラク派遣を決定した日の会見である。憲法を変えないまま実質的に戦時下のイラクに自衛隊を派遣するという、戦後日本政治の大転換となる決断に際しては、小泉首相もいつもの「はくらかし」と「すりかえ」の論理は使えなかった。国際貢献をうたった憲法の前文だけを引用した論理展開には無理があった。それでも、この日の小泉首相はある意味でそれまでとは「別人」だった。少なくとも政治的には命懸けで記者会見に臨んだことだけは確かである。
会見に臨んだ新聞記者の側も、それまでとは姿勢を変えていた。ほとんどすべての質問は、所属会社名と自らの姓を名乗った上で行われた。最後の2、3の質問は匿名だったが、これは補足質問と考えれば、すべての質問から匿名性が消えていた。
1月5日に行われた小泉首相の年頭会見もNHKが生中継した。質疑を含め30分程度の短い会見だった。質問者4人は全員、幹事社の産経新聞の「こじま」、北海道新聞の「えだかわ」、フジテレビの「そりまち」、NHKの「こいけ」と名乗った上で質問していた。こうした会見のスタイルが定着し、他の重要会見にも拡大すれば、日本の政治と政治メディアも、よりましな方向性をもつことになるだろう。
年頭会見の中で小泉首相は、政権に対する匿名性をもった批判、立場と見解が不明確なままの批判に関して反論していた。学者や評論家のほか、多くはメディアとそこに所属する新聞記者に向けられた言葉だろう。年頭会見における小泉首相の反論を、首相官邸のホームページから引用する。
「――どっちの立場かわからない、目の見えないところから批判すればいい、揚げ足取りだけすればいいという状況というのは、皆さんもよく考えていただきたい。ちゃんと顔を出して、その論者はどうして一貫の立場に立って私を批判しているのか。小泉内閣を批判しているのか。現在の財政、経済政策を批判しているのか。そういうことをはっきりさせて、両者(国債増発論者と反対論者)からの顔を合わせた批判なら大いに歓迎します。――」
小泉首相の発言は興奮すると論理と文法がぐちゃぐちゃになるこらいがある。引用した部分は、景気の展望と経済、財政政策を問われた答えの一部である。しかし、引用した辺りでは問わず語りのように、小泉首相の鬱積した不満をぶちまけたものになっている。
ならば、会見に臨む新聞記者はこう反論すべきである。「我々は匿名性の衣を脱ぎ捨てた」「所属会社の見解、自らの考えを表明した上で質問する」「首相もはぐらかしやすりかえ答弁を止めるべきだ」「互いにもうごまかしはできなくなった」「首相もわれわれもTVカメラを通して国民の監視の目と耳にさらされている」
記者会見は本来、質問者と答弁者とが「真剣勝負」で渡り合う、言葉による戦いの場であるべきだからである。(2004年1月6日記)
成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/
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