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衆院選を振り返る(1)−始まる政権政党の自壊
2003年11月26日(水)
萬晩報主宰 伴 武澄

 衆院選の投開票日が過ぎて2週間が経つ。期待が高かった割には盛り上がりに欠ける選挙だった。マスコミの中にいて、誰もが「風が吹かない」と嘆いていた。選挙中の各社の世論調査が「自民が過半数獲得」を予想していたことも影響しているのかもしれない。

 あの選挙はなんだったのか、振り返ってみたい。民主党の当選者177人について翌日の朝刊紙はそれぞれ「民主躍進」と書いたが、社民党と共産党の票を食っただけ。自民党の地盤を切り崩したとはいえない。菅直人氏が「政権を取る」と豪語したのだから、これは明確に敗北である。党勢拡大程度で満足してもらっては困る。

 一方の自民党の当選者は237人。事前の予想に反して過半数に到達しなかった。総裁選に圧勝し、安倍晋三幹事長を抜擢し、「若さ」と「変革」を強調したが、「改革路線」が浸透したとは到底言い難い。結論的にいえば、保守新党の自民党合流と相俟って、公明党の存在感が増したことだけが目立った結末となった。

 今回の衆院選における公明党の貢献は並大抵ではない。比例区の公明党への投票総数から逆算して、選挙区で最低でも1万票、多く見積もれば3万票の公明票が自民党候補に流れたとみられている。小選挙区で1万票未満の差で自民党候補が民主党候補に競り勝った選挙区を数えてみたら29もあった。

 もし仮に公明党の協力がなければ、この29選挙区で自民党候補は確実に民主党候補に敗れていたはずだから、選挙結果は大きく様変わりしたに違いない。単純に177vs237が206vs208と接近しただけではない。民主党の躍進が事前に予想されていたらさらに投票率も上がり、比例区でも当選者の上積みを図れたはずだから、確実に与野党逆転が起きていたことになる。

 たらればを語ろうというのではない。今回の衆院選の結果、自民党にとって公明党は単なる連立の相手ではなく、公明票なくして政権維持ができなくなるということを公に天下に露呈する結果となってしまったのである。

 自民党にとってもはや安堵している場合ではない。この選挙結果によって、公明党がへそを曲げれば政権の維持ができないということになった。それこそこれからの政策の意思決定過程においてどこでも公明党の主張がまかり通るということでもある。

 また今回の衆院選では"組閣"はないと小泉首相はあらかじめ公言していたから、浮上しなかったが、次回の内閣改造で公明党の入閣の人数が問題となることは確実である。公明党としては選挙に対する貢献度から複数を要求することはほぼ間違いない。しかも主要閣僚の一角を求めることになるだろう。

 本来、自民党と公明党の支持層は水と油の関係にある。党の体質はかつての社会党よりも懸け離れているはずだ。これまでは保守新党という"かすがい"が存在したが、もはや自公という1対1の関係になった。一体となるか、対立するか、二つに一つしかない。

 かつての自民党だったら、それでもそれぞれの業界や官庁の側に立つ族議員がいて政官民の癒着体質があって、自民党員でいる恩恵はそれなりにあった。しかし、ここ数年の橋本派の弱体化によって政治による業界への締め付けは相当程度緩んでいる。小泉政権自身が財政の出動を厳格に阻止してきた結果でもある。

 族議員としての利権を失った上、政策決定まで公明党に自由に牛耳られることになれば、政権政党としての自民党のよって成り立つ基盤はますます脆弱になる。

 自公の連立が崩壊すれば、自民党の政権維持はおぼつかなくなる。逆に一体になれば、支持層の相当数を失う。内部分裂の可能性だってある。どちらに転んでも自民党の将来は危うい。

 負け犬の遠ぼえではない。2003年11月の衆院選は後世に史家によって「自民党崩壊が始まった選挙」と評価される分水嶺になるかもしれない。民主党は今回の選挙に敗北したのだが、真剣に政権政党としての準備を始めた方がいい。


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