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第38回世界連邦四国協議会総会・2011世界連邦四国大会

 2011世界連邦運動協会四国ブロック大会記念講演

 「欧州統合からみた世界連邦の近未来」 講師 広島修道大学教授 城 忠彰氏 

  2011年10月11日 
  松山市市民コミュニティーセンター

 世界は果たして世界連邦の方向に向かっているのか、私たちの世界連邦への取り組みは現実的な運動なのか。私自身の考えも入れながら話をしたい。

 今年の3月、中国で東アジア共同体の取り組みについて社会科学院と意見交換した。社会科学院で出版されたものは、言論統制が厳しい中国ではめずらしく一切批判されない。中国政府に即していない意見であっても、政府高官が耳を傾ける権威のあるシンクタンクだ。

 国境はなぜ存在するのか

 その話はともかく、せっかく北京に来たのだから万里の長城を見学してはどうかと促された。名前の通り9000キロに及び、ほんの一部が観光地になっている。北方の匈奴、モンゴルの侵入を防ぐ意味で、秦の始皇帝の時代に建設が始まった。坂が多くて城壁から城壁に移動するのに大変なところだが、どうしてこんな壁をつくったのか考えさせられた。

 これは「自分の国の安全を守るために」ということに尽きると思う。パレスチナではイスラエルがヨルダン川西岸に多くの入植地を設けている。国際法違反として国連も批判しているが、ユダヤ人の縄張りを拡大するため、フェンスを巡らしている。これも形を変えた国益追求だ。

 われわれは万里の長城を過去の遺物と考えるが、「国の安全」という考え方は現在も生きていると思う。北京からは大連の上空を通り、朝鮮半島を縦断して広島に帰って来た。大連は大きな港町で現在、中国はロシアから譲渡された航空母艦を改修し、実戦配備までいっている。もう一つの航空母艦も上海の近くで建造中だ。中国側の言い分では「アメリカが日本や台湾海峡で空母を展開している。大国中国の同様にする権利がある」ということに尽きる。いずれはハワイから東太平洋にまで展開する可能性もある。サンフランシスコやロサンゼルスの近くまで中国の空母が300機ぐらいの航空機を載せて航海する姿はぞっとするが、中国からすれば「中国近海にそんな事態が起きている。その裏返しである」ということになる。

 その大連の近くに旅順港がある。最近まで外国人は入れなかった。バスで20分行くと日露戦争の激戦地203高地がある。坂の上の雲の秋山兄弟の世界である。203高地にはいまでもロシアがつくったコンクリート製のトーチカが残っている。これも一つの城砦である。遼東半島の覇権を確実にするための手段だった。
 大連から南下すると朝鮮半島があり、北緯37度線で南北休戦ラインが引かれている。板門店はソウルからバスで1時間ほどのところにあり、ブルーヘルメットの国連軍がその間に立っている。これが南北朝鮮の事実上の国境になっている。南北朝鮮の海上にも国境(NML)があり、南北が常時パトロールして対立している。これも縄張り争いの一つである。

 さらに半島を横断して日本海に出ると竹島(独島)があり、日韓関係を厳しくさせている。島根県が「竹島の日」を制定したために、韓国が一切のスポーツ、文化交流を停止した経緯もある。野田首相の訪韓では直接的に竹島は問題とならなかったが、微妙な問題として今後詰めていこうということになった。

 竹島では郵便番号まで決まっており住民登録もできるようになっている。鬱陵島から週何便か観光船も運航されている。単に島がきれいだということだけではなく、日本に対する優越感という人もいる。日本政府は国際司法裁判所に提訴して法的な解決を求めようとしているが、韓国政府は拒否し、実効支配している。

 司法による問題解決は人類の英知であるが、ハーグにある国際司法裁判所の規定の36条2項、選択条項では、ある国が訴えても相手国が裁判を了解しないかぎり、裁判は始まらない。強制管轄権がないということである。

 たとえば、日本で刑事事件で起訴された本人が「私は裁判は嫌だ」などとはいえない。民事事件でも「嫌だ」といえるだろうか。言えるが、その場合、裁判官は原告の言い分をすべて取り上げることになる。裁判所に行かなければ「負ける」ということになる。

 国内では当たり前のことが国際社会では当たり前になっていない。世界連邦の時代には国際裁判所ができるわけだから、国境問題を含めてあらゆる問題が法廷で決着が着くことになる。

 日韓に領土問題はあるが、海の上には国境はない。国をつくり国益を追求して争っているのは人間がかってにやっている。神様が地球をつくるときに国境は引かなかったのに。そんなことを中国旅行であらためて考えてみた。

 欧州ピクニック計画

 昨年まで私はオーストリアのウイーンにいた。ウイーンから電車で30分行くとそこはスロバキアだ。かつてのチェコスロバキアの南半分が独立した国だ。ちょうど今治に行くような感覚で友人を訪ねた。一つメリットがあった。ウイーンで一箱700円タバコの値段が国境を越えると250円。10箱買って帰ると汽車賃が出る。

 そのスロバキアとの国境は1989年までは非常に厳しいものだった。互いの軍隊がカービン銃を担いで見張っていた。共産圏であったからだ。ところが、オーストリア政府が境界を開放した。ヨーロッパ・ピクニック計画といいます。

 国境を撤廃すると東ドイツとかポーランド、ルーマニアの人々がオーストリア国境に入ってきた。オーストリアに入れば後はどこにでもいけるようになった。11月にベルリンの壁が崩壊したのは、こうした周到な情報の交換や意識の高まりが東側に伝わった結果だった。

 昨夏、スロベニア、クロアチアに行った。スロベニアはEUの国だから問題なかった。ところがスロベニアはそうではなかった。夜行列車で行くと国境の前の駅でスロベニアの警察官がどかどかと乗ってきてパスポートをチェックされた。今度はクロアチアの軍隊が乗り込んできた。真夜中に2回もチェックがあった。大変厳しい。現に拘束された人もいた。

 実はEUは来年のクロアチア加盟を承認している。現在27カ国だが、28カ国目の参加国となる。そうなるとスロベニアとクロアチアの国境はもうなくなる。われわれが広島県から岡山県に行くのと同じになる。愛媛県から香川県に行くのに川之江あたりで列車が止まってパスポートの提示を求められることなどは考えられない。昔は関所があったのだ。どちらがいいか。関所を取っ払ったら社会は悪くなったのか。そうではない。ここに世界連邦の考え方のメリットを示す証拠があると思う。

 国際社会では内戦が続いていた南スーダンが独立して、国連に加盟した。193カ国目の加盟国だ。政府は最近、南スーダンを支援するため、PKOを送ることを決めた。同時にアフリカ連合の54番目の国になった。国境をつくって、縄張りで色分けをする考え方は昔のものであって、現在では国境を撤廃する方向にあるというのが私の意識。

 それでも、国際社会は旧態然として主権、統治権を主張し、自分の国は自分のやり方で治めることになっている。家庭内問題という考えだが、最近では家庭内でも子供の虐待など放置されなくなっている。昔ならうちの家訓だ、教育方針だということで終わっていたが、現在では通報されてしまう。監督官庁の立ち入りがあり、場合によっては親と子どもが隔離される。

 つまり「隣の家のことは構わんといて」という風潮ではなくて、それはいけないことだと堂々といえる時代になっている。国際社会では国際関心事項という。したがって主権国家は絶対ではない段階に来ている。しかし、本質では200ばかりの主権国家が70億人の地球を分割している。そうした本質は変わっていない。

 そうした状況を少しずつ変えていこう、ベルリンの壁の崩壊のようなことをやっていこうというのを地域統合という。今日お話をするヨーロッパ連合はそのパイオニアになっている。歴史的に壮大な実験をやっているといっても過言ではない。54カ国になったアフリカ連合はそこまではいっていない。初歩的な段階だ。アセアンも政治統合まではちょっと距離がある。したがってEUが世界連邦の地域的モデルとして参考になるとすれば、経済的な問題から政治的問題にまで進歩してきたといえるのではないかと思う。

 われわれが理想としている世界連邦は、現在の国連体制とは大いに違う。世界連邦、それは主権国家の絶対性を否定し、さらに普遍的な政治システムを作り上げていく、一番のゴールを目指すとすれば世界政府、世界議会、世界裁判所、そして世界警察というものになる。これがわれわれの到達目標となる。それをEUは28カ国でやっていこうとしている。

 戦争の歴史だった欧州

 それではEUはどうやってここまで来たのか、どういう経緯をたどってきたのかという歴史的経緯を復習したい。ヨーロッパは戦争の歴史だった。30年戦争だとかナポレオン戦争だとか、独仏戦争だとか、英仏戦争だとか、歴史で学んだ。そして第一次大戦、第二次大戦とまさに戦場だった。しかし、その戦場だった理由の一つ、たとえば独仏間であれば、ザールやルールという石炭地帯をめぐって争われた。しょっちゅう争い、戦争に発展した。
そこで第二次大戦後、一緒にやったらどうかという機運が生まれた。それは唐突に生まれたのではない。14世紀、15世紀からヨーロッパの思想家の中に「ヨーロッパは一つである」という考え方を述べる人も出ていた。エラスムス1517年に「平和への訴え」を書き、ヨーロッパはこのままではいけないということを述べた。キリストという神のもとで平等である。エラスムスは現在のEUの中でも生きていて、大学生の単位を無条件で交換することができる。エラスムス計画である。

 エマニュエル・カントは1795年、有名な「永遠の平和のために」を書き、ヨーロッパは一つの常備軍を持ち、各国の軍隊は制限すべきことを説いた。その結果、ヨーロッパは安定するという思想を持っていた。ヨーロッパは一つであるという考えを制度的にどうしたら実現できるかということが書かれている。
クーデンホーフ・カレルギーは、汎ヨーロッパ主義を提唱した人物で、考え方は一緒で「ヨーロッパは一つで、ヨーロッパの問題はみんなで考えていかなければならない」と説いた。カレルギーはヨーロッパ連合の一方で、友愛主義を打ち出した。本部はウイーンにあったが、ナチスに弾圧された。この友愛主義は戦後、鳩山一郎首相に影響を与えた。この前の鳩山首相も友愛という言葉をよくつかった。

 カレルギーはシェーンブルグ宮殿の近くの墓地に眠っている。奥さんが光子という日本人だった。吉永小百合がNHKドラマで光子の名で主演したこともある。8人も子どもを生んで、その一人が汎ヨーロッパ主義を広めたクーデンホーフ。

 私も一昨年知ったことだが、映画「カサブランカ」で、イングリッド・バーグマンをフランスからモロッコに連れて行くのがハンフリー・ボガードだった。空港での別れのシーンが印象的だったが、ハンフリー・ボガードが演じている人物こそが、地下組織で運動していたカレルギーだったのだ。

 カレルギーの功績は何かといえば、これまでの思想家が理念は提唱したが、カレルギーの偉いところは各国に同志をつくって運動を展開したことだった。当時はヨーロッパ連邦だったが、まさに世界連邦のはしりだったといっていい。そういう中で戦後を迎え、6カ国が一つの考え方を提唱する。原子力共同体をつくって共同管理をしよう、そして石炭や鉄鋼についても同じことをしよう、石炭鉄鋼共同体だ。官吏だけではなく、モノの移動、つまり自由貿易のはしりとなった。それが欧州共同体となり、幅広く自由貿易をやろうと考えた。モノの移動に関して国境をなくそうとしたのがEECだった。ところがそれでは十分ではない、人権もヨーロッパ人権裁判所をつくった。自由貿易だけでなく司法制度も加味して団結を強めたのがEC。

 それでもまだ不十分として、政策の決定、通貨、金融の統一的なコントロールもヨーロッパでやろうと欧州連合にまで発展した。マーストリヒト条約などを通じて一歩ずつ前進させた。そしれ現在の欧州理事会、欧州委員会ができた。欧州委員会は内閣にあたるもので、欧州議会は各国で直接選挙で選ばれるに到っている。

 2004年にスウェーデンにしばらくいたが、私のアパートにも欧州議会の選挙公報が届いた。スウェーデン人にいわせれば「いやぁ、欧州議会ね?」と自分の国の市会議員や国会議員の選挙より関心が薄かったが、制度的には直接選挙で議員が選ばれるところまで来ている。欧州人権裁判所だけでなく、欧州司法裁判所も実現している。

 2009年、画期的なリスボン条約が結ばれた。12月1日に発行し、欧州大統領と外相を選ぶことになった。正式には大統領は欧州理事会の常任議長、外相は外務安全政策上級代表と呼ぶ。欧州は5億人を超え、アメリカの3億人を超えて、ヨーロッパ合衆国というところまで来ている。ただ、今の段階ではまだまだアメリカのような合衆国体制ではない。

 これから機構改革が待っている。たとえば、議会をもっと強力にしよりよく5億人の意見がまとまるようにする。ヨーロッパ連合に到るまで一番強調されたのは国家統合を進めるが従来の国家がなくなるわけではないということだった。それぞれの国家が抱える条件は違うのだから自治を行うことになっている。

 日本でも地方分権を強化しようという機運が盛り上がっているが、ヨーロッパでは当初からそういう考えをもっていた。これを補完性の原則という。ヨーロッパ政府がいきなりすべてを実現することはできないから、それぞれの国ができることはしましょう。しかし最も大事なことは全員で決めましょうということなのだ。

 世界連邦になったらまったく世界が一つになるということではない。従来の国家にあたるものは残る。たとえば、ソ連邦が15の共和国に分裂し、ユーゴスラビアもチェコスロバキアも分裂した。独自性のあるものは細分化する傾向もある。しかし全体としてはまとまるというのが補完性の原則だ。
一定の住民の統治とか政治は特性を持って実行していく。しかし安全保障や金融政策、人権、公害政策など大事な問題は統一基準を設けている。いわゆる欧州基準である。これは徹底している。日本から車を輸出する場合、排気ガスなど基準はほとんど一緒である。フランスには輸出できてもイギリスには輸出できないということはない。だからEU向けに輸出しようとすれば、その基準をクリアしなければならない。
ヨーロッパの進化が予定されているのだが、次の段階では大統領も直接選挙しようという動きもある。現在は名ばかりで欧州理事会が決めている大統領であっても市民が選挙で選ぶという段階に達してこそ合衆国になる。

 ギリシャの信用不安

 ファンパイロンバル初代大統領の写真を資料に示したが、オーストライヒという新聞の趣旨は大統領の年収が2万9504ユーロで、1ユーロ=107円だから計算できる人は計算してほしい。それを世界の指導者と比較するとドイツの大統領は2万2848ユーロ、イギリスの首相は2万2300ユーロ、アメリカ大統領は2万2075ユーロとなっている。つまりヨーロッパで一番貢献しているドイツのメルケル首相が2万1781ユーロに対してヨーロッパ大統領は大きく上回っている。だから皇帝としての勲章もつけられている。その趣旨は、これだけの高給を支払うのだからしっかり仕事をしろということだ。

 ヨーロッパは思想から始まって、運動を経て現実的は取り組みを積み重ねて現在に到っている。最近、EUのニュースが多くしかも暗いものが多い。アメリカのリーマンショック後の経済と同じようにEUの問題も直接日本に影響している。対岸の火事ではない。グローバル経済の進行によって特に金融問題は相互にリンクしているから、ヨーロッパの問題はすぐに日本経済に波及する。

 最近、最も耳目を賑わしたのはギリシャのデモだ。私がウイーンにいた2009年から2010年でもしょっちゅうデモが起きていた。普通の国のデモと違ってギリシャでは暴徒化するのが特徴だった。なぜこうなるのか。ギリシャでは戦後、内戦が続き、東側にあるので共産主義の影響も強く受けていた。王制派も残っていた。1974年に内戦が終わり民主的な政権が誕生した。しかしギリシャは血で血を争う過激性があるのでしょうね。気持ち的にはエーゲ海に浮かぶ島々の国でのんびりしたところもあるが、荒々しさも持ち合わせている。

 1974年以降、ギリシャ政府は国民の不満を抑えるために、たとえば失業者をすべて公務員にするなどということをしている。現在、労働者の4分の1が公務員となっている。公務員だから毎年デモをやる。2009年の大規模デモではストで唯一の外貨収入源の観光が止まってしまった。空港は閉鎖され、市内のバスもタクシーも動かない。パルテノン神殿も国の施設だから閉鎖。バカンスでギリシャに来るヨーロッパの観光客はどこにもいけないからホテルはキャンセル。悪循環になる。
 
アリとキリギリスではないが、額に汗して働く、働かないがイソップの寓話だが、ヨーロッパの人からみれば「ギリシャはいいな」ということになった。年金支給が53歳から始まり、給付額もトップクラスとなればそうだ。その上、給与を上げろ、年金を上げろではね。

 EUでは各国がGDPに応じた金額を拠出し、それを農業補助金などで再配分する仕組みとなっている。スペインやポルトガルは拠出金より再配分される額の方が多い。その際たるものがギリシャ。ギリシャの財政は年々悪化するのだが、支出は増えている。EUはずっとギリシャ支援を続けてきたが、さすがに怒っている。年金も60歳ぐらいからしかもらえない国がなんで怠け者のギリシャのためにお金を負担しなければならないのか。そのシンボルがギリシャの信用不安というものだ。

 ヨーロッパの銀行がギリシャに対して国債を買い融資をしてきたが、焦げ付きの恐れが出てきた。業界用語でいえばデフォルト。債務不履行。そこでEUが検討しているのがギリシャ救済策。トップバッターはIMFの緊急融資、同時に域内の欧州安定基金(EFSF)による3段階の救済策を検討している。たとえば金融取引税のアップがあるが、北欧諸国などはそんなばかなということで反対している。
ヨーロッパの中央銀行、理事会すべてを挙げてなんとかギリシャの信用不安を解消しようと財源的な裏づけを急いでいる。27カ国すべての賛成が必要なので大変で、先週スロバキアが国会で反対し、再度、国会で審議することになっている。そういうことでEU最大の課題はギリシャをどうするかということである。

 ギリシャのGDPはヨーロッパ全体のわずか2%、財政規模は埼玉県ほどでしかない。金がないのにデモの要求がエスカレートしている。フランスやドイツの国民からすれば働かない国の人のためになぜわれわれの税金がもっていかれるのかという慢性的な不平が充満している。
ユーロの硬貨は表は同じだが国よって裏が違う。イタリアのダ・ヴィンチやオーストリアのモーツアルト。裏側が中国発行、台湾発行と考えてもらえば分かりやすい。ユーロの硬貨を参考のためにお回します。硬貨は持ち帰っても構いませんが、お札は取らないように。(笑い)

 原発をめぐる食い違い

 EUはまとまっているものもあれば、そうでないものもある。最たるものは原子力政策だ。EUの原発は14カ国で143基が稼動している。オーストリアでは原発をつくるにはつくったが、国民の反対で一度も火を入れていない。現在、博物館になっている。日本で島根原発が爆発したらどうなるか。松江から鳥取から広島の県境まで避難しなければならない。ヨーロッパは陸続きだから、もっと深刻だ。ドイツは老朽化した原発を早急に停止することを表明し、イタリアは原発をつくらない。しかし58基を稼動しているフランスはそうはいかない。フランスの発電量の8割は原発によるもので、アレバ社は原発技術を輸出している。だからフランスは国を挙げて原発を維持しようとしている。

 一方でフランスは電力の輸出国でもある。福島の前から原発事故は本当にないのかという議論がヨーロッパ全体でなされている。原発については見解が統一されていないのが現状だ。

 ヨーロッパの核をどうするかも意見の一致をみていない。EU向けにロシアは200発の戦術核ミサイルを配備し、NATOもロシアに向けて400−500発のミサイルを配備している。これ以外にフランスはモスクワまで飛ぶ戦略核を独自に持っている。欧州の平和はまだ数千発の核ミサイルによって守られている。

 トルコの加盟申請も問題だ。EUの求めに応じて死刑廃止まで行い、EU基準に合わせるために財政の建て直しにも努力した。政治腐敗の根絶にも力を入れた。しかし、クロアチアはトルコより遅く加盟申請したにも関わらず来年から加盟を認められた。

 なぜか、それはトルコがイスラム教の国だからだ。EU27カ国はギリシャ正教だとかプロテスタントとか違いはあるがすべてキリスト教である。EUはクリスチャン・クラブといっていい。異分子的なイスラムが入ることに警戒感がある。フランスではチャドルとかベール着用禁止の条例ができた。オーストリアで騒いでいるのはモスクの建築。一つの州に一つにしてほしいというところまで来ている。モスクはまだいいが、ミナレットという高い塔などは大げさにいえば東京タワーみたいになる。キリスト教の国で別の宗教の塔が立つことには違和感があるというのが彼らの偽らざる本心であろうと思う。テロリストがイスラムであるという偏見も加わって、警戒心が強い。これがトルコ問題だ。
ともあれ欧州は来年、クロアチアが加盟する。ウクライナも入りたい。われわれの観測では35カ国体制まではいくのではないかと思っている。

 東アジア共同体は可能か

そういう意味で他の地域でもできないかと考える。その一つが東アジア共同体。その範囲もさまざまで、南北朝鮮、中国、日本、これぐらいは分かるが、たとえばロシアは入るのか、台湾はどうするのか、あるいはアセアンは、まちまちだ。基本的に南北朝鮮、中国、日本でやるとどうなるのか。そのはしりが自由貿易協定という面での国境をなくすという考えだ。

 日本はそれに労働力移動や金融・投資の自由も含めてEPAを求めている。アメリカはさらに太平洋全体でということを言い出している。始めはニュージーランドやブルネイといった小国で始めた構想に乗ってきた。すでに50カ国以上が加盟しているAPECに呼びかけていっそのこと関税のない貿易をしようというのがTPP。

 10年で一切の関税を撤廃することを原則としている。FTAやEPAは二国間協定だから、例外を設けることができる。しかしTPPは例外を認めない。そのことが日本にとって課題となっている。関税がなくなると、競争がモノにでてくる。韓国とEUはFTPを結んでいる。韓国はヒョンダイの自動車を無税で輸出できる。サムソンの薄型テレビも無税。しかしトヨタの車には乗用車に10%、東芝のテレビは14%の関税がかかる。どちらが競争力があるか分かる。
日本は農業の国内保護政策がある。米の関税は779%、バターは360%、小麦は252%だ。アメリカのコメに700%の関税をかけてようやく日本のコメに競争力が生まれるということなのだ。これがなくなる。カリフォルニアのコメはコシヒカリもヒトメボレもつくっている。日本人がつくっているのだから。

 愛媛県にとってかつてのオレンジ戦争がいい例。日本のかんきつ類が全滅するといった。そういうことが心配されている。しかし、関税で保護ばかりすればいいのかというとそうでもない。ヨーロッパのような考え方をしなければならないこともある。

 医療、金融、食品安全基準、労働力などいろいろなことが起きる。FTAでインドネシアやフィリピンの看護士や介護士が来ています。野田政権は最近、ベトナムからも看護士を受け入れることにした。外国資本の病院が松山にできるとどうなるか考えなければならない。どこまでいくか未知数だが、東アジア共同体を前提としたTPPやFTAの進行は急激な変化をもたらす可能性もある。

 一転して東アジア共同体ができると仮定してみよう。ユーロのような単一通貨が採用されると、北京でもソウルでのピョンヤンでも日本でも、たとえば「アイジアン」という通貨を入れて同じお金を使うことを想定してみてほしい。それどころか東アジアの首都は北京になり、議会はソウルにあり、裁判所は東京、中央銀行は台北、そんなことがヨーロッパで起きている。世界連邦をつくるということはそういうことなのだ。そういう覚悟がわれわれにあるのか問われている。

 世界連邦は経済交流つまり自由貿易が深化して経済面で国境がなくなるのが第一段階。もう一つは地域的統合が進む。北米のNAFTAはカナダ、アメリカ、メキシコの関税はない。南米のメルスコールがあり、南北アメリカを一緒にしようという構想も進行中である。そして環太平洋がある。そのほか軍事面をどうするか信頼関係をどうするか、他の人権などの課題をどうするか。そういうことを考えると東アジア共同体の未来はとても難しいと思う。昨年、欧州連合本部のあるブリュッセルを訪ねた。27カ国の旗があり、その旗の下にすべての加盟国の国名が書いてある。英語ではなく、それぞれの言語で表記されている。よく見るとすべてアルファベットだ。キリスト教に加えてアルファベットという共通基盤がある。アジアはどうだろうか。

 EUをモデルにして世界連邦についていろいろ話をした。実際、国連の議員を選んで総会に出すとか、連帯税をつくるとかいろいろな試みがあるがまだ流動的だ。私たちの運動が近い将来どうなるか。また世界はどう動いていくかについては未知数のことが多いが、冒頭に話したようにわれわれは世界連邦以外に世界の問題を解決する根本的なシステムを持っていない。


世界連邦運動協会高知支部
事務局 高知市伊勢崎町10-3 090-1174-0299 FAX:088-824-5568 mail:peace.kt0125@plette.plala.or.jp

支部長 伴 武澄
事務局長 谷相勝二
会計担当