ポーランドにとっての神、名誉、祖国1999年09月24日(金)萬晩報通信員 高橋 吉紀
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2002年のEU正式加盟を目指すポーランドは、近年外国企業の市場参入も盛んで、グッドイヤーやミシュランといった主要タイヤメーカーの進出に代表されるように、旧国営企業が外国資本に吸収される動きが活発化している。 豊富な労働力(労働人口約1500万人)と高い教育水準(8年制の義務教育)、低い労働コスト(平均月給約4万円)、地理的優位性(ロシア=ヨーロッパ市場の中心)、国民の約9割がローマ=カトリックであることにより宗教的対立も無いに等しく、ヨーロッパ屈指の経済特例を設けて国も誘致に積極的だ。
●張り出されたい1枚の声明文 約1800人のワーカーのほとんどは地元採用、社員の平均勤続年数は何と22年で、社会主義の遺影を今だ色濃く残している印象を受けた。市場は競争原理に傾く一方で経営理念は旧態依然であったため、資本と共に人材も送り込み、いわば「日本式」経営を範とした二人三脚体制がスタートした。 経営再建策として人員削減を含むリストラを断行しようとしていた矢先、工場に一枚の声明文が張り出された。社内に2つある組合のうちのひとつ、「連帯」系の組合が発表したものだった。全体の趣旨は「解雇反対」という至極当然なものだったが、その文中には日本人への抗議文も含まれており、本旨よりもこの部分が波紋を投げかけることになった。
●神、名誉、祖国の意味 無論、本意ではないにせよ、私たち日本人の言動が不快な印象を与えたことが事実なら十分反省しなければならない。しかし「神、名誉、母国」という言葉が労使間協議のキーワードに持ち出される事態は、職場にイデオロギーを持ち込んだ経験のない私たちに少なからず驚きをもたらし、同時に胡散臭いものを感じさせた。 ポーランドでは、過去に「連帯」運動の中心的役割を果たした労働組合であっても、当時のような「労働者擁護のための闘争」という単純な図式はもはや通用しなくなっている。外国からの資本参入を待つ旧国営企業は多く、投資を得られないまま倒産に追い込まれるケースも多いのが実態だけに、強硬路線から協調路線へ転換し、会社そのものの存続を優先する選択を余儀なくされている。
●埋めきれない文化的断層 無論、経営に参画している以上「金は欲しいが日本の流儀はいらない」という主張は到底承服できない。しかし、理論だけでは埋められない文化的、思想的断層を目の当たりにして、果たして自分たちの哲学で対処しきれるのかという不安を拭い去ることはできなかった。 過去の経験から言えば、海外で民族や人種、宗教、教育レベルの低さという問題に直面しても、日本の流儀を持ち込み、金と時間を注ぎ込んで何とか形にしてきたのだった。しかし、その方法論は、相手がそれを受け入れる文化的素養を持ち合わせていて初めて体を成す。 その事実は、何よりも戦後の日本が実証している。だが、日本は良くも悪くも盲目的に資本主義を追従した一方、ポーランドの「闘争の歴史」はそれを許さないだろう。ポーランドは魅力溢れる投資対象国だが、どのような進出形態をとるのが得策なのか、日本企業にとっては難しい選択となるように思う。 トップへ 前のレポート |
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