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無料コンサートに見る日米文化の違い

1999年07月28日(水)
Feature Press 形山 昌由



 暴動という形で幕を閉じた伝説の野外ロックコンサート「ウッドストック」の影に隠れてしまったが、この時期、もうひとつの野外コンサートがニューヨークで開かれていた。コンサート・イン・ザ・パークスと呼ばれ、ニューヨーク・フィル・ハーモニックが年に一度無料演奏会を開く催しで、1965年から開かれている。今年30周年のウッドストックより歴史が長い。

 マンハッタン、ブルックリン、ブロンクスなどニューヨークの各地を転々とし、5日間に渡り演奏を続ける。今年はドボルザーク、チャイコフスキーなどをおよそ2時間に渡り演奏した。

 セントラルパークで開かれた回に足を運んだが、これがなかなかすごい。夕方ごろから続々と人が押し寄せ8時の開園時にはその一角は満員。足の踏み場もないほどに混雑している。数千人はいるだろう。ちなみにサマータイムのため、8時半ごろまではだいぶ明るい。

 みな楽しみ方が自由だ。会社帰りのグループや家族づれ、カップルなど集まる人々も様々で、芝生の上にタオルを置き、お弁当とワインで談笑しながら音楽を楽しむ。ライトがないために9時ごろになるとだいぶ暗くなるが、用意したキャンドルを付けるなど準備も周到。いつもならこの時間にセントラルパークへ足を踏み入れることなどとても危なくてできないが、この日だけは特別。ニューヨーク市警も警備に協力して、いたるところに警官が待機している。

 クラシックだからといって肩に力など全然入っていない。この時期のニューヨークはかなり蒸し暑いためタンクトップかランニングに短パン姿が一般的。芝生の上に寝転がって音楽とおしゃべりを楽しむ。雰囲気としてはコンサートというよりピクニックに近い。

 10時前に演奏は終わり、最後に行われる打ち上げ花火に歓声を上げながら帰途につく。別にクラシックファンというわけではないが、それでもとても優雅に時を過ごしたような気分になる。何よりもクラシックが身近な場所にあるということに、西洋文化の奥行きの深さをみたような気がする。

 このイベントはタイムワーナー社がスポンサーになり、ニューヨーク市が協力している。長い歴史のなかで延べ1300万人が訪れているという。野外クラシックコンサートはアメリカではそう珍しくなく、ロサンゼルスでも大規模なものがある。

 こういうイベントが日本であったかな、と思う。夏になると山奥で若者を集めたロックフェスティバルがときどき行われるが、身近で開かれ、しかも子供からお年寄りまで楽しめるものはあまり聞いたことがない。

 例えば日比谷公園にNHK交響楽団を呼び、アフター5にあわせて無料コンサートを開くというのはあまりなじまないのだろうか。別にクラシックがダメならほかのジャンルでもいい。喜多郎のような音楽なら割と年齢に関係なく解けこみやすいと思う。極端な話、音楽でなくともいい。日頃、なかなか見る機会のない日本の伝統文化をこうした場所で披露していけば、少しは身近なものとして感じるのではないだろうか。

 こういうことを考える企画マンがいないのか、それとも効果がないとはなから決めているのか。企業としても文化活動のスポンサーになれば社会的イメージがあがるはずだ。仮にこの種の企画が金にならないと思っているのだとしたら、近視眼的だと思われても仕方がない。生活の豊かさとは所得の多さだけでは決してきまらないことをよく考えて欲しい。(かたやま・まさよし)


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