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発電余力を持て余す素材産業?

1999年07月26日(月)
萬晩報主宰 伴 武澄



 07月20日付萬晩報「沖縄電力に匹敵する神鋼の発電事業の能力」の続編です。

 神戸製鋼所はすでに自家発電用に53万キロの発電能力を持っているからこの会社の発電能力は新規の140万キロワットを加えれば、すでに沖縄電力をはるかに凌駕しているといっていい。

 ちなみに50万キロワット以上の自家発電を持っている企業は東ソー、王子製紙、新日鐵、川崎製鉄、神戸製鋼所、大昭和製紙、JR東日本である。新日鐵は大分と君津などで共同火力(電力会社と共同出資)を持っている。合わせて238万キロワット。自前の60万キロワットを加えると300万キロワットである。

 鉄鋼大手が巨大な電力会社でもあることは以下の表をみてもらえば分かる。

自家発電能力
共 同 火 力など
合  計
新 日 鐵
60万Kw
238万Kw(君津95 堺15
       戸畑78 大分50)
300万Kw
川崎製鉄
54万Kw
 61万Kw(水島61)
115万Kw
N K K
47万Kw
 70万Kw(福山70)
117万Kw
住友金属工業
29万Kw
170万Kw(鹿島140 和歌山30)
200万Kw
神戸製鋼所
53万Kw
140万Kw(卸売りIIP)
193万Kw
合 計
 243万Kw 679万Kw
925万Kw

 上記の表は火力原子力発電技術協会の統計と日本電気協会発行の資料に基づいて萬晩報が独自に作成したものである。

 電力会社の発電能力は東京電力の5100万Kwを筆頭に、関西電力(3535万Kw)中部電力(2665万Kw)九州電力(1620万Kw)東北電力(1150万Kw)と続き、6位の中国電力は995万Kwだから、鉄鋼大手5社の潜在能力は中国電力に匹敵するといえる。ちなみに中国電力の売上高は1兆円である。

 ●外販できるのは新規の発電装置だけという片手落ち
 これまで述べたは鉄鋼業界の発電能力はあくまでビジネスとしての数字ではない。1995年から始まった電力の自由化が問題なのは、電力会社に売ることができるのはあくまで「新しい発電設備」による発電に限定した点である。たとえ製鉄所内の需要を上回る発電能力があっても「外販」できないのである。

 そもそも鉄鋼大手が発電能力するようになったのは、千数百度という高炉の余熱利用が最初である。鉄鋼を薄く引き延ばす作業である「圧延工程」では何回も鉄の塊りを暖め直す必要があり、その際にとてつもない電力を消費する。製鉄所内の余熱利用でコストダウンを図ってきたのである。

 鉄鋼大手の製鉄所は一番新しいものでも20年以上の年月が経っている。減価償却を終えた設備から生み出される電気のコストは、われわれが日ごろ電力会社から買わされている電力料金と比べて桁外れに安いはずだ。  鉄鋼大手は昨今もてはやされている設備過剰を抱える最たる業界である。川崎市にあるNKKの扇島工場には広大な遊休地があり、これからの鉄鋼業界のリストラを前提に考えれば、鉄鋼業界における発電能力の潜在性は相当に高いはずである。

 自家発電の余力が出てくるのは鉄鋼業界だけではない。紙パルプ、ソーダ、石油化学やひょっとしたら繊維業界だって余力がでてくるかもしれない。

 公営企業としての電力会社は国民の将来の電力需要に対して責任があるとの立場を取り続け、通産省も同じスタンスである。しかし、巨額の投資をして、しかも遠隔地から高いコストの電力を消費地に運ぶ手間を考えれば、これからの電力需要の増大に積極的に関与すべきなのは電力会社ではなく、設備過剰に悩む素材産業であることは歴然としている。(続)

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