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銀行・国鉄・景気で計128兆円の国民負担増

1998年11月17日(火)
萬晩報主宰 伴 武澄


あなたは目の読者です。

 11月16日、20兆円と言われていた第二次景気対策が24兆円に決まった。同じようなことが半年前起きた。1998年03月26日「 昨夜の10兆円が朝方12兆円、夕方に16兆円となった」で書いた。1988年度一般歳出44兆円(一般会計は77兆円)に加えて、2回の景気対策で事業規模40兆円、国費ベースで20兆円をつぎ込むことになった。日本政府はほとんどやぶれかぶれである。

 宮沢喜一蔵相は「常識では考えられないことまでやる必要がある」と述べたことがあるがまさに非常識の大判振る舞いである。さきに60兆円の資金枠を確保、銀行救済につぎ込むことを決めたばかりである。総計100兆円は日本のGDPの4分の1に当たる。ドルベースで言えば8000億ドル、単純比較はできないが、超大国アメリカが最大の赤字に陥った1993年度でさえ赤字は3900億ドルである。繰り返すが日本の場合、追加額である。

1992年8月総合経済対策 10兆7000億円 公共投資8兆6000億円
1993年4月新総合経済対策 13兆2000億円 公共投資10兆6200億円
1993年9月緊急経済対策 6兆2000億円 中小企業対策1兆9100億円、94項目の規制緩和
1994年2月総合経済対策 15兆2500億円 公共投資7兆2000億円、減税5兆8500億円
1995年4月緊急・円高経済対策 7兆0000億円 阪神復興3兆8000億円
1995年9月経済対策 14兆2200億円 公共投資12兆8100億円
  計   66兆5700億円 
1998年4月総合経済対策 16兆6500億円 公共投資07兆7000億円、減税4.6兆円
1998年11月緊急経済対策 23兆9000億円 公共投資08兆1000億円、減税6兆円超
  総計   108兆2200億円 

 これまでの1992年度から8回目の景気対策を列記した。95年までの計66兆円の景気対策が景気浮上になんら効果がなかったことは多くの経済評論家が語っている通りである。政府は、今回の景気対策について「2.3%のGDP浮上効果がある」と試算しているが、民家では「1%程度しかない」という論評も出ている。政府としてはなんとかプラス成長に持ち込むために景気対策の事業規模を水増ししたのである。

 ●通念の3倍の公共事業は消化不可能
 そもそも「2.3%の浮上効果」というのもおかしな話である。事業規模24兆円がすべて使われたら、500兆円弱という日本のGDPの規模から見て単純計算で少なくとも5%程度の押し上げ効果があっておかしくない。しかも4月24日の第一次景気対策発表時には「16兆円で2%のGDP押し上げ効果がある」と胸を張っていたのだ。相乗効果を加味すれば、2桁台の試算が出てくるのが常識だ。

 萬晩報の見通しではこんな規模の事業を現在の日本で年度内にこなすことなど不可能だ。当初予算の公共事業費は9兆円弱で、一次の追加分が7兆7000億円、二次分8兆1000億円であるから、年間の公共事業費は通年の3倍となる計算である。いずれ、来年度予算とのからみでどこかに雲散してしまう可能性があるのだ。

 消化する唯一の方法は、前払いでゼネコンに建設資金をつぎ込んでしまうことである。次に起こるだろうことは競争原理を逸脱した入札がそこかしこで出現するかもしれないという懸念である。消化できない予算を無理に消化しようとすれば、以上の二つの方法しかないからである。

 問題はいくつもある。ゼネコンへ前払いした場合、ただちに土木労働者に賃金が支払われず、当面の資金難に陥っているゼネコンのバランスシート修復の役に立つだけに終わりはしないかという疑念さえある。そうなったら景気回復どころではなくなる。単なる国によるゼネコン経営救済にしかならない。

 ●ただちに日本国債の格付けを引き下げたムーディーズ
 いずれにせよ、これだけの資金を市場から調達することになれば、債券市場の急上昇は免れない。萬晩報の持論である金利高騰が日本を襲うことになる。11月17日、ムーディーズはさっそく日本の国債の格付けランキングを最上級から引き下げることをことを発表した。

 当たり前の話である。信用力なしに巨額の資金調達をすれば、円安になるか金利高騰を招くのが市場原理というものだ。60兆円が銀行経営救済なら、24兆円の多くの部分はまさにゼネコン救済対策といえるのかもしれない。そうほうとも企業会計の負の遺産を政府=国民負担に切り替えたに等しい。

 最後に思い出した。萬晩報の読者は、60兆円の銀行救済策で影が薄くなった旧国鉄債務問題では、28兆円の借金が国鉄清算事業団から国へと付け替えられていることもよく覚えておくべきだ。

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