巨額な経済対策が壊した労働力の適正配分1998年05月29日(金)朝倉 渓(ジャーナリスト) | |
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5月18日付萬晩報「12年間に建設業従業者が155万人も増えた日本という社会」の内容を補強するレポートが建設業界を担当するジャーナリストから届いた。論議を広げる意味で筆者の了解を取って掲載します。 建設業界の就労者数が過去15年間で30%弱の伸びを示した要因として、雇用調整や労働力の適正配分、業態別の棲み分けなど基本的な無策がある。1993年下半期からの急速な円高を背景に、国際競争力にさらされた素材産業やメーカー各社は打撃を被り、特に輸出依存度が高い業者は生き残りをかけて要員合理化や生産ラインの休止措置で固定費を削減し、果ては海外での生産設備を整え財務体質の健全化を図る名目で日本の空洞化が始まった。
●過去10年間で100万人の雇用を押しつけられた建設業界 政治改革を口にした内閣が決まって崩壊してきたが、一票の格差や議員定数といった根元的な問題を論じることなく、中選挙区から小選挙区への移行という選挙区制の変更で政治改革のお茶を濁した政府にとって、最も手っ取り早い方法が多額の経済対策を打ち出し、しかも公共事業に税金の大半を費やすことで、一時的な景気浮揚と雇用確保を狙ったその場限りの政策を実行することだった。
●潜在失業者をカウントした失業率は5%を超える また失業率に輪を掛けて問題なのは、有効求人倍率が過去最低を記録していることだ。これは、高まる失業に反比例して雇用の受け皿が減少していることを意味し、また雇用を確保できる新規ビジネスが生じていない社会環境を意味している。末期的な症状と言って良い。
●マニュアルなく手も足も出ない税制抜本改革 ビッグバンや新規事業の創設を真剣に考えたとき、税制の抜本的な改革が急務と思われる。徴税は国の最高主権にして主計と違って米国などの外圧を受けない。このため主税局は一度決めた徴税方法の見直しをせず、一定の税収制度を確保することばかりを死守している。直間比率の見直し、間接税への移行が急務とではないだろうか。子供のころからマニュアルに準じた偏差値教育にしがみつき、成績だけを金科玉条のごとく人生の中核に置いて生きてきた大蔵省を筆頭とする偏差値エリートの限界が露呈されている。 税体系の抜本改革に当たっては、マニュアルがないため手も足もでないのだ。先日取材した労働省の役人が嘆いていた。金融機関の貸し渋りや融資回収がひどく、企業は財務体質改善や生き残りを賭けてかなりのリストラを断行している。労働省が認定した企業には雇用調整給付金を出しているが、現在の56%にも上る法人税が企業を直撃し、合理化効果と税金である雇用調整給付金の効果を帳消しにしている。
●過去の経済対策がもたらしたいびつな労働配分 資産デフレの元凶となったバブル経済の呼び水も確か6兆円の経済対策だったはず。票稼ぎの小手先の経済対策がもたらしたものが、「萬晩報」が指摘する建設業界の就業者数の異常な増加と、予算比率に応じたいびつな労働配分なのだろう。
朝倉 渓さんは30歳代後半のジャーナリストで、金融や建設業界をターゲットに現在、取材しています。
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