「タラへ帰ろう」で考えた7000万人のアイルランド魂1998年04月15日(水)萬晩報主宰 伴 武澄 | |
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マーガレット・ミッチェルの「風とともに去りぬ」の最後に主人公のスカーレット・オハラが「タラへ帰ろう」と叫ぶ場面がある。南北戦争ですべてを失ったスカーレットが曽祖父が入植して大農場主になった地名だが、アイルランド人にとって「タラ」という地名には特別の思い入れがある。ダブリン西北36キロにあるタラはアイルランド古代神話の時代から大王の居住する聖地だった。現在は何の変哲もないむらだが、巨石時代の遺跡が発掘されている。 元アイルランド大使の波多野祐造氏著「物語アイルランドの歴史」(中公新書)を読んだ。アメリカはたかだか200年の歴史しかないと考えていたことが、そうではないことが分かった。住み着いた人々の背後に2000年の歴史がある。浅薄な歴史認識にずいぶん反省した。 現在のアイルランドの人口は350万人の小さな国だが、世界各国にアイリッシュ系といわれる人々は7000万人を超す。その多くがアメリカ在住で、これらの人々が誇りを持って「アイ・アム・アイリッシュ」と自己紹介する。そんな人々がやってきたアイルランドの国の由来を知らないことはアメリカを知らないことにも通じる。
●760年間も続いたイギリスの支配 アイルランドの独立は1937年だ。それまではどうだったか。英国の支配下に長くあった。ヘンリー2世の時代にイングランドがアイルランドに派兵し、1175年のウィンザー条約でイングランドの支配下に入った。ヨーロッパは中世であり、日本でいえば源頼朝が鎌倉幕府を開く30年以上も以前の話である。実に760年間もイギリスの支配が続いた。 驚くべきことに、アイルランド人は760年間も間、イングランドに同化しなかった。この間、混血も進んだ。しかし、アイルランド人は逆にイングランド人たちを同化した。16世紀のヘンリー8世によるイングランド教会設立後もカトリック教を守り抵抗運動を続けてきた。北アイルランドではようやくカトリックと新教徒との和解の糸口が見えているが、いまもこの地は連合王国の一部だ。 日本人だったらとうの昔に血が薄くなっていたかもしれない。民族の誇りという点ではユダヤに次ぐのではないかと思う。
●音楽とダンスと黒ビール アイルランド音楽は、悲しいアジア的響きがある。それでいて足踏みを鳴らしたくなるリズムがある。ダンスのステップはそうとう難しい。マンドリンだとかリュートだとか多くの楽器も生み出した。ウエスタン音楽に欠かせないバンジョーもアイルランドで生まれたそうだ。 ちなみに、いまアイルランドは経済も好調だ。10年ほど前、取材した在日アイルランド人は故郷で「大学を卒業しても働く場がない」と日本企業に就職していた。外資導入で経済を立て直したのは英国よりも長い歴史がある。そしてアイルランド産のギネスの黒ビールが最近、とみに流行っている。日本だけでない世界各地でアイリッシュ・バーが相次いで生まれている。 |
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