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台風の目となった台湾資本の北陸での操業

1998年03月20日(金)
萬晩報主宰 伴武澄

 ●日本市場に風穴を開ける
 台湾資本のポリエステル加工糸工場が2月、石川県高松町の工業団地で操業を開始した。日本の繊維業界が「斜陽」といわれて久しい。その斜陽市場に台湾企業が進出した。筆者はニュースだと思う。だが、筆者が籍を置く共同通信社を含めて大手メディアはあくまで県版ニュースに押し込めている。

 企業名は「山越」。日本名だが台湾合繊大手の一角である「華隆」が出資した。社長の山中友希氏は繊維機械の村田機械からスカウトされた。ポリエステル加工糸は年産700万トンからスタートし、9月には2000トンに能力アップする。

 日本のポリエステル加工糸の国内消費量はほぼ1万トン。その2割を生産する工場が国内最大産地の一角に忽然と現れるのだから、東レだとか帝人は心中、穏やかでない。しかも国内の加工糸は海外市況の2割高である。台湾企業が国際価格で加工糸のユーザーに売り込めば、こちらも複雑な心境になる。

 合繊は、栄光ある撤退を決め込み、事業廃棄に当たっては通産省から手厚い加護(補助金)を受けてきた業界だ。ボクシングでいえば、相手に致命傷を与えないようプロテクターをたくさん着けてリングに立ち続けてきた。北陸ではそんな試合が2月から突然、裸のルールになった。

 一度、取材に行きたいのだが時間がない。業界紙が伝える事情によると北陸産地は「昨年秋まで好況だった加工糸市況は年明けから一変した」「9月の"台風の目"が本格稼働する前に市況はすでに暴風雨圏に入った」と報じている。山中社長は「自家発電などで徹底的にコストを下げる。その上に適正利潤を乗せて販売する」と強気だ。2月13日付繊維ニュースは「山中社長には、国際市況から2割程度高いとされる日本の市場に十分風穴を開けられるとの読みがある」と判断している。

 ●台湾企業に感謝すべき北陸産地
 1980年代からどこの自治体でも「国際化」と「文化」を掲げた。結果、多くのきらびやかな国際会議場や美術館の建設が相次いだ。美術館には展示するものはない。学術員や研究員が不足しているから何をしていいいのか分からない。国際会議場でお年寄りのカラオケ大会が開かれるなどという笑えない話が続出した。

 アメリカでは1960年代以降、多くの欧州企業が上陸した。80年代には日本企業が、90年代にはアジア企業が既存企業の買収などを通じてアメリカに新境地を開いた。台湾繊維最大手の南亜はアメリカでの企業買収で成功し世界の五指に入った。ブリヂストンはFireStone社の買収で単なる国内メーカーから世界有数のタイヤ企業に成長した。

 日本では、国際化が叫ばれながら企業どころか、土地も売り渡さなかった。海外勢の新規参入にはあらゆる手段で待ったをかけた。その結果、カネもヒトも入ってこなかった。80年代後半からは円高でドル建て価格が上がり、日本の土地や企業はさらに手の届かないものとなった。マスコミは日本パッシングと騒いだ。

 そんな日本に台湾企業がやってきたのだから本来、日本は諸手を挙げて歓迎しなければならない。誰も買ってくれなかった日本に買い手がついたことを喜ばなければならない。国内でも製造業が成り立つことが実証されれば、この台湾企業に感謝しなければならない。

 先週、大阪で英国ウェールズ州開発庁主催の「St. David's Day を祝う会」が開かれた。州選出の上院議員まで来日、日本企業の投資に感謝した。炭坑しか産業を持たなかったウェールズが復活したのは外資のおかげであることを何度も強調した。投資額ではアメリカに次いで日本が二番目に多い。

 日本企業は松下、シャープ、日産自動車など電子、自動車、化学と広範囲な分野で成功を収めている。日本企業が繁栄し、ウェールズ州の経済も復活したこの手法に経済企画庁が密かに関心を高めている事実がある。いま自治体が考えるべきことは外資の誘致だ。

 国際会議場の完成で酔っている場合ではない。東京で陳情合戦を繰り返す時間とカネがあるのならば、知事自らアジアを中心に海外を回って頭を下げるべきである。海外から新聞記者を招いて県内を案内して回るべきである。体力をなくした日本の大企業がやってくる可能性はもはやないと覚悟したほうがいい。  

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