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地価高騰は住宅金融公庫の35年ローンから始まった

1998年03月19日(木 )
萬晩報主宰 伴武澄

 住宅不況だという。年間150万戸あった住宅着工件数が1997年度には120万戸に落ちるからだ。150万戸という数字は、人口が二倍のアメリカの住宅着工件数を上回る水準だ。前々からアメリカ並みなら日本の住宅着工は70万戸が適性水準だと思っている。いったい誰が150万戸などという常識外れの水準を日本に定着させたのだろうか。

 今回は、日本の国民が払っている住宅ローンについて考えた。一昨日、大和銀総研のアナリストと飲んだ。若い頃は銀行員だった。

 ●10数年前は20年までしか貸してくれなかった
 「住宅ローンの35年っていくらなんでも長すぎるんじゃない」
 「そういえばそうです。僕が支店にいたころは最長20年だったですよ」
 「そうだろう。俺は住宅金融公庫が1980年代後半に始めたのを知っている。俺が89年にマンションを買ったとき、すでに35年だった。マンション業者は公的融資を目一杯借りてしかも35年で返済する条件で月々の支払額を計算してくれたから、そのまま契約したんだ。まだ疑うことを知らなかったんだ。でも入居してから毎晩、帰宅する度に目にする小さな光の空間に35年間も払い続けるのか自問した。当時、36歳だったから71歳という年齢を想像したんだ」
 「それってすごい発想ですよ。だれもそんなことは考えない」
 「まあ、黙って聞いてよ。すぐに借金地獄から出ようと考えたんだ。妻は老後どこに住むのよ、なんて言い出すから悩んだ。でも道理の合わないことはいやだとう生来の気性がだからしかたない。ままよと売却に出した」
 「当時だったら、それってキャピタルゲインになったんでしょう」
 「だから銀行マンはいやなんだ。道理の話をしているんだ。売った後で住宅金融公庫は詐欺だって考え出したんだ。だってそうだろ。バブルで住宅価格が高騰して買えなくなったから、融資金額は増やすは返済期間は長くするはで、もう売らんかな一色だった。そうそうステップローンなんて詐欺の上塗りもした。元利均等払いというのも大きな問題だ。新規売り出し物件の倍率は天文学的で、国民ももう買えなくなると思って焦った。これ焦らせたんだな」
 「それほどの意図が政府にあったかどうか」

 ●広大な港北ニュータウンを即売しなかった公団
 「まあ、意図はあったかどうか知らんが、結果的に焦った。前に賃貸で住んでいた鷺沼の南方には住宅公団の港北ニュータウンがあった。広大な空き地だった。本当にタヌキが住んでいた。多摩ニュータウンと同じでマンションなら何十万人も住める空間だ。なんで一挙に売り出さないのだろうと思った。一挙に売ればあの時、地価高騰は絶対に防げたのだと思うぜ。政府も値上がりを待っていたんだ」
 「いやー。知らなかった」
 「そのときもう銀行員だったんでしょ。知らなかったではすまされないよ。1988年だったと記憶しているが、政府は地価対策で何したか覚えている?中央官庁の組織の一部地方移転だ。北区にあった母校の東京外大も対象になったのはいいが、調布に引っ越すってんだ。那須高原とか富士の裾野なら分かるけど、東京のサラリーマンは川越だとか土浦だとかでようやく買えるかどうか議論していたんだ。それでもさっさと引っ越していればまだしも外大は今年ようやく移転するんだ」
 「ローンの35年の話はどうなったのですか」
 「そうだった。政府が国民に借りる長期国債は10年。アメリカでも30年だ。それより長い貸し出し期間って民間で考えられますか。定年までに払い終えるには25歳で購入しないと間に合わない。あのとき、住宅金融公庫が35年を言い出さなければ、結局だれもマンションを買えなくなって地価高騰は自律的に止まったはずだと思う」

 ●2、3年住宅を買うのをがまんしよう
 「お言葉ですが、地価高騰に火を付けたのは東京が国際金融センターになるって急激にビル需要が増えたからじゃないですか」
 「前向きの議論をしているのに。火付け役はそうであってもサラリーマンの悲劇はそうでないんだ。1990年代にサラリーマンが暗くなったのはほとんど住宅問題に起因している。最近の女性問題も少年犯罪もひょっとしたら遠因は住宅かもしれない」
 「35年ローンはどうすればいいんですか」
 「うん。それでだ。少なくとも公的なローンを1日も早く最長20年、できれば15年にすればいい。乱暴かもしれないが、2、3年国民が住宅を買うのをがまんすればいい。売れなければ地価は下がり、不動産会社も住宅メーカーも買える価格帯の住宅を供給しはじめる。景気はどうなるかって。そんなことは知らない。年間150万戸なんてめちゃくちゃな水準の着工件数を早く常識的な水準に下げなくては不幸が続く」

 議論は延々と続くので今回はこれでおしまい。

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