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ワシントンで北朝鮮問題を眺望する

2004年03月29日(月)
ジョージワシントン大学客員研究員 中野 有

 北朝鮮問題を語るのは難しい。1月に帰国した際に、テレビで北朝鮮問題の解決の鍵になるのは経済協力であると語ったところ強硬派から抗議を受け、拉致問題の感情的な側面を考慮し、経済制裁が必要であると説けば今度は、北朝鮮の孤立を懸念するグループからの抗議が届いた。要するに、北朝鮮を観察するにあたり、当たり障りのない現状分析にとどめるのが無難なようである。

 しかし、構想を練り実現するという陽明学的な考えを推進するためには批判を恐れてはいてはいけない。今、必要とされるのはアジアの大局観に基づく具体的な平和構想のグランドビジョンを練ることである。2002年の9月の小泉訪朝以来、北朝鮮問題がマスコミの主役になっているものの議論だけで、これといった結果がでないのは、保守的な空気が蔓延しているからだろう。

 そんな空気を一掃するためにもワシントンから北朝鮮問題を眺望するにあたり、北朝鮮問題にはどのような障壁があり、それを越える国際情勢の変化を考慮しながら、北東アジアのグランドビジョンについて簡潔に論じたい。

 米朝間の障壁

 米国が安全保障の側面で最も懸念するのは、大量破壊兵器の問題と国際テロとの繋がりである。悪の枢軸である北朝鮮は、核兵器の開発を公表し、ミサイルや核拡散およびテロ国家との繋がりと広範囲にわたり米国の宿敵を演じている。ワシントンの北朝鮮専門家の多くは、余程のことがない限り北朝鮮が完全に核兵器を放棄するとは考えられないと読んでいる。

 一方、北朝鮮は、米国の不可侵条約を唱えており、当然のことながら米朝の妥協点を見いだすための双方の歩み寄りは見いだされそうもない。ワシントンでこのような空気に接していると、米国が北朝鮮の瀬戸際外交や脅しに屈し、北朝鮮の要求に甘んじることは、外交の汚点を残すことになりかねないことから平行線をたどる他はないと考えられる。

 米国はどうして北朝鮮を攻撃しないのか

 ブッシュ政権のイラクと北朝鮮における矛盾は、大量破壊兵器を保有しているかどうかの判断がないままイラクに先制攻撃を仕掛け、核開発を諦めない北朝鮮に対し、先制攻撃を仕掛けないところにある。イラクの石油資源をあてにスクラップ&ビルド戦略が行われ米国の一部の企業は戦争の特需の恩恵を受けたものの、現時点においては米兵の500名以上の犠牲を見れば明らかに米国の失策であろう。

 9.11に端を発しアフガニスタン、イラクへと軍事制裁が実施されたが、そのつまずきにより北朝鮮は米軍の攻撃を免れているとの見方もある。しかし、米国が北朝鮮問題を建設的に関与しない理由は、朝鮮半島における冷戦構造の残存にあるように考えられる。朝鮮半島の38度線を境に、北朝鮮・中・露に対し、韓国・米国・日本が対峙している。この勢力均衡型の安全保障の状況において、日本は、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を防御するために実戦配備費のために1068億円を計上している。

 日米の共同開発によるミサイル防衛は、米国の軍需産業にとって魅力あるプロジェクトである。北朝鮮の瀬戸際外交と米国の軍需産業との関係は、けっしてマイナスの要素だけとは限らない。北朝鮮という脅威がなくなればミサイル防衛構想も必要なくなると考えれば、現在の朝鮮半島のステータスクオの状態が米国にとって有利に働いているとも考えられる。

 冷戦中、世界に60万人の米軍が派兵されていたがベルリンの壁が崩壊することによりその数は20万人に減少した。ヨーロッパにおける米軍は大幅に減少したが東アジアにおける米軍の10万人に変化はない。米国の軍事費は、2位から15位までの合計より高いという突出ぶりを示していることから、米国の基幹産業である軍需産業を保護するためには、朝鮮半島を含む米国による紛争への関与も必要悪と考えられないだろうか。

 1世紀前に英語で出版された岡倉天心の「東洋の目覚め」の中に、興味深い文章がある。

「ヨーロッパの政策は、支配するために分裂させることを決して忘れない。彼らは、スンニ派(回教の正統派)とシーア派(分離派)が敵対しあい、スルタンとシャーが国境紛争を対立外交にまきこまれるように、つねに気をくばってきたし、日本と中国の戦争を煽り立てることには並々ならぬ決意を示している」

 アジアが分裂の危機に瀕している時に、天心は「アジアは一つ」と説いたのである。一世紀前の天心の予言を現在の朝鮮半島に当てはめれば、米国が北朝鮮を攻撃するより朝鮮半島を分断させたままの方が米国の東アジアにおける覇権を有利に展開できると考えられないだろうか。

 朝鮮半島を取り巻く国際情勢の変化

 朝鮮半島の対立という不自然な状態が打開される動きが見られる。
 第一は、中国の経済協力を主眼とした多国間外交の成果が北東アジアの再編に影響を及ぼしつつある点である。六者協議の主役を演じる中国は、米国が懸念する大量破壊兵器の問題、韓国の通常兵器の問題、日本の最重要課題である拉致問題を包括的に考慮しながら北朝鮮問題の本格的な解決に乗り出したようである。中国は、中国の東北3省の開発に力点をおく政策を推進しており、その影響により北朝鮮周辺のインフラ整備が進むと予測される。

 中国、中央アジア、ロシアの協力を推進する上海協力機構、中国の積極的なASEANへの協力姿勢、並びに北東アジアの多国間外交を考慮すると、中国のアジア政策の成功は、米国の覇権を脅かしていると判断できる。従って、米国の対北朝鮮政策の再考が望まれる。

 第二には、韓国における反米感情の高まりと、韓国の中国への接近は、米国の戦争関与政策や朝鮮半島の現状維持を再考させ、ひいては米軍の再編に繋がると考えられる。

 第三は、北朝鮮がイラク戦に見られたような米国の容赦のない先制攻撃の恐怖より、核開発を完全に放棄することを前提に、米朝不可侵を多国間の枠組みで同意する可能性がある。リビアにおける成功例が北朝鮮で成り立つ。

 第四は、ブッシュ政権が宇宙開発に莫大な予算をつけることにより、米国の軍需産業が宇宙開発という名目で潤うことにより朝鮮半島における戦争関与政策から経済重視政策に変化する可能性もある。

 北朝鮮問題における日本の役割とグランドビジョン

 日本は米中を中心とした朝鮮半島政策の変化の動向を鑑み、日本の朝鮮半島政策のみならず北東アジア観についての明確なグランドビジョンを描く必要がある。対話(アメ)と圧力(ムチ)の両方が、外交の絶妙なタイミングで発揮されなければいけない。

 米国を除く世界の対北朝鮮政策は、多国間建設的関与政策が主流である。しかし、日本は拉致問題に固執することにより、北朝鮮に妥協するという空気でない。これは、米国における北朝鮮の核兵器の脅しに屈することはないとの空気と共通している。現時点では、米国は日本が北朝鮮へ経済制裁を仕掛けることを歓迎すると思われる。

 従って、日本の拉致問題を含む感情的な点を考慮し、北朝鮮への経済制裁を実施すべきであろう。しかし、歴史が物語るように国際社会との協調が欠ける経済制裁は効力が期待できない。この北朝鮮への経済制裁という圧力は、半年の短期に限定し、米国の大統領選の結果がでた時点で、世界の主流である多国間建設的関与政策派と協調し、本格的なグランドビジョンを提示する時期が到来しよう。

 北東アジアグランドビジョンとは、北朝鮮というブラックホールをラストフロンティアに変貌させるにあたり、北東アジア諸国のみならず欧米や国際機関との協調により、北東アジアに道路、鉄道、天然ガスパイプライン、通信ネットワーク等の国際公共財を整備し、北東アジアの共生圏や経済圏を構築する構想である。

 朝鮮半島の分断を経済協力を通じた協調的な安全保障で解消し、世界に開かれた北東アジアを目指す大きな試みである。日朝国交正常化が実現した暁には、約1兆円と考えられる北朝鮮への賠償は、多国間の協調を通じた北朝鮮の公共財および北東アジアの国際公共財推進の触媒となることが期待される。

 北東アジアにおける何千年の歴史に眼を向ければ、13世紀の元寇による日本への攻撃の他はないことから歴史が語る中国の思想と行動は、決して覇権主義だと考えられない。日本は西洋の覇権主義からアジアを護るために大陸に進出し、結果的にアジアに被害を与えたのみならず敗戦した。北朝鮮の核兵器の問題は、東アジアの問題のみならず地球の将来を占う問題でもある。

 世界で唯一の被爆国である日本は、核の問題に対し正論を堂々と述べることができる立場でもあると同時に、朝鮮半島の問題で平和構想を実現させるための使命を有していると考えられる。その為には、対話と圧力から幅の政策を通じた紛争を未然に防ぎ、アジアにおける経済圏を構築するという大いなる夢を実現させるグランドビジョンが求められる。

(国際開発ジャーナル4月号掲載「国際開発ジャーナル」誌は、1967年に創刊以来、30年以上にわたって途上国支援を幅広く報道している、日本で唯一の国際協力に関する専門誌です。) http://www.idj.co.jp/books/j.html

 中野さんにメールは mailto:tnakano@gwu.edu

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