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アフリカへの開発援助のすすめ
2003年10月05日(火)
ジョージワシントン大学客員研究員 中野 有
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齊藤清さんの「リベリアへの平和部隊派遣のすすめ」と伴主筆の「イラクを理由にアフリカ支援を遅らせてはならない」は、アメリカ追随型から脱却し、日本の国際貢献を考える意味での奇策であろう。ブッシュ大統領の訪日前に、国民レベルで納得のいくイラク復興支援を考える必要がある。
十分な議論もされることもなく、納得のいかないかたちで、日本はアメリカの要求に答えイラク戦を支持した。そして、イラク復興支援のための莫大な資金を提供する。湾岸戦争の時の日本の小切手外交に世界は冷淡であったことを思い出せば、どうせ、一人あたり1−2万円の血税を徴収されるのだったら、日本の意思による世界のための開発協力を実現させるチャンスと考えられないだろうか。「開発協力は、人類の義務である」と言われるように。
日本はイラク戦を容認した以上、軍事的関与は不可能であっても復興支援に関しては、避けて通ることはできない。問題は、莫大な金額のみならず、自衛隊や民間の派遣まで、かなりの危険が伴う覚悟が必要であるということで、一番重要なのは、アメリカや世界が納得する日本のイラク復興支援を日本の国民レベルで考えることであろう。
毎週1200億円という信じられない金額が、イラクの治安維持活動や復興支援のために消えている。ゲリラ戦の多発で、この金額もつりあがっていく。アメリカに忠実な日本は、いつまでもブッシュ政権のスクラップ&ブルド戦略に追随していいはずはない。ブッシュ政権とハリバートンやベクテルという入札なしでイラク復興支援に絡んでいる会社との癒着関係が指摘されている状況の中、ブッシュ政権主導のイラク復興支援構想に当然のことながら疑問をもつ必要があろう。
そこで、齊藤、伴コラムで指摘されているように、アメリカの開発援助がおろそかにされている地域への開発を強化することにより、イラク復興支援で日本が十分な対応ができなくとも、アメリカからも非難もされないし、同時に世界からも評価されるのではないだろうかという視点で考えることにより、日本の開発協力を主軸とした平和戦略が成り立つのではないだろうか。
齊藤さんは、西アフリカのギニーの奥地で、何年も生活され、アフリカの事情に精通されている。齊藤さんは、10年以上も紛争が続き、国がどん底の状態にある西アフリカのリベリアへの援助を強化すべきだと述べておられる。89年末にゲリラとして象牙海岸からリベリアに侵入した後のチャールズ・テーラー大統領が、先月、ナイジェリアに亡命をした。アメリカやアフリカ諸国の監視の下で、リベリアが復活しようとしていた矢先に、米軍がリベリアから引き上げてしまった。戦闘で米兵が負傷したのでなく、マラリアを患った米兵が続出したという。
14年前にチャールズ.テーラーがリベリアのバンガという町を占領し、そこを拠点にリベリア全土を制圧した。偶然にもその町を拠点に2年間、国連の開発援助の仕事に従事し、そこを去って2カ月後に紛争の幕がきられた。一緒に過ごした多くの人々が紛争の犠牲になった。リベリア人の3人に1人が難民になったということは、イラクより悲惨な状態であったといえるだろう。
今年の7月にブッシュ大統領は、アフリカを歴訪した。アフリカでも最も紛争の犠牲になり、また、アメリカの黒人のルーツの歴史を持つリベリアに、ブッシュ大統領は訪れるだろうと思われたがそれが実現されなかった。新聞の風刺によると、リベリアの英語の発音は、ライベリアであり、読書嫌いのブッシュ大統領は、ライブラリー(図書館)とライベリアを勘違いして、不幸にもリベリアはブッシュ大統領に見捨てられてしまったとあった。
アフリカは実に魅力的な大陸である。日本から遠く離れたアフリカで4年間生活し、日本の尺度では計り知れない多くのことを教わった。アフリカの大自然もさることながら、現地の人々や子供たちは、実に純粋であった。現地の人々と一緒に生活し、同じ目線で開発問題に取り組むことによって、少しでもリベリアのために貢献できたし、同時に人生観が変わるほど多くのことを吸収することができた。無邪気で純粋なアフリカの子供たちに接し、教育の重要性をひしひしと感じた。日本人は、教育という分野で無限にアフリカに貢献できることがあると。日本や国連が推進する「人間の安全保障」の原点は、教育にあり、先進国も途上国も互恵の精神で共に学び、世界の安定と発展に寄与することにあると思われる。
先進国と途上国との経済格差が拡大している。地域間の経済格差のひらきや貧困の拡大は、不安定要因を誘引する。リベリアの開発援助の仕事で学んだことは、もの作りの基本を共に学ぶということであった。教育分野の協力には、先進国の尺度ではたいした援助資金も必要ない。現地に入り、一緒に生活し、開発援助の仕事に従事することにより、紛争の芽を未然に防ぐことも可能となろう。イラクの復興支援には、莫大な資金がかかるが、アフリカの紛争を未然に防ぐ予防外交やアフリカの水準に適合した復興支援は、少ないお金で比較的安全な環境の中で、貧困撲滅に寄与でき、ひいては世界平和につながっていく。
日本の外交戦略は、日米同盟、国連外交による国際協調主義、アジア中心であるが、地球全体を包括したグローバルな視点で安全保障と開発協力を組み合わせることにより日本の外交戦略や開発構想に磨きがかかると考えられる。今、イラク復興に莫大な資金を投下するのでなく、地球全体の開発構想を練ることが重要であろう。また、国際フリーターの経験から若者に、アフリカで現地に溶け込み生活し、開発援助の仕事に従事する魅力を伝えたい。
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