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ギニア湾−もう一つの湾岸石油戦争

2003年08月04日(月)
萬晩報コナクリ通信員 齊藤 清

 ◆ダイヤモンド戦争の終焉

 シエラレオネの反政府ゲリラRUF代表フォディ・サンコーが、7月30日に死亡した。享年70歳。血塗られたダイヤモンド戦争を、10年以上にわたって戦い続けたゲリラの親分。良質のダイヤモンドに恵まれたシエラレオネ内陸部を実効支配し、掘り出した原石を闇ルートに流して欧米のダイヤモンドシンジケートを悩ませた。しかし、沖縄サミットを最後に状況は逆転し、その晩年は、戦争犯罪特別法廷での被告人として、肉体的な衰弱と精神的な混乱のうちに幕を閉じた。腹心の部下だった通称モスキートはこの5月、コートジボワールとリベリアの国境近くで、リベリア大統領テイラーの指示で射殺された。もうひとつのシエラレオネ反政府ゲリラのリーダーであり、戦争犯罪人として追求されていたジョニー・ポール・コロマも、避難先のリベリアで、口封じのために殺されていたことが最近確認されている。そして、そのリベリア大統領テイラーも、米国に支援された反政府勢力によってほぼ完全に追い詰められている。

 1990年代を急ぎ足で走りぬけ、ダイヤモンドシンジケートに向こう見ずな戦いを挑んだ戦士たちは、今や人々の記憶の中にしか存在せず、血塗られたダイヤモンド戦争は、そのすべてが過去形で語られる季節に移行している。

 そして新しい季節には、永遠の輝きを失ったダイヤモンドに代わって、海の中のオイルが人々の心を躍らせることになる。国連平和維持軍に守られたシエラレオネの沖合いにも、テイラーを排除して親米政権を樹立した後のリベリア沖にも、まもなくテキサスの油会社の旗が海風にそよぐこととなる。

 ◆ギニア湾へ侵攻せよ

 今、ギニア湾が熱く燃えている。ここでは、沖合いの海に、世界的な規模の炭化水素堆積盆の存在が確認されていた。欧州の油会社はすでに採掘を続けていた。そして近年、アメリカの油会社が激しい油田獲得戦争を続けてきた結果、さらに油の確認埋蔵量が増えている。低硫黄の良質な原油だといわれる。日本の人々の目が中東の油に釘付けにされていた間、ここでも、生臭いけれども真摯な、石油・天然ガスを獲得するための激しい戦いがくりひろげられていた。

 アメリカは石油の大量消費国である。油なくしては、現在のアメリカ市民の生活を支えることは不可能だ。そしてその約60パーセントを輸入に頼っている。サウジアラビア、メキシコ、カナダ、ベネズエラなどからそれぞれ10数パーセントずつを輸入し、アフリカからも15パーセント程度を持ち帰っている。しかしながら、例えば中東地域はすでに鉱区が成熟しすぎていて、長期安定的な供給は望み薄である。OPECの存在もあり、政治的にも厄介な地域で、わがままができない。

 その点、ギニア湾の沖合いはまだ未成熟な地域で、誰も手をつけていない鉱区さえ残っている。また政治的な操作も比較的容易な国々が多い。(しばしば"反政府勢力"が働いてくれる)

 そこで、すでに現地に根をおろしていた欧州の石油資本と競う形、あるいは侵食する形での鉱区獲得が進み、欧州勢の反攻がないわけではないものの、現在では、米国資本の優勢が目に見えてきている。

 ◆ブッシュ家と油ビジネス

 ブッシュ大統領は今年7月、ライス補佐官とパウエル長官につきそわれてアフリカ5カ国を訪問。最終訪問地のナイジェリアでは、反政府勢力が攻めあぐねているように見えるリベリアのテイラー大統領の排除を、この地の大統領と相談することもこのミッションの目的のひとつであった。アフガニスタンのビンラディン、イラクのフセイン、昨年殺されたアンゴラの反政府勢力サビンビらと同様、米国はかつて彼を支援したこともあったのだけれど。

 ナイジェリアでのビジネスはむろん油がらみである。父ブッシュの時代にホワイトハウス入りをしてたちまち頭角を現したという、アメリカ一番の油会社シェブロンの元取締役・ライス補佐官が大統領の後見役を務めているとなれば、さらには父ブッシュ政権の国防長官であり、世界最大手のエネルギー利権会社であるテキサスのハリバートン社元CEOチェイニーを副大統領に据えた政権であれば、油ビジネスにつながらないほうが不自然だ。むろん、これは国益のため、という言い方もあり得る。

 ナイジェリア産の原油は、その40パーセント程度がアメリカ向けである。米国資本がこの国最大の鉱区を保持している。そのうえ、この国の大統領は、近隣諸国との交渉力が抜群。また、この界隈では飛びぬけた兵力10万人を背景にしている効果もあなどれない。最近の、赤道ギニア、サントメプリンシペ(兵力900人)との石油利権にからむ領海の線引き交渉では、問題をすっきりさせる代わりに、ナイジェリアとの共同プロジェクトとして先方に40、自分の方に60の利権を確保する凄腕を発揮している。その結果を米国資本に委ねるわけだから、アメリカにとっては得がたいとびっきり優秀な営業員である。彼に対して最大の便宜を計らうのは当然。しかしながらこの国の常で、その利益が国庫に入ることはまずない。国民はいつも貧しいままである。

 もっともこのあたりの対応は、忠実な同盟国に任せておけばいいだけのこと。2001年1月にこの国を訪問した極東の国の森首相は、心をこめて、ナイジェリアの発展に支援を惜しまないことを約束している。

 ◆ギニア湾に浮かぶ軍事基地

 ブッシュ大統領一行が去った直後の7月16日、ナイジェリアの沖の小さな島国サントメプリンシペでは、軍によるクーデターが発生した。

 サントメプリンシペは1975年までポルトガルの植民地だった。面積は日本の沖縄本島よりもいくぶん小さな960平方キロ。人口17万人。兵力900人。軍事予算100万ドル(1億数千万円)ほどの国。ココア、コーヒーを栽培するだけの、経済的には貧しい国であった。

 この国に石油・天然ガスの話が出てきたのはだいぶ前のこと。予備的な調査を行った欧州勢と前政権が結んだ合意を、2001年7月の選挙で選出された現大統領デ・メネゼスは破棄した。欧州勢の言によれば、10万ドルの献金(賄賂)が事の発端だったともいう。

 そして、ナイジェリア大統領の仲介により、米国資本との契約が成立。数年後には油の汲み出しが始まるという計画が発表されている。

 クーデターが発生した16日、デ・メネゼス大統領は「私用」でナイジェリアに滞在していた。実はこの滞在は、ブッシュ大統領一行とひそかに会うためのものであった、といわれている。(クーデターは一週間で静かに終結)

 アメリカはすでに、ギニア湾に浮かぶこの小さな島を、軍事基地にするつもりでいる。原油確保のためにますます重要度の増すこの一帯を、タンカーの通行を管理する拠点にするとともに、欧州勢の喉元に匕首を突きつけておくため、アフリカ大陸をにらむ戦略的な基地にするつもりだ。ちなみに、欧州の大手石油会社トータルフィナエルフは、全生産量の40パーセントをアフリカに依存している。

 またこの島に、アフリカ大陸向けのラジオ放送、VOA(アメリカの声)の送信所を建設する計画も進んでいる。

 今回のブッシュ大統領のアフリカツアーの本音は、国際社会に対して、ことに欧州に対して、アメリカのギニア湾支配を宣言するイベントだったのかもしれない。

 ◆湾岸諸国の動き

 ここでいう湾岸とは、むろんペルシャ湾のことではない。もう時代は移っていて、湾岸といえば、当然ギニア湾を指すというのが国際的な常識となってきている。

 ▼アンゴラ

 ここに、この時代を象徴するプレスリリースをひとつ紹介しておこう。

 "FOR IMMEDIATE RELEASE: September 11, 2001
 
HALLIBURTON'S WELLSTREAM ANNOUNCES FLEXIBLE FLOWLINE AWARD FOR SONANGOL'S ANGOLAN BLOCK 3 DEVELOPMENT"
http://www.halliburton.com/news/archive/2001/hesnws_091101.jsp

 これは、例の911事件当日に、ハリバートン社から出されたプレスリリース。現在のチェイニー副大統領が、父ブッシュ政権の国防長官として湾岸戦争を指揮したあと、CEOとして天下りした会社の、アンゴラでの仕事の受注を伝えるものだ。

 このアンゴラで、東西の冷戦の時代に、アメリカは反政府勢力を支援して内戦を煽った。その後、世界を取り巻く環境が大きく変化し、国連が介入したにもかかわらず内戦は収まらず、また体質の変わらない反政府勢力のリーダーに嫌気がさしたアメリカは、昨年、現大統領をアメリカに呼びつけた。そしてその一週間後、そのリーダーであったサビンビは死亡。

 米国シェブロン社は、アンゴラで最大の産油会社である。エクソンモービル社も善戦している。そのうえ、新しい鉱区で望外といわれるほどの石油、ガスの存在が確認されていて、現在西アフリカ一番のオイル大国であるナイジェリアを超える産油国になることが確実とみられている。

チャド、
カメルーン
内陸の国であるチャドでも油田が見つかり、現在はギニア湾へ向けて、カメルーンの国内を通過する約1,000キロに及ぶパイプラインの敷設中。来年にはアメリカへの輸出が始まる。
赤道ギニア 石油のおかげで2001年の経済成長率は65パーセント。アメリカ企業が急速な投資を続けている。
ナイジェリア 西アフリカ最大の産油国。ナイジェリアで産出される天然ガスを、隣国ベニン、トーゴ経由で、消費国ガーナまで送るためのパイプラインが2004年から稼動する。
シエラレオネ ながびいていた内戦が終結させられたことから、待ちわびていたように今年5月、アメリカ、ナイジェリア、スペインの企業が試掘権を取得。
ギニア ギニアでは、アメリカ企業が1998年、沖合いに広大な面積の鉱区を取得。油の存在が確認されていることから、今後大きく動くものと思われる。
政府は、5月にはセネガルで近隣諸国のエネルギー関係者たちと油に関する勉強会を、7月下旬にはイランへミッションを送り、油屋さんをいかに御すべきか、そのノウハウを学ばせている。
リベリア 現時点ではまだ内戦中となっているリベリアは、現大統領が退陣して親米政権が樹立されれば、当然のように米国資本が動くだろう。欧州勢は踏み込みにくい環境が整っている。この時期になって反政府勢力がいくぶん攻勢を強め、国連もすばやく反応したのは、一般市民の窮状を救うためというよりは、そちらの都合があったという観測が説得力をもっている。
スーダン ギニア湾とははるかに離れた国ではあるが、ここでは番外的に中国が独占的に石油を掘っている。中国初の海外大型油田である。全長1600キロのパイプラインを使って紅海へ運び出している。この国が国連の制裁決議を受けて国際社会から孤立させられていた時期に、アフリカ各国に広範に経済援助を行って存在を誇示していた中国が採掘権を取得。漁夫の利、というところか。

 ◆冬のキリギリス

 石油輸入依存度60パーセントのアメリカは、ウソと破壊と殺戮を繰り返しながら、なりふりかまわず必死に油を確保しようとしている。これは、特定の企業の利益につながるものではある。しかし同時に、油を飲むようにして生きている国民にとっては、欠くことのできない命の水を求める行為でもある。

 ほぼ100パーセントの石油を輸入に頼り、その90パーセント近くを中東だけに集中依存し、冬の支度もせずに脳天気な時間を浪費している様に見える日本。蟻とキリギリスの寓話を思い出さざるを得ない。いざというときに、日本に油を恵んでくれるものがいるのだろうか。先日も、米国のライス大統領補佐官から公式ルートで、日本の企業連合が計画しているイラン・アザデガン油田開発の契約中止要請があったばかりではないか。

 きれいごとの作文を書くことが商売と心得ている役人の主導の下、途上国支援のためと称するODA資金を大量にばら撒きながら、聖人君子のごとく、楊枝をくわえて、髪振り乱す他国の活躍ぶりにただ拍手を送るだけの極東の国には、残念ながら明日の光は届かないだろう。

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◆『金鉱山からのたより』2003/07/13◆
発行元:ギニア会 代表 齊藤 清
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