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プライベート・ロリィはどうなの?

2003年05月02日(金)
コロンビア大学東アジア研究所 大西 広

 英国ガーディアン紙4月10日付けに「プライベート・ロリィはどうなの?」と題する記事が書かれている。
 http://guardian.co.uk/g2/story/0,3604,933363,00.html

 救出された女性兵士としてジェシカ・リンチが一躍有名になった一方で、同じ部隊に属し、同室の親友でもあったロリィ・ピーステヴァの戦死があまりにもアメリカで無視されているという記事である。彼女は少なくともこの時点では唯一の戦死女性としても報道されるべきであるものが、同時にアメリカ・インディアンであることから差別されているのではないかという批判が込められている。

 といっても、もちろんイギリスのガーディアン紙がそのことを知ったのだからアメリカのマスコミのどれかに言及があったには違いがない。実際、私も新移民向けの新聞でピーステヴァのことを読んだ。が、たとえば何ページにもわたってジェシカ・リンチの特集を組んだ『ニューズ・ウィーク』誌でさえ名前のみの言及でインディアン女性であることは書かれていない。アメリカ版ヤフーの検索によっても、ジェシカ・リンチのページは119000も出てくるが、この中でピーステヴァに言及したのはたったの300、つまり全体の0.3%以下に過ぎない。しかも、このほとんどは『ニューズ・ウィーク』誌のように名前のみの言及で、さらにイタリア、イギリス、ドイツなど多くの外国紙も含まれている。ジェシカ・リンチに比べ軽視されているとの批判は当っている。

 とくに個人的にもこのことが気になり出したのは彼女が戦死したとされる丁度その日3月23日に私は彼女の出身地、アリゾナ州チューバ・シティに足を踏み入れていたからである。ここはナバホ族居留地の一部にあるもののホピ族インディアンが主に住む地域で、私は家族とともにチューバ・シティ内の「恐竜の足跡」という観光地に入った。観光地といってもただ道の傍に広々と「足跡」が無数に化石化しており、そこに現地のインディアン数名がガイドとみやげ物売りをしているという程度のものである。

 が、生まれて初めて入ったその居留地の町は「シティ」とはいうもののトレーラー・ハウスが散在する「部落」としかいいようのないほどの小ささで、丁度日曜日とあって10歳の子供が案内をしてお金を稼いでいるという状況であった。その母親は手作りの宝石細工を売り、2人3脚で仕事をしている。貧しい途上国で見るものと寸分違わない光景がそこにはあった。父親と姉は外部に働きに出ているということであった。

 もちろん、この日にはまだ戦死ないし行方不明の情報が流れていなかったものの、この子供たち、大人たちは全員ピーステヴァと一緒に生きて来た人達である。ガーディアン紙でも現地からの情報として村の全員が知人であると報じている。ピーステヴァは離婚後、ふたりの子供を育てるために自分の母親に子供を預け、軍隊に入隊したという。ピーステヴァの4歳と3歳のふたりの子供は私を案内した10歳の子供の遊び友達にきっと違いない。

 ガーディアン紙も報じているところであるが、荒野に押し込められたインディアンたちの生活はアメリカの最低辺を形成する。居留地内の失業率は50%に達すると言われ、同居留地の首都で話した女性も「ここは住みやすいか」との質問に「Yes and No. つまり住みやすいが仕事がない」と答えていた。

 1989年の数字であるが、このことは連邦センサス局によるインディアン統計によっても伺うことができる。何と彼女の属したホピ族インディアンの一人当り年平均所得は6628ドル=80万円に過ぎず、居留地外を含む全人口11522人の内2026人が貧困線のさらに半分の所得しか得ていない。また、全2502家族の内の887家族、両親のそろっている全1464家族の内の377家族、母親のみの797家族の内の401家族が貧困線以下の生活をしているとある。ピーステヴァの場合、この最後のケースに属していたことになる。

 このため「合衆国軍」という本来「敵軍」である軍隊(インディアン居留地は現在もなお形式的には「国家(Nation)」となっている)への入隊が多くの家族にとって残された唯一の生活の道となっている。ピーステヴァの場合も父親、祖父ともに入隊をしていたし、ガーディアン紙によれば少なくとも45人が入隊し、海外に派遣されているという。先のインディアン統計によると1990年のホピ族の18-24歳の若者は男女合わせて1435人しかいない。通常入隊するのが男性だと仮定すれば、7-800人の内の45人以上が現在海外で兵役に就いていることになる。異常な高率であることは言うまでもない。ちなみに、この統計には16歳以上の男性の入隊経験率が示されているが(英会話能力等の問題とともに「同化」の指標として示されている事も見逃せない)、それによると何と22.4%が入隊経験を持っている。

 その後、いくつかの新聞報道によれば、アリゾナ州の州都フェニックスにある「スクウォー・ピーク」と言われる山を「ピーステヴァ・ピーク」と改名しようとの運動が起きたようである。
 http://www.tucsoncitizen.com/opinion/4_21_03op.html
 http://www.2020hindsight.org/2003/04/21.html

 「スクウォー」は女性性器を意味する俗語で改名が必要との声は以前からあったようであるが、本来の「インディアン女性」との言葉にそって、彼女の名前をつけたいとインディアンたちが5月に開かれる州の地名決定会議に要望したのだそうだ。白人たちの冷笑を浴びていると記事にはあるが、彼らインディアンたちのやりきれなさを思う時、せめてそれぐらいの度量は見せてもらいたいものである。

 大西さんへメールは mailto:ohnishi@f6.dion.ne.jp



 【参考情報】
 対イラク戦争で救出されたジェシカ・リンチに関して3月17日に彼女の名前でドメイン(jessicalynch.org,jessicalynch.com, jessicalynch.net)が取得されていたことが、ニュージーランドの「Scoop」というサイトで4月10日に紹介されているということです。
http://www.scoop.co.nz/mason/stories/HL0304/S00102.htm

 筆者であるAlastair Thompson記者がドメインの取得状況を調べたところドメインの申請はA.G.。メールアドレスからAlexander Golimbuというマンハッタンにある広告代理店Morpheus Mediaの創設者の一人であることが分かりました。
http://Www.morpheusmedia.com

 Thompson記者がGolimbu氏にメールで問い合わせたところ、今年2月のミス・ニューヨークの受賞者がたまたまジェシカリンチさんで、たまたまイラク戦争の開戦直前に登録したものだ、との返事をもらったとのことです。本当だとしたら奇妙な偶然でしょう。ちなみにジェシカさんの出身地はウエストバージニア州のパレスチナ(Palestine)というところなのです。
http://www.asahi-net.or.jp/~FV6N-TNSK/gates/column188.html

3月17日の証拠としてリンクの張られている先は
http://www.psi-domains.com/cgi/whois.cgi?domain=jessicalynch.org

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