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宇宙飛行士の言葉はなぜインターネット上にないのか

2003年03月04日(火)
東京大学教授 中澤 英雄(ドイツ文学)


 ブルッキングス研究所客員研究員の中野有氏は、2月8日の萬晩報「不吉なイラク戦  期待される平和構想」で、スペースシャトル・コロンビア号の事故に触れてこう書いている。

「こともあろうにイスラエルのスペースシャトルの飛行士は、22年前にバクダッドの核疑惑施設を先制攻撃したときの副操縦士であった。テキサス州のパレスティンという場所の上空でシャトルは爆発し、ブッシュ大統領のクロフォードの牧場の近くに落下した。何たる偶然であろうか。

 宇宙の目的によって人類は生かされている。と考えると、コロンビア号の宇宙からのメッセージは何を意味するのであろうか。果たして今回の戦争を回避せよとの啓示か、戦争遂行後の不吉な結末を意味するのか。」
http://www.yorozubp.com/0302/030208.htm

 私も、この事故に宇宙からの不思議なメッセージが込められている、と考える者の一人である。そして、中野氏の考察をさらに深める形で、「宇宙からのメッセージに耳を傾けよ――スペースシャトル事故と迫り来るイラク攻撃」という論文を書いた。かなり長文であるが、ご関心のある方は以下でお読みいただける。

日本語 http://thank-water.net/japanese/article/nakazawa1.htm
英 語 http://thank-water.net/english/article/nakazawa1.htm

 私がこの論文を書くきっかけになったのは、事故直後のあるテレビ番組(たしかフジテレビの「とくダネ!」だったと思う)で、宇宙飛行士たちが自分たちの好きな音楽をモーニングコールとして地上から送信してもらっていたこと、そしてその中の一人がジョン・レノンの「イマジン」を希望した、ということを知ったことである。その番組の中ではさらに、その飛行士が、宇宙から見た地球には国境がないこと、そして地球の平和を祈ると述べていたことも報道されていた。

 私は、その宇宙飛行士の言葉に深い感銘を受けると同時に、彼がなぜ「イマジン」という曲を選んだのかに興味をいだいた。なぜなら、911同時多発テロ発生以降の世界情勢の中で、「イマジン」は、米英のアフガン報復爆撃、イラク攻撃に反対する人々の反戦歌、ピースソングになっているからである。レノン夫人のオノ・ヨーコさんは、アフガン爆撃開始直前の2001年9月25日に、ニューヨーク・タイムズ紙に「イマジン」の一節、「すべての人々が平和に生きているのを想像してごらん」という全面1行だけの広告を出した。世界各地の反戦集会では、必ずと言ってもよいほど「イマジン」が歌われる。逆に、制裁戦争賛成派は、「イマジンを歌っていればテロがなくなるか」と言って反戦運動を嘲笑する。

 アメリカ人であれば、この曲の今日的意味を知らないはずはない。宇宙飛行士はそれをはっきりと意識した上でこの曲を選んだのではないだろうか。

 ただし、朝の忙しい時間帯であったので、私は彼の名前も彼の言った言葉も正確に記憶することができなかった。そこで、その夜、宇宙飛行士の名前と彼の言葉をインターネットで探した。「イマジン」を希望した宇宙飛行士がウィリアム・マックール氏であるということはすぐにわかった。しかし、彼が「イマジン」とともに語った言葉はなかなか見つからなかった。

 私は彼の言葉を探して、数日間、次から次へと様々なサイトを渡り歩いた。しかし、ごく短いコメントを除いて、マックール氏が語ったそのままの言葉は、どのニュースサイトにも載っていなかった。

 たとえば、宇宙飛行士の活動を時系列的に非常に詳しく記載しているABCニュースのサイトではこんな具合である。

「午後3時39分。青チームメンバーのアンダーソン、マックール、ブラウンは、ジョン・レノンの《イマジン》で起床した。マックールとラモンは、宇宙の眺望のよい地点から見ると、地球には国境がないと述べる。《ここから見える世界は素晴らしいものです。とても平和で、とても素晴らしく、そしてとても壊れやすく見えます》とラモンは語った。二人の搭乗員は英語とヘブライ語で世界平和への希望を表明した」
http://abcnews.go.com/sections/scitech/DailyNews/shuttle_timeline030201.html

 ここで「イマジン」に関して報道されているのは、イスラエル人飛行士イラン・ラモン氏の語った言葉であって、当のマックール氏の言葉ではない。デビッド・ブラウン氏やローレル・クラークさんなど、ほかの飛行士の語った言葉や宇宙から送信したEメールの内容は、いろいろな新聞・雑誌サイトに非常に詳しく載っているのに、マックール氏が「イマジン」とともに語った言葉は、どのニュースサイトにも見つからなかった。アメリカの友人数人にも問い合わせたが、彼らも、私がすでに知っている以上の情報は持っていなかった。

 彼の言葉が日本のテレビでも報道されたということは、彼の宇宙からの交信はおそらくアメリカのテレビで実況中継放送され、日本人の記者はそれをもとに日本にレポートを送ったのであろう。一時は全米に流れたはずのマックール氏の言葉がどのニュースサイトにも見いだせないということは、きわめて不自然な感じがした。

 だが、彼の言葉を探してあちこちのサイトを読みあさるうちに、私は、この事故には、単なる偶然とは言えない、天からの重大なメッセージが込められているものと考えるようになった。それをまとめたのが上掲の論文である。マックール氏の言葉の不在がこの論文を成立させたといってもよい。しかし、日本語論文執筆の時点では、マックール氏の言葉は見つからず、彼に関してはテレビ報道のうろ覚えで書くしかなかった。

 この事故に込められたメッセージは、日本人というよりも、アメリカ人、イスラエル人、そしてインド人に向けられたものであった。そこで、日本語論文完成後、ただちに英訳に取りかかった。英訳の最中に、先に問い合わせていたアメリカ人の友人の一人が、一通のメールを転送してきた。それは、New Age Study of Humanity's Purposeという団体のPatricia Diane Cota-Roblesという方が書いた、「COLUMBIA...DEJA VU?」というエッセイであった。これは著作権のついたメール通信で、私が受け取った時点ではまだWebには載っていなかったが、現在ではHPに公開されている。
http://www.1spirit.com/eraofpeace/1st.html

 このエッセイは、今回のコロンビア号事故と1986年のチャレンジャー号爆発事故を比較し、両方の事故の間には様々な類似性があることを指摘している。たとえば、チャレンジャー号にも、コロンビア号と同様に、様々な人種的、宗教的背景を持った男5名、女2名の7名の飛行士が搭乗していたこと(その中の一人は日系人オニヅカ氏であった)、そして、チャレンジャー号の爆発は、その当時スターウォーズ計画を進めていたアメリカ政府への天からの警鐘と見られると主張していた。ただし、いわゆるニューエイジ的な視点で語られているので、そのすべてをそのまま受け取ることができる人は少ないかもしれない。

 だが、私にとって重要であったのは、そのエッセイの中に、探し求めていたマックール氏の言葉を見つけたことである。それをここに引用しよう。

「私たちがいる周回軌道上という眺望のよい地点からは、国境がなく、平和と、美と、壮麗さに満ちた地球の姿が見えます。そして私たちは、人類が一つの全体となって、私たちがいま見ているように、国境のない世界を想像(イマジン)し、平和の中で一つになって生きる(live as one in peace)ように努力することを祈ります。」

 そして、この言葉はラモン氏よってそのままヘブライ語に翻訳され、地上に伝えられたのである。

 なんと素晴らしい言葉ではないか。

 ここでマックール氏はわざわざ「イマジン」という言葉を使っている。さらに、「平和の中で一つになって生きる(live as one in peace)」は、「イマジン」のオノ・ヨーコ広告:

Imagine all the people living life in peace
(すべての人々が平和に生きているのを想像してごらん)

の部分と、レノンの歌詞の最後の部分:

And the world will live as one
(そうすれば世界は一つになって生きるだろう)

を踏まえている。マックール氏がジョン・レノンの曲に世界平和への明確なメッセージを込めたことは明白である。

 そして私には、彼の言葉がなぜどのニュースサイトに載っていないのか、その理由もわかった。イラク戦争に邁進するアメリカの政府と大手マスコミは、自国の悲劇の英雄が戦争に反対していたという事実を封殺したいのである。先に紹介したABCニュースのサイトが、いかにマックール氏の言葉を迂回し、歪め、隠しているかは一目瞭然である。

 だが、ひとたびインターネットに載った以上、もはや彼の言葉を封印することはできないだろう。

 中澤さんにメールは mailto:friede@tokyo.email.ne.jp

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