参院選の開票速報を見ながらこのコラムを書いている。今回ほど戸惑いが多かった選挙はない。結果は自民党が大勝利した。というより小泉純一郎の勝利だった。
各政党が「改革」を訴えたため、対立軸がなくなった。小泉首相だけが目立ち、小泉首相を上回る迫力で国民に危機感を訴える野党党首がいなかったことが選挙を面白みのないものにした。そういう意味で民主党の鳩山氏には相当の責任がある。
野党勢力の後退が今後の自民党政治にどのような意味を持つのか分からない。選挙期間中から与党幹部からすでに株価対策や秋の景気対策への言及が始まっており、小泉首相にとって公約を貫徹するプレッシャーはますます強まった。国民の選択は改革を約束した小泉純一郎内閣への支持であり、かつて自民党を牛耳った亀井静香氏や野中広務氏ら守旧派を支持したものでないことはわきまえて欲しい。
●国民総資産の7割が国債で運用
さて財政問題である。一部のエコノミストが小泉内閣の財政運営に対して「緊縮財政」と批判している。しかし筆者は「30兆円も」と言いたい。90兆円の歳出規模から地方への交付金と過去の国債の利払い費用を差し引いた純粋の意味の国の歳出である「一般歳出」が40兆円規模であることを考えれば、30兆円の新たな借金は国債発行は決して少ない額ではない。小渕、森内閣がとんでもなく放漫だっただけで、小泉内閣でも「放漫」が続いていると言わざるを得ない。
日本の個人資産が1400兆円あると言われる中で、2000年度末の国と地方の借金は約640兆円。このほかに郵便貯金などを財源とした財政投融資事業の借金残は約400兆円ある。財政投融資の5分の1は国債購入に回っているから、その分を差し引くと国民に対する国の借金は950億円を超えることになる。
恐ろしいことに、われわれの資産の7割近くが国債で運用されている勘定になる。ニワトリとタマゴの関係にあるが、これだけ国が借金すれば民間企業への融資が増えるわけはない。この10年間に国と地方の借金の規模は2・4倍に増えているから、国の借金がこれまで通り増え続けると10年を待たずにこの割合が10割を越すことになる。
国民の資産は、貯蓄と保険に加えて企業活動の資金源となる株式投資も含まれている。だから国の借金が国民の資産を上回るにはよっぽどのことがないかぎり、10年もの年月を必要としないことになる。
国の借金が国民の資産総額を上回れば、あとは外国からの借り入れ、もしくは日本銀行による引き受けしかない。「通貨が堕落する日」がやってくることが分かりながら、まだ景気うんぬんに言及する政治家の意識を問わざるを得ない。
●求められる生活切り詰めの覚悟
名目GDPは1997年度のピーク時の520兆円から2年間で17兆円も減少している。これだけ借金して景気対策を実施した上で日本の経済規模は確実に縮小しているのである。
この中から、過去の借金に対する金利を払い続けなければ、経済は成り立たない。幸いにも低金利のおかげで利払いは続いているが、金利が普通に戻れば金利の支払いすら難しくなるのは自明の理である。
しかしよく考えてみれば、950兆円の借金に2%の金利を支払うとすれば、日本全体で年間19兆円の資金が必要になる。500兆円規模のGDPで19兆円を支払うとすると3.8%の経済成長が不可欠。そもそも3.8%成長などは現在では夢物語だから、生活費そのものを切り詰めなければ、利払いは不可能という計算になる。
われわれは「借金には返済できる限度というものがある」ということを日常生活で知っている。問われているのは、われわれに生活を切り詰めるだけに覚悟ができた上で小泉内閣を支持しているかということである。つぶれるのはゼネコンと巨大スーパーだけではない。過去の享楽の日々のツケは確実に国民一人一人で支払わなければなくなる。
●忘れてはならない国債増発による8兆円減税
財政の負担で大きいには公共事業ばかりでないことは前回書いた。忘れてはならないのは、小渕内閣による99年度の「8兆円減税」という大判振る舞いである。橋本内閣が景気対策として実施した個人に対する「2兆円の減税」は98年5月の景気対策ではさらに2兆円上乗せとなった。98年12月に99年度の減税では法人税だけでなく、住宅取得減税もさらに拡充され総額8兆円になった。このおかげで平均家庭で390万円までの年収には所得税がかからないことになった。
景気対策として実施したものであるところから政府は「恒久的減税」と表現している。それはそうだろう。その前の年に消費税が3%から5%に引き上げられたほかに財源はない。ほとんどが赤字国債で賄われており、恒久的減税を元にもどせば、小泉内閣の掲げる国債発行限度額は少なくとも25兆円前後で済んでいたという事実は知っておいた方がいい。
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