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9・21&1.17−火山帯列島に住む運命共同体

2000年09月21日(木)
台湾研究家 船津 宏

 「9・21台湾大地震」一周年。思い返すも恐ろしい、1999年9月21日午前1時47分ごろ、台北市中山北路のホテルにいた筆者を強烈な揺れが襲った。花瓶が飛び、バスルームの水が逆流し、全館停電。恐怖が襲うのは個人に対してだが、同じ恐怖を全員が共有した。台湾全土が大きく揺れた。

 静かな夜の闇にカーテンを開き、台北の中心街、中山北路を見下ろした。交通信号の消えた道路をヘッドライトを煌煌と照らした車が静かに通り過ぎている。が、街のネオンはすべて消えていた。台北駅前の新光三越摩天楼はいつもの明るいライトアップが消え、非常灯だけが寂しく点っている。NYの某有名ビルをイメージするこのビルは台北のランドマークだ。(東京のNTTドコモ本社がこれに似ている) 「1.17阪神大震災」を経験している筆者は、「この地震は大きい。震源地ではかなり死んでいる」と直感した。家々が軒並み崩れるイメージが強烈に浮かんだ。私にとってはその後駆けつけた日本救援隊の活躍に感動した数日間でもあった。

 ●サインの消えた不気味な「セブンイレブン」

 余震が続く中、まんじりともせず夜が明けた。停電でテレビが消えたままなので状況が分からない。台湾では真夜中に臨時ニュースが流れたらしい。台湾から日本に連絡が入り、妻はテレビをつけ朝一番のNHKニュースを待ち受けた。ホテルに電話が入った。受話器をテレビスピーカーに当ててもらい地震被害の状況を知る。「大変なことになっている! 神戸よりひどいかもしれない」−心配は現実になっていく。震源地の地名を取って「9・21集集大地震」と命名されたこの地震は台湾中部に大災害をもたらした。

 夜が明けたので食べ物を探しに出た。赤と緑の電飾サインが消え、いつものような活気がない不気味で薄暗い「セブンイレブン」には人が押し寄せ、すでにおにぎりやパンが売り切れ状態。朝刊は「100年来の大地震」と伝える。電気の復旧は街区ごとにやっているようで、歩き続けると電気が灯る区画に着いた。

 うどん屋で肉うどんを注文し、店の角の天井近くに置いてあるテレビでニュースを見た。日本の食堂で良くあるテレビの配置だ。客は皆、食い入るように報道を見つめている。いつもは騒がしい台湾人がこの日ばかりは無言だ。実況中継で生々しい光景が飛び込んで来る。どうしても神戸と比べてしまう。国は違っても同じく火山帯列島の上に住んでいる我々。台湾と日本の運命共同体を意識した。

●政治を優先した共産党と真っ先に駆けつけた日本救援隊

 この時、中国共産党の唐家*旋*外相は「我が国で発生した地震だから援助も勝手にやってもらっては困る。我が国政府を通してからにしてくれ」と国際社会に対して発言。救援活動の遅延を招いた。国連にもWHO(世界保健機関)にも中国の反対で入れない台湾は、国際救援活動の枠から除け者扱いだ。

 台北駐日経済文化代表処が第一勧銀白金支店に「台湾大地震救済義援金」口座を開設したら、中国大使館は同じ第一勧銀広尾支店に「中国台湾大地震救済義援金」という紛らわしい口座を開設して対抗した。

 多くの人が苦しみ、嘆き悲しんでいる時には、何を差し置いても助けに赴かねばならない。この期に及んで、政治を優先する体質。人民共和国を名乗りながら、人民の安全を軽視する国柄。こんな国に統一されたい国がいったいどこにあるというのだろうか。

 日本の救援隊は世界で一番早く台湾に到着した。一番近い国だから当然なのだが、いつものかったるい日本とは違った。「1.17阪神」を先に経験しているから地震に対して敏感だった。

 瓦礫の山の現場で懸命に活動する日本隊は背中に「JAPAN」の文字。新聞やテレビで何度も報道された。別におべんちゃら報道ではない。「日本隊が救援に駆けつけた」という客観報道である。でも見出しが踊っている、写真が光っている。感謝されているのが分かる! 「取るものも取り敢えず駆けつける」「隣近所だから助けに来た」−この姿勢が良かった。

 外国のメディアで紹介された日本の事で、これほど格好良いと感じた報道はここ十年を振り返ってもなかったのではないか。何だかよくは分からないものの、紙面(画面)を見ていて涙が出てきた。生き埋めになった人を助け出し目立った手柄を立てたのは他国の救援隊である。それでも真っ先に行って行動した日本が良かった。台北市政府前の救援物資センターでは主婦や学生が懸命に荷分け作業をしていた。私は郵便局で心ばかりの義援金を振り込んだ。忘れられない数日間になった。 (2000年9月20日記)


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