HAB Research & Brothers


ウルトラマンの居なくなった日本で

2000年08月19日(土)
台湾研究家 船津 宏

敗戦国日本の映画作りには制約がある。悪者の外国人役が自由に設定しにくいからだ。

 戦勝国、米英はその点自由だ。大体、悪人はドイツ系。「ダイハード」のテロリスト役、「ゴールドフィンガー(007)」の黒幕。「戦場に架ける橋」での終始情けない早川雪舟の役と、いつも毅然としてかっこいいアレック・ギネス(先ごろ亡くなった)の役の違いをみよ。

 戦争で勝った方が愚鈍で弱々しく、負けた方が格好良いはずがないではないか。

 「シンレッドライン」で原始人に近い描写をされた日本人だが抗議もできない。戦争物でかっこいい日本人の役を設定したらどうなるか。日本は戦後思想教育でそういう場合自動的に自国内で問題が起こるようにインストールされている。このため日本の戦争や国際関係を描写する映画人は、空想特撮映画やアニメに逃げたと思う。

 来年が生誕100年で再び話題となっている円谷英二。その「ウルトラマン」を題材に、怪獣がどの国を表しているのかとふと考えてみた。戦争を肯定的に、外国人を敵として描けなくなった日本映画は、怪獣を登場させた。このテレビシリーズでは、怪獣と日本人は同等の立場にいる。グロテスクに造形される怪獣はテレビでの受け狙いに過ぎない。目くじら立てずに軽いネタとして読み飛ばしてもらいたい。

 ●ピグモンは台湾人?

 「小さな英雄」(第37話)で銀座のデパートに突然現れる小怪獣がピグモンだ。ウルトラマンが倒した怪獣がジェロニモンという酋長怪獣の魔力で多数よみがえり、日本に復讐を開始する。しかし、ピグモンは危機を知らせてくれた善意の怪獣だったのだ。

 それを理解できない日本人は、彼を怪獣軍団との戦いの最中にみすみす死なせてしまう。このピグモンは台湾に代表される小国の存在と思う。大国には畏れ慄き、小国は無視するか見下すのが日本人。世界中から文句ばかり言われている日本で、好意的に接してくれるのは台湾くらいしかないのに、その好意にこたえることができない日本。

 ピグモンは大怪獣にも恐れず勇敢に戦って死ぬ。日本人の典型として描かれるイデ隊員は自信喪失で戦うことができなかったが、小さな英雄の勇気に気づいてからは戦い始める。

 ●バルタン星人は中国人?

 敵役としてシリーズ一番の人気を誇るのがバルタン星人だ。知恵が回り軍事力も強い。「狂信的人物の実験失敗で母国(星)を破壊されたので地球に移住したい」と申し出るバルタン星人に対しハヤタ隊員は、善意の交渉を開始、平和に共存しようと持ち掛ける。しかしバルタン星人の人口が20億人と聞いて絶句、交渉は決裂する。

 人口が多すぎることで交渉が頓挫する点、バルタン星人は中国人のようだ。セミの形象も、故宮博物院で見たセミを模った鼎を思い出させる。セミは古代Chinaで生命の象徴だった。中国がもっと小さな人口だったら、日本への移住条件の緩和も簡単だ。台湾と中国の三通も人口圧力がなければ実現しやすい。

 しかしもし今日本や台湾が、労働力ほしさに入国条件のハードルを下げたら、とたんに一億人くらい来てしまうかもしれない。返還前に人口600万人の香港から70万人もの人が外国へ逃れた事実は忘れがたい。「21世紀は中国の時代」とか言っている割に、中国人はあまり母国への愛着がない。来てくれた人をいらなくなったから帰れとは言えないのだ。物語では戦ってしまったが、平和に別れ、お互いの国で経済、文化など各面で切磋琢磨するべきだ。

 ●ラゴンは沖縄人?

 「大爆発5秒前」(第4話)で厨子マリーナに白い航跡とともに現れるのが海底原人ラゴンだ。ラゴンは平和な海の民だったが、水爆実験のために性格が狂暴化し日本を襲う。「ラゴン」の名前も「ラグーン(珊瑚礁)」をイメージさせ、これは沖縄だ。水爆の不発弾が身体に付着しているため、科特隊も対応に苦慮する。米軍基地がついている沖縄そのものではないか。

 ウルトラマンの物語では、科特隊はもちろん自衛隊のもじりだし、その隊員は日本人を表している。熱しやすく思慮のない行動をしてしまうアラシ隊員、主役なのに存在感の薄いハヤタ隊員など日本人の悪いところが出ている。そんな中でおっちょこちょいで格好いいところは何もないが、怪獣の気持ちが分かり大人の分別を持っているのがイデ隊員だ。日本人の良心を表す。

 ところでウルトラマンは何国人か。米国であり、より具体的にいうと米軍、第七艦隊といえる。米軍がいるので国内で無責任な政治論議をしていても安全保障で心配がないというのが戦後の日本だった。「ウルトラマン」はそうした状況を正確に描写している。困った時にはウルトラマンが助けに来てくれるという甘えだ。

 「いつもウルトラマン(米国)が助けてくれるので、科特隊(日本)なんて不要ではないか」という疑問を出すのもイデ隊員だ。自信喪失のイデはやる気をなくしふてくされる。まさに今の日本の体たらくを30年以上も前に見事に予言しているではないか。

 朝鮮半島は北を中心に共産化統一され、米軍は出て行く――そういう流れになってきた。日本からも追い出すのかどうか。ウルトラマンの居なくなった日本はどうするのか、図上演習すらしていない。(了)


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