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世襲議員に占拠される日本の国会

2000年06月12日(月)
散人雑報 大川 渉
萬晩報は6月3日から25日まで総選挙特集体勢求む投稿

 厚いベールに包まれた国、北朝鮮を不気味に思う人は多い。日本人の拉致事件、偽米ドル札製造疑惑、日本列島に向けたミサイル発射など、「近くて遠い隣国」の行動は不可解極まるが、なかでも日本や欧米諸国からみて異常に思えるのは、選挙などの民主的な手続きを経ずに、最高権力者が金日成から金正日に「世襲」されたことであろう。金日成父子は神格化され、独裁政治が続いているのは周知の通りだ。

 しかし、日本が、北朝鮮の権力世襲を批判できるかどうかは、はなはだ疑問だ。日本の国会を見ればいい。それこそ、二世、三世、親族などの世襲議員のオンパレードだからである。

 現在の自民党衆院議員の四割近くが世襲議員だといわれるが、今回の総選挙には、新たに、閣僚経験者など大物議員の二世、三世が数多く立候補する。

 とりわけ注目を集めるのが、五月十四日に亡くなった小渕恵三前首相の二女、小渕優子氏だ。優子氏は、祖父の光平氏も衆院議員だったことから、当選すれば三世議員誕生ということになる。群馬5区の出馬表明の会見では「父の気持ちを眠らせておくわけにはいかないと思い、決意した」と述べた。地元後援会が「小渕の灯を消さない」と、親族の出馬を強く要請していたことを受けての出馬だが、暖簾を守る京都の老舗旅館でもあるまいに「小渕の灯を消さない」とはあきれ返る。同じ選挙区から立つ山口鶴男元社会党書記長が「議席は世襲財産ではない」と言ったのは正論である。

 梶山静六元官房長官の長男、弘志氏も茨城4区から立候補する。静六氏が、先日死去したことから、陣営は「弔い合戦」だとして、大量得票を目指しているというが、民主国家の選挙で「弔い」とか「合戦」とかの言葉が飛び交うのが、すでに常軌を逸している。

 小渕優子、梶山弘志両氏のほかにも、大物議員の二世、三世、親族が多く出馬する。主な立候補予定者は、田名部匡代氏(青森3区、父・匡省元農相)、小宮山泰子氏(埼玉7区、父・重四郎元郵政相)、山花郁夫氏(東京22区、父・貞夫元社会党委員長)、下条みつ氏(長野2区、父・進一郎元厚相)、竹下亘氏(島根2区、兄・登元首相)、宮沢洋一氏(広島7区、伯父・喜一蔵相)、後藤田正純氏(徳島3区、大叔父・正晴元副総理)らである。

 第一次小渕内閣では、父や祖父が国会議員だった世襲議員の閣僚が、小渕首相を筆頭に十人となった。民間の堺屋太一経企庁長官を除くと、実に、全閣僚の半数を世襲族が占めたことになる。

ここ十年ほどの首相を見ても、羽田孜、橋本龍太郎、小渕恵三の各氏ら二世議員がずらり並ぶ。細川護煕氏は厳密な意味では世襲議員とは言えないが、祖父が近衛文麿元首相という政界サラブレット。細川首相を支えた小沢一郎氏も、父親が元建設相の二世議員である。首相を目指す野党、民主党の鳩山由紀夫氏が、曾祖父の和夫氏(元衆院議長)に始まり、祖父の一郎氏(元首相)、父の威一郎氏(元外相)と続く、政界の名門鳩山家の御曹司であるのは有名だ。 今回の総選挙でも、小渕優子氏ら二世、三世候補が新たに大量当選するとみられ、近い将来、国権の最高機関である国会が世襲議員に占拠されるのは間違いない状況だ。

 では、なぜこれだけ、世襲議員が増えたのか。第一には、日本の選挙のスタイルが後援会中心だからである。後援会は、当選させた国会議員からさまざまな見返りを受ける利益集団でもあるわけだが、彼らは、その利益を他に渡さないために、議員が引退や死去した時、自分たちが今後もコントロールできるよう議員の親族を候補に指名するのである。第二に、議員側は、選挙地盤を維持するのに冠婚葬祭費や事務所経費、秘書たちの給与など数十億円もの膨大な金をかけなくてはならないことが挙げられる。せっかく巨額を投資して育てた地盤を赤の他人に渡してなるものか、という思考で、子どもに議員を継がせるのである。

 だれでも自由に立候補して、政治の世界に飛び込めるというのが、民主主義社会の基本中の基本であるのに、国会議員が、能や狂言、池坊や裏千家のように世襲になっているのは、いかに日本の政治が遅れているかの証左である。伝統芸能の後継者のように、厳しい修業を経たのならまだしも、何の(政治)修業もせずに議員になった連中に日本を託すわけにはいかない。

 小選挙区、比例代表の現行の選挙制度がもうけられて理由の一つは、日本でも二大政党制を実現するのことだったが、二大政党制の本家、英国では保守、労働両党の候補志願者は、学歴、党歴、主張、人物などを厳密に審査され、その審査に合格した人だけが始めて党の候補者リストに載る。日本のように、親子関係、血縁関係で候補が選ばれることは決してない。

 私は二大政党制が決していいとは思わないが、もし、仮に日本で二大政党が政権を争う時代がきても、世襲議員をなくさなければ、形式だけを猿まねしたにすぎず、世界の笑いものになるだけである。


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