7月8日の夜学会のテーマを「自壊する日本政治」と決めたとたん、安倍元首相が遊説先で撃たれたというニュースに接した。世界一安全と言われた日本社会で起こった事件に耳を疑った。元首相は搬送先の病院で死去した。

自壊する日本政治とテーマを決めたのは、7月10日投票の参議院選挙で野党が乱立して自民党との対抗軸を作りえなかったことから思い浮かべた。そんな時、ひょうんなことから、「民主主義が一度もなかった国・日本」(福山哲郎・宮台真司)を読み始めていた。民主党が2009年8月の総選挙で圧勝、鳩山内閣が発足した。2か月後の11月に発刊されてもので、政権交代の意味合いが前向きに語られていて興味深い。マニフェスト通り、民主党政権は政治主導の改革に乗り出した。自民党は霞が関官僚にほとんどの政策を委ねた政権であった。だから霞が関の利権に立ち向かうことはなかった。

民主党はただちに八ッ場ダムの建設を中止した。民主党のスローガンは「コンクリートから人へ」だった。意味のない公共事業にストップをかけたのだ。そもそもこのダムは数十年の時間をかけて建設の是非が問われてきた。推進派は福田赳夫、反対派は中曾根康弘だった。自民党内でも建設の是非が問われていた建設工事だったが、とたんにマスコミは地元の反対を報じ始めた。

農家への直接補償はそもそも欧米の先進国では長年実施されてきたものだが、日本では農水省・農協が反対してきた。農産物の市場価格に必要なコストを上乗せする制度で農家からすれば、絶対に得な制度だが、農家に直接お金が振り込まれると農協の利権に反することになる。民主党はこれを実施しようとした。しかし、果たせなかった。