土佐といえば酒豪の国の誉れがある。独特の文化は「おきゃく」である。宴会のたぐいはすべて「おきゃく」と呼ばれる。人を招いて喜ばす。高吟放歌、談論風発。知らない人でも「うげてもらえる」。まあ酒を飲む機会がすこぶる多い国柄だといっていい。
 高知市が街をあげて開催する「土佐のおきゃく」が今日3月3日から始まる。観光目的で数年前に始まったが、一番楽しむのは自分たちである。自分が楽しければ客も楽しいはずだという自己中心的な発想が土佐らしさでもある。
 会場はどこだと妻に聞かれたが、「街」と答えるしかない。店でも道路でも「おきゃく」が始まる。よさこい祭りと同じである。ガイドブックには一応「会場」が地図に示されているが、明確な定義がないから「高知市中心街」としか言えない。そんな祭りが11日まで続くというのだからおふざけが過ぎていると嘆くひともいる。
 酒を通じて誰でもが友達になれる雰囲気が土佐にはある。橋本大二郎が知事に就任する前には、正月に知事公邸が開放された。誰でも飲み食いできる空間が あった。女も酒を飲む。おきゃくで女が台所で忙しくないよう一度に大盛りの料理を出す「皿鉢」が発展したのはそんな背景がある。
 そんな 酒飲み文化をこよなく愛する人々もいる。土佐をドラマとしたテレビや映画では必ず酒豪が登場する。坂本龍馬を筆頭に山内容堂、岩崎弥太郎・・・。もちろん 禁酒会も明治時代から盛んだった。クリスチャンとなった自由民権運動の雄、片岡健吉は酒を飲まない。土佐は極端な国柄である。
「うげる」 とは受身の言葉で「うげてもろうた」という表現がある。「楽しかった」という意味であり、「歓待された」という意味でもある。いまの人はあまり使わない が、おばあさんはよく「今日はうげてもろうた」と帰宅することがあった。酒を飲まなくても使う表現だから酒とは直接的に関係ないが、ほろ酔い気分で言う言 葉でもある。
 今日ははりまや橋商店街に招かれている。今夜は宴会の芸である「しばてん踊」と「はしけん」を覚えてこようと思う。気分は朝からうきうきである。