DISCUSSION FORUM 講演録
 第8回「日本経済を映す鏡-アジア」
 講師 伴武澄氏 共同通信社記者
 日時 平成8年6月21日
 場所 第一特別会議室
 主催  郵政大臣官房企画課
                  要約
 アジアの企業業績がアップして日本企業と並ぶ、あるいは追い越すところまできている。 95年度決算で韓国の三星電子が3500億円の純利益を上げ、トヨタを抜いてアジアの製造業のトップに立ったことがその象徴となっている。
 アジア活性化のキーワードはデレギュレーションとボーダーレスだと思う。ともに現在の日本社会が不得意の分野であるが、アジア経済のダイナミズムは日本社会が経験したことのない新たな時空間に突入した。特に通信、航空、電力といった大型企業が民営化で政府の呪縛から解き放たれ、高収益会社として業績ランキングに名を連ねはじめた。国境を越えるテレビとして名を馳せた香港のスターテレビはデレギュレーションの寵児的存在だ。シンガポールが中国・蘇州に「植民都市」を建設するなど数年前まで考えられなかった経済事象が次々と登場している。
 われわれ日本のマスコミがそうした変化を的確に伝えてこなかったという反省は十分にあるが、行政も業界がアジアの変化を読み取るセンサーを失っていることは否定できない。日本社会は島国である上、日本語という障壁があるためこれまで外国勢の進出を阻んできたが、超円高と急速な技術革新がさしもの高い壁を突き崩す勢いにある。
 電気通信や放送の分野でも衛星の登場やデジタル技術の予想外の進歩により80年代までの日本の絶対的優位が崩壊した。
 アジアを日本を映す鏡として見るとき、初めて等身大の日本が見えてくるというのがこの10年の記者生活としての経験則だ。アジアを単なるエスニック・ブームでとらえる時代は終わった。日本を頂点とする雁行型経済としてみる時代も過ぎ去った。垂直的協力は遠い過去の話で、水平的協力からさらに水平的競争の時代を迎えている。日本をアジアのワン・オブ・ゼムの一人として位置づけるとき、ようやくアジアを知り日本を知ることができるようになるのではないだろうか。


○司会 ただいまから第8回DISCUSSION FORUMを開催いたしたいと存じます。本日は、「日本経済を映す鏡-アジア」と題しまして、共同通信社記者でいらっしゃいます伴武澄様を講師にお迎えいたしまして御講演をいただくことになっております。その後、若干の質疑応答時間等を設けておりますので、活発な御議論をお願い申し上げたいと存じます。
 それでは、ここで本日、講師をお願いしております伴武澄様の御経歴を簡単に御紹介させていただきたいと存じます。先生は、1951年に高知県でお生まれになり、1977年に、東京外国語大学を卒業されまして、同年、共同通信社に御入社されております。大津、高松の各支局及び大阪支社の経済部記者として御活躍になられまして、1985年、本社の経済部の記者になられておられます。その後、大蔵省、通産省、外務省、農林水産省の各省、それから重工クラブ、流通クラブ等を御担当になられまして、現在では経済ウイークリーを御担当されているということでございます。著書といたしまして、教育社から出されております「追跡N I ES経済-21世紀へのテイクオフ」がございます。今回、多忙なスケジュールの中、DISCUSSION FORUMの講師をお引き受けいただきました。それでは御清聴お願い申し上げたいと存じます。

○伴 おはようございます。朝早くから御苦労さまです。我々新聞記者はいつも出てくるのが遅いんですが、たまに朝駆けとか称して皆さんの御邸宅の前でご迷惑をかけているのではないかと思います。
 今、私は経済ウィークリーというところにいまして、日々の抜いた抜かれたという仕事ではなくて、もうちょっと週末に娯楽的に読んでもらえる、勉強になるような記事を書いています。


 きょう、1枚資料を追加させてもらいました。(資料10ページ)、アジア企業のダイナミズムという点で、先週大和総研からアジア企業の95年度決算、大体12月と3月期が多いんですけれどもが、出そろったのでそれをコンピューターで円に換算してランキングしてみました。ここら辺から話を始めたいと思うんですが、一番驚いたのはそこに2位に三星電子という企業が入っています。これ皆さんご存じと思うんですけれども、実は88年に4メガのDRAMから生産を始めた企業で、実はまだ去年の段階で7年しかたっていない企業であります。三星財閥の今や中核の一つですが、かつてはベンチャー企業でした。当時、日本が1メガから4メガに移行する時期でしたが、そのときに果敢にも4メガから始めるといって、日本業界は「あんなものできるはずがない」と言っていたのを記憶しています。それが今、7年でここまで来た。
 右の方の純利益ですけれども、日本ですと単独決算でしか見ないんですが、欧米、アジアともすべて「連結」と言わない、決算と言えばすべて連結。企業の形態がそういうふうになっております。その税引き後の利益を純利益といいますが、税を引いた後3,400億円も残ったと、こういう計算です。トヨタを調べてみましたら、トヨタの連結が約2,500億円ということで、実は95年度にアジアの製造業のトップ企業はトヨタから三星電子に移ったということが言えると思います。これはニュースに、私は聞いていないんですが、なっていないと思います。地方紙に今ごろ載っているはずなんで、神奈川新聞あたりだと載っているかもしれません。実は、ここら辺に日本の問題がある。自己否定から始めると、我々は単独決算だけを見てきた、国内だけを見てきた、欧米だけを見てきた。その結果、アジアの成長企業、大企業を見落としていた。これは大朝日も見落としていたんだと思いますし、共同通信もソウルにいる駐在員がウォンと円を換算するのもややこしい話ですし、その上にソウルの駐在員がトヨタ自動車の連結決算の純利益を頭の中に入れているとも思えないんですが、だけれども、そういうような常日ごろ持っていなければならないセンサーを我々の特派員も失っていた結果、こういう重大なニュースが見落とされるんだと私は思っています。恥ずかしながら数力月おくれで、本来ならもっと早くメディアがこういうことを書いていなければいけなかったんでしょうけれども、いまだに書いていないということです。
 それともう一つ、けさの新聞で皆さんお読みになったと思うんですけれども、オーストラリアのマードック氏がテレビ朝日の株式二十数%を買う、ソフトバンクの孫さんと一緒ということなんですが、これが1面に載る。今もちょっとお話ししていたんですが、マードック氏というのはオーストラリアのメディアからスタートした人ですが、オーストラリアはアジアなのではないかと。今をときめくAPECの提唱者はたしか88年か89年、私外務省を担当していたんですけれども、当時のホーク首相が各国歴訪して台湾まで行ったんです。中国も行きました、韓国も行きました、日本にも来ました。そのときに、アジアでフォーラムができないものかという相談を各国に持ちかけていました。そのときにアメリカを入れなかったことが当時の政権を怒らせて、結局今の形のAPECになったんですが、言い出しっぺはオーストラリア。実は通産省も裏から手を回して、アジア諸国に参加を呼びかけていたという経緯があります。今、マレーシアのマハティールさんが提唱されたEAEG、これはまさにホークさんが言い出した構想がそのまま生きていて、実は通産省もそのときアメリカを入れることを考えていなかった節が、私たちは取材していてありました。これが世の中変わって、アメリカを中心に環太平洋ということになりました。ただ、アジアを考える場合に、我々はどこまでアジアを入れるんだろうということを考えなければいけないんですが、なぜオーストラリアが入りたがったかと申しますと、イギリスが当時ECに入るためにコモンウェルスの英連邦を解体するという行動に出たわけです。つまり、今まで国旗にくっついていたユニオンジャックがこれから切り離されるという、言ってみれば死活問題が実はオーストラリアにはあった。そういう世界の大きな変化の中で、やはりアジアにつこうという発想を僕は選択したんだと思います。そういうような各国との大きな世界の枠組みの変化の中で厳しい選択をいろいろしてきたのが80年代だったと思います。それが今や90年代になって花開くということになっていると思います。
 マードック氏についてちょっときのうの夜から考えていたんですけれども、私91年に香港に行きまして、スターTVを興しましたリチャード・リーという当時のハチソン・ワンポアの副社長に会ったことがあります。ちょろちょろそういうニュースが出ていたんですが、一度お会いしたいと思って会いに行ったら、今は偉くなって会えないそうなんですが、当時26歳ですから。アメリカの大学を卒業して1年で、お父さんに、2億ドルちょうだいと。何するんだと言ったら、テレビを衛星からやるんだ。それはどういうことなんだと。いや、アメリカ、欧州ではもうみんなやっているんだ、アジアでもそういう時代が来る。これは国境を越えるテレビなんだと、彼は明言していました。偉いのは、お父さんというのはりー・カーシン。ここでランキングに3位に出てくる長江実業、5位のハチソン・ワンポアはそれの子会社なんですが、40%ぐらい長江実業が持っています。これのオーナーです。実質的にアジア最大の財閥、オーナーという方です。この人が実は2億ドル、26歳の子供に使わせたわけです。当時のお金だと250億円ぐらいですね。
 彼は何をしたのかというと、200億では当時衛星が買えなかった。テレビ局もつくれない。当時、1基ヒューズので250億とかそういう感じだったと思います。彼はアメリカとかけ合って、スペースシャトルで回収した中古のやつを半値で買ってきたんです。さらに、打ち上げ費用を節約するために中国の長征ロケット、最近よく落ちるんですけれども。日本のロケットもよく落ちますから、人のこと余り言えない、で打ち上げて、ものすごく安くやってしまった。彼は、欧州で起きたようなことがアジアでも起きるといいなと言っています。これは何かというと、東欧の民主化のことです。衛星テレビがヨーロッパの東の方に民主化をもたらしたように、我々も中国に民主化をもたらしたいんだと。単なる金もうけだけでこれはやっているのではなくて、そういった深い意図があるんだというのを感じさせます。ところが、華僑だと思ったのはその2年後、これはマードックに売ってしまった。たしか7億ドルか何かだったと思うんですけれども、お父さんはいい買い物をしたんだろうと思います。2倍、3倍で売った。実はこのリチャード・リーさんは、その後シンガポールに行って、ここに携帯電話の通信社があるんですけれども、ハチソン・ワンポアが持っている、そこで今頑張っている。つまり、私ここら辺のことをいっぱい書いてきたんですけれども、半年たつともう腐ってしまうんですね、ニュースがもう古い話になる。何を言いたいかというのは、ここで変化のスピードということなんです。
 もう一つそのエピソードを言いますと、これも89年、90年よくアジアへ行ったんですが、
深圳に行きまして、そこでユニデンという電話機の会社がありますが、これは国内でつくらないで海外でばかりつくっているということで、そこで二つびっくりしたのは、一つはそこでつくっている製品がSonyであり、Sanyoであり、AT&Tであり、Bellであり、Cable & Wirelessであり、あらゆるメーカーのものをつくっていました。それはOEMです。伴さん日本帰って、当時親子電話みたいなやつ、ワイヤレス電話が盛んで、ユニデンの買いなさいよ、ユニデンだったら同じソニー定価3万9,000円でもソニーは3万円しかならないけれども、ユニデンなら1万9,000円で売っているよ、でも中身同じなんだからねと知らされて。
 ところが、もっとすごいことに、その中で使っている部品はマレーシア、韓国、日本、台湾、シンガポール、世界中から来る。そしてそこの工場はユニデンのものではなくて、香港の中国人が深圳と契約している委託生産用の工場。だから、自前の工場ではないわけですね。そして最終工程は実は香港で行われていまして、製品はすべてMade in Hogkongになっていた。これは当時、アメリカで問題になっていた問題です。つまり、原産地がどうなるんだというのはガットの方でも問題になっていました。つまり、これはだれがどこでつくったのかというのは、もう当時既にわからなくなっていた。買っている方はソニーだと思っているけれども、つくっているのはユニデンで、つくっている工場は香港企業が責任を持った企業です。部品は、もう当然ながらめちゃくちゃ。そこの深圳の前の工場は台湾にあったんですが、実はこの電話機の価格のほとんどが部品代だと、人件費というのは5%ぐらいしかないんだ。我々は台湾からここへ来るのに人件費が何分の一かに落ちたといった場合に、1円とか2円とかそういうことでやっているんだ、何で1円か2円で生産地を変えるのか。いや、それほど厳しいんだと。考えてごらんなさい、伴さん、経常利益5%上げるというのは大変なことなんだ、4を5に上げるだけでも大変なことなんだ。それが1%でしょう、まさにいう1円だということなんです。そういうような経営が、実は起きていた。
 もう一方でおもしろかったのは、そこの総務セクションにずらっと携帯電話の大きいのが並んでいた。それは香港の携帯電話をパワーアップしたもので、勝手にパワーアップして。当時、香港が携帯電話ブームで、その携帯電話を外資系企業がみんな深圳に持ち込んで海外との通話に使っていた。携帯電話はこうやって持っているから便利なんですが、それをもうセットしてあるわけです。こんな大きいものです、送信機みたいなもの。なぜそんなことをやるかというと、中国の電話事情が悪いんだと。ここから国際電話すると深圳から広州へ行き、そこから上海もしくは北京まで行って、そこから日本にいくんだと、しかも高い。つながらない、高い。香港は一発でつながる、安い。何を考えたかというと、ああそうだ電波というのはやはり国境を越えるんだ、当たり前のことなんだ。それは、その昔から深が||の人たちは香港のテレビを結構見ていたらしい。当時、衛星なんていう話がありますと、これが衛星で使う携帯電話だったらどうなるんだろう、世界で一番安いところの電話会社に各国の利用者が殺到するのではないか。何も日本で買わなくても香港で買って、それを世界じゅうに持って歩けばいいだろうという時代はもう来るだろうなと思っていたら、もう確実ですね。それはさっき言いました、衛星でも同じようなことが起きていたということなんですね。
 ここでちょっと話を戻すんですが、今の経済、80年代後半からの世界経済についてちょっと自分なりにこの1週間分析してみたんですが、今は全世界、経済の拡張期だと思っています。これは戦後2回目の拡張期であります。1回目は、やはり戦後復興だったと思います。当時の復興期のキーワードというのは、当然ボーダーレスではないですから、一国経済、それと米国の財政的支援がものすごくあった。マーシャルプラン。日本も相当受けましたし、世銀といったってアメリカの威光を受けた機関ですし、そういった金が世界中にばらまかれていった。それでその経済の牽引車になったのは、モータリゼーションと家電の普及だったと考えました。これが崩れたのはやはりオイルショック、米国経済はベトナム戦争で疲弊した。さっき言いましたキーワードのうちの、アメリカが世界の経済を引っ張っていく力がなくなった。オイルショックによって、欧州経済も疲弊した。日本だけは何となくうまくいったように思われていった。そこで起きたのが、サミットです。ランブイエでしたか、ジスカールデスタンが世界の首脳を集めたのがそのときで、このままでいくと資本主義社会が社会主義経済に敗れるかもしれないという危機感を背負っていました。まさにオイルプライスが10倍になったことが経済の根幹を揺さぶったのです。「インフレなき持続的成長」と今でも経済宣言に書かれている1行目の文句を編み出したのは、逆から見れば、インフレが横行し成長がない資本主義経済があったからだと思います。
 そうした西側陣営の経済は低迷はずっと続いてきたんですが、その長い低迷から活性期へ移行したのは、やはり80年代後半だと思っております。これは何かといいますと、先ほどのように言いますと、キーワードはデレギュレーションとボーダーレス。時代がもう完全に変わったということです。今申しましたように、国境を電波が越えていくように、一国で規制しても隣の国で緩い規制があればそっちになびいていく。水が低きに流れるというようなことが世界中で起り得る。そのような変化が起き始めたというのが80年代後半だと思います。そしてやっぱり牽引車となるのは何なのかというと、やっぱり今までレギュレートされていた業界、それがデレギュレートされて活性化するという意味では、まさに郵政省管轄の通信事業なんていうのはそうであるし、コンピューターを管理、それから運輸、これは航空、ここら辺が引っ張って牽引車になるのではないかと思っています。実はデレギュレーションを言い出したのがサッチャーさんであり、レーガンさん。 17~8年前サッチャーが言い出し、レーガンがそれをアメリカで実施した。それはアメリカ経済が、苦境の中でも「新しい時代を築くのはこういう産業である」ということを認識したかどうかは別にして、今花開いていることだけは事実だと思います。そのときに日本は何をしていたかというと、エズラ・ヴォーゲルさんが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本を読んで悦に入っていた。私自身も、日本というのはこんなすごい国なのかと当時思っていました。ついに欧米に追いつき、追い越したんだという実感がありました。ところが、日本が唯我独尊に陥っていた時に欧米社会で起きていたのは大胆なデレギュレーションでした。
 本当かどうかわかりませんけれど、どこかに書いてあったんですが、80年代のアメリカで1,000社の航空会社が出現して1,000社の航空会社が消滅した。その一つに、アメリカのフラッグキャリアであるパンナムが消えた。最近、また復活する話が出ていますけれども。「日本で言えばJALは要らない」というようなことそれをあえてアメリカはやった。パンナムより効率的なユナイテッドを選ぶ、アメリカンを選ぶ、そういう選択をアメリカ国民はしたんだと思います。そこら辺に、今の日本のもやもやとしたバブル崩壊後の問題の原点があるような気がしています。みんなが改革をしていたときに、日本だけは頂点に立った喜びに酔っていた。ほかの人たちは、来シーズンのことをずっと考えていたという感じです。
 実はそれは何を言おうとしたのかいうと、こういう業界が実はデレギュレートされた時期とアジアの勃興の時期、アジア経済の成長のテイクオフが実は軌を一にしている。コンピュータ産業とか通信においてはかなり、日本に学ぶというよりかアメリカに学ぶという方向に走っている。確かに製造業では日本の資本進出がものすごい勢いでいきました。そういう意味では、日本の存在感というのはないわけではないんですけれども、今関心ある方面ではやはりアメリカの存在感がアジアでは高まっているのではないかと思います。


 またこのランキング表を見てほしいんですけれども、12位にスワイヤー・パシフィックというのがあります。これは3分の2ぐらいがキャセイパシフィックの利益です。アジアで一番もうけている航空会社はシンガポール航空です。2番目がキャセイ。その後調べていないんですが、日本の航空会社はきっと最下位の方に並んでいるだろうと思います。これは95年度だけではなくて、その前はもっと悪かった。これからちょっとはよくなるだろうという見通しもないわけではないんですが、売り上げ規模をちょっと見てほしいんですけれども、シンガポール航空は約5,000億円の売り上げに対して700億円の税引き後利益を上げています。シンガポールの税金は27%ですから、日本の半分近くです。 JALはたしか1兆1,000億円あったと思います。これの売り上げで、これ単独しかまだ見ていないんですけれども、たしか200億円、今度はよくなっての税引き後利益。この体力の差を考えるべきだと、どうしてこういうことになるのかということをやはり考えるべきだと思います。


 証券取引所が東証の活性化とか、きょうも新聞に出ていましたけれども、大証がアジア株を上場させるという話が、実は僕も北浜に2年間担当したことがあります、十数年前。当時から同じことを言って、いまだに実現されていない。私もあの手の記事を書いたことがあります。当時から、アジアの株を上場させようというのは当時の山内理事長が言っていました。ところが、いまだに実現できないんです。その活性化だとかアジアの企業を上場させようとか、これは人様のふんどしを借りて活性化させようということなんでしょうけれども、どうして来ないのかとかどうして活性化しないのかというのは、企業の業績が悪いからだ、これに僕は尽きると思っているんです。欧米企業は最近、ものすごく業績よくなってきています。
 驚いたのは、95年度の鉄鋼企業ランキングというのがございまして、今新日鉄が世界で1位、2番が浦項総合製鉄、3位がユジノール・サシノールというフランスなんです。これ最近の経営がものすごくよくなっています。新日鉄が今回比較的いいのは、新日鉄は連結で四百何十億円の純利益になっていますけれども、ミネベアから買収した子会社の日鉄セミコンダクターの業績が回復したからなのです。売り上げが600億円で200億円の経常利益を出しています。本体では実は200億円しか稼いでいない。ランキング売をまた見ていただくと、第8位に堂々と出てくるのが浦項総合製鉄。韓国の法人税、地方税合わせて27、8%ですから税引き前も想像がつくと思うんですけれども、1,100億円の純利益、しかもこれはずっと増益基調で来ているんです。実はこの会社は来年までの増設計画がありまして、粗鋼生産能力で新日鉄をついに抜くことがもう決まっています。よほどのことがない、日本は今、設備縮小をやっていますがここは増設ラッシュです。これは絶対に来年は抜かれる。「フランスはいろいろあります。エールフランスのように赤字体質」の企業もありますが、ユジノール・サシノールは経営刷新をやって、ちょっと数字忘れてしまったんですが、巨大な利益を得る体質に戻った。欧米企業だけではなくてアジア企業にも抜かれているというのが今の現状で、そういうときに株を買えといったって普通の方は買わないと思いますね。だから本当に深刻な問題なのです。株式市場のいろいろな制度改革も非常に大きな問題なんですが、有価証券取引税をやめるだとかやめないだとか、キャピタルゲイン課税をどうするとかいう次元以前の問題で、日本の企業社会が今ものすごく病んでいると見たらいいのではないかと思います。
 きょうのテーマの表題は「日本を映す」ですが、私はこの10年経済をやっていてアジアに関心を持っていてよかったと思うのは、「アジアにすら抜かれているんだよ」という危機感を持つことができたことです。今までいろいろ企業経営者にも偉そうなことを言ってきました。日本の経営者はアメリカに負けてもどうも思わないんです。ところが、やはりアジアに抜かれたとなるとちょっと待てと、幾ら何でもプライドが傷つけられるような思いが、それは幾ら何でもある。そういうものを気づかせてくれたのは、アジアを10年間ずっと見てきたおかげではないかと思っています。


 話はあちこちいってしまうんですが、その航空会社がいい決算を出せる背景には何があるのかを説明します。資料の5番(資料5ページ)、今建設中のアジアの新ハブ空港を見てください。成田空港の今1期というんですけれども、2期工事があるのかどうかわからない。この空港は現在700hしかないですね。新ソウル空港が当面は1,100hですが、5,000h近い計画を持っている。7倍。マレーシアのセパン新空港、これは1万h。14倍。ちなみに世界で一番大きい空港というのはデンバー空港、これは1万4,000hあるそうです。このセパンが完成すると世界2番目になる。これは将来のことですけれども、現在でも相当負けておるわけです。アジアで一番狭い空港は香港啓徳空港なんですけれども、これは300hぐらいしかないんです。これはもうどうしようもないけれども、あそこはスキルでカバーして成田並みの離発着をやっている。しかし成田は24時間運営できないので、もう1便たりともふやせない。
 最近、全日空が日米交渉でアメリカ便を一つ獲得したんです。ニューヨーク便です。その代償にソウル便を外したんです。ソウル便は、十分もうかっていたのに外さざるを得ない、成田で1便もふやせないからです。こういうようなインフラの制約が人件費の高さ以外にもあるんだということは、やはり我々知っておく必要がある。滑走路がないものはどうしようもない。成田空港の第2期工事やってあと300hふやしてもう1本滑走路をつくるという計画は20年前からある。反対派との円卓会議の中で工事を再開する合意はできたんですが、いつするかとかどの規模でやるかというのは全く決まっていない。にっちもさっちもいかないというのが、日本の航空業界だ。しかも、そこに高い離発着料を取られる、とんでもない離発着料を取られる。ケネディ空港と比べると十何倍とか言っていました。そういうありとあらゆる日本のインフラ整備のおくれが、やはり航空会社の業績回復をおくらせているんだと思います。運輸省の航空局へ行くと「そうだ。公共事業のあり方を見直す必要があるんだと皆さんおっしゃる。皆さんいいことおっしゃるんですけれども、ではどうしたらできるのかについてはだれもわからない。同じ省内で道路の予算持ってくるとか、下水道の予算持ってくるということすらできないんです。農水の予算までとってくる必要はないわけですが、それすらできない状況で、やはり航空はぜいたく産業だからといって後回し後回しにしている。それでいいのかという話がいつも私を悩ませている。
 もう一つ航空の話でいうと、かつて50年代、アメリカに行くのにグアム、ハワイで給油して行った。一気に飛べないものですからいろいろ寄っていたんです。そのうちアンカレッジ経由というのができて、直行便となりました。航続距離が伸びたから一番近い距離を飛ぶようになりました。ヨーロッパへ行くのは、昔は南回りで香港、バンコク、ニューデリー、テヘランなんて寄っていたんですね。そうしたら、これは航空技術の発展で北極経由で飛べることになった。磁力でオートパイロットが狂わないようなのができたらしいです。その次は、70年代、ソ連が上空を開放した。そうするとモスクワ経由、これが一番近いことになった。今度は中国と韓国が国境を結んだため、中国上空が一番早いということがわかった。ヨーロッパの人たちもアジアを見るときには、かつてはやはりアンカレッジ経由とか南回り経由で見ていた。今や真っすぐヒマラヤを越えてバンコクへ入るんです。フランクフルト―バンコクは中央アジアを真っすぐ飛び越えると、東京と距離がほぼ同じ。ブラッセルから飛ぶのも、チューリヒから飛ぶのも、東南アジアは全部同じコースです。いつの間にか航空路も変わっている、全部変わっているんです。だけど、日本の行政見ていると、何となくいまだにグアム、ハワイをやっているような気分にさせられるんですね。


 ちょっとおこがましいんですけれども、郵政省関連で言うと、NTTの税引き後の純利益は御存じですか。皆さん余り関心ないと思うんですよ。我々つぶれるはずがないと思っているし。 NTTの純利益は95年度決算で二千数百億しかないんです、8兆円近くの売り上げに対して2.200億円だったと思います。
 日本で優良企業と言われている企業をこの中のランキングに入れると、ようやく3位にトヨタが入って、4位にNTTが入る勘定になります。あとの日本企業は調べていません。この後は私の勝手な想像というか、電気通信業界をほとんど知らないで勝手に考えていることをお話しします。最近インターネットを始めました。パソコンを12月に買いまして、1月からインターネットを始めて、10円で世界中につながっています。インターネットを会社でやっている人も結構多いでしょう。共同通信もようやく遅まきながら、プロバイダー的なことをやっていますが、社員は無料ですからNTTに払うお金だけでいいんです。市内料金だけで世界にいってしまうんです。私、自宅でやるときはプロバイダーとNTT両方に料金を払わなければいけないんですけれども、会社でやるときはNTTにしか払わなくていい。でもこれもし内線でやるとどうなのかなと考えたりしたことあるんですけれども、共同通信自身が全世界に髪の毛ほどの細いネットワークを一応持っているんです。これをインターネットともし接続したら、ただで世界中と電話ができるのではないかということを考えています。そういうことを考え始めたときにNTTの分割の議論に疑問を持ちはじめました。審議会報告そのものはニフティーのサービスで見させていただきました。ダウンロードして今もファイルにとってあります。膨大な量でしたけれども、初めて審議会報告というのを紙ではなくてもらえるんだというのがわかってこれは感動だったんですけれども、中身は余り感動しない。やはりこういう時代に分割しようがしまいが、どっちでもいいではないかという感じがします。ボーダーレスの時代でもあり、電力会社や鉄鋼企業だとか大きな通信インフラを持っている企業がどんどん新しいネットワークを、構築してきているわけです。こうした巨大企業同士がネットワークをつなぎ合うとどういうことになるのか。非常にすごいことになる。日本は光ファイバーの敷設がおくれていると言われていたけれども、実は民間企業の方に相当多くのインフラの蓄積があるのではないか。これらを活用すれば、再び日本は通信分野で世界をリードできるのではないかなんていう勝手な妄想をしていました。もしこれ違っていたら、ご批判ください。
 そういう発想ができるのも、アジア変化を見てきたからだと思います。アジアにはそういう発想があるということなんです。国境を意識しないんです。先ほどキーワードはボーダーレスとデレギュレーションと言いましたけれども、ボーダーレスの例をちょっと出したいと思います。1つは、中国蘇州に工業団地を今建設中です。日本企業も出資していますが、主体はシンガポール政府の、日本で言えば住都公団みたいなものです。工業団地を整備するような公団があるわけです。これが蘇州で、それこそシンガポール西部のジュロン地区より広い面積で、しかもシンガポールと同等のインフラを備えた工業団地をつくる。つまり、蘇州に進出するものはシンガポールのも同じになると考えてください。おもしろいのは、シンガポールの各国の大使館でも分譲の受け付けをしている。国家が民間企業の海外でつくった工業団地売却を支援しているのです。実は、シンガポール沖合のパタン島というのがありまして、これはインドネシア領なんですが、フェリーで40分ぐらいのところにあります。そこにも同じような工業団地をつくっています。それから、そのもっと昔を言えば、マレーシアのジョホールというところもシンガポールの金が相当人って工業団地の、ジョホールというのはマレーシア国境ですね、整備をやっています。日本が例えば日本政府の肝入りの会社が釜山あたりに工業団地を経営していて、アメリカのワシントンの在米大使館にどうぞアメリカ企業、釜山に来てくださいという状況を考えてください。あるいは、米国が中国の青島あたりに工業団地をつくって、これもアメリカ大使館が、ロンドンで売っているという状況は何なんだろうということなんです。シンガポール人が同じ中国人だからということもあるかもしれないけれども、こういう人様の土地を借りて合意の上とはいえ、そこを開発して売る行為は国家主権を逸脱している。僕は新植民都市と呼んでしまったんですが、そんなところまで経済のボーダーレス化は進んでしまったと考えた方がいいのではないでしょうか。
 台湾も同様に、ご存じの今度APECをやるスービックに肩入れしています。ここに台湾政府のODAがつぎ込まれ、団体名忘れましたけれども、向こうの日本の経団連に当たるところも肩入れしています。ここにはもう既に数百社の台湾企業が進出している。スービックは元米軍基地跡でして、4,000メートル滑走路の空港と、それこそ巨大な戦艦がとまれるようなバースが幾つもあります。これは全部商用に転用できる。発電所ももちろん巨大なものがあります。それから、住宅も幹部、それこそフィリピン司令官から普通の一般の人まできれいな芝生の中にあるそうです。私は行ったことがないですが住宅インフラまですべてがそろった工業団地というのは、世界でもあそこぐらいではないのかなと思いますが、そこに実は台湾が非常に肩入れしている。これはなぜかというと、やはり97年の香港返還を控えてもっと安全な投資地が欲しいというのが台湾の意向だと、これは確信しています。
 これはなぜかというと、ちょっとまた話がずれるんですが、台湾の投資というのは大体が福建省に向かっています。台湾は、特に福建南部の閩南という地域からの出身地がほとんどなんです。僕はあるとき、各地の東南アジアに点在する華僑の出身地を集計したことがあるんです。そうしたら国別によっていろいろあるんですが、、香港を除くと福建省が圧倒的に多い。華僑はそもそも福建、広東、潮州、海南、あと客家、この5つに大体分かれます。大体商業資本というのが潮州か、閑南語をしゃべる福建。実はフィリピンもここの圏内。マニラ周辺、ほとんど福建語で通ずるそうです。ここが台湾、ここが福建省、ここが広東省、ここが海南島、ここら辺に香港がある。潮州というのがここら辺なんです。フィリピン、ここら辺です、マニラ。ここの最大の都市がアモイというんですね。これが台湾人のふるさと。閩南語をしゃべるのはアモイ周辺地域。北部は福州語といって、また違うらしいんです。大体の人たちはアモイ周辺から渡っている。鄭成功という国性爺合戦で有名な方もここから出てきています。中国の地方都市で一番早く国際便が飛んだのはここ、マニラ―アモイ間です。台湾―マニラ―アモイの関係はこの国際便の話ひとつで了解してもらえると思います。今駐日大使をやっているユー・チェンコ氏はフィリピンの財閥の総帥の一人なんです。前、日本大使やる前は中国大使。ラモス政権の非常に信任の厚い方です。その方は中国人華僑。中国人が国を代表した外交官になって中国大使になったり、東京へ来て日本大使になるというボーダーレスな関係が、またそこで浮き彫りになる。
 客家は華僑のふるさとである福建省と広東省と湖南省の堺にまたがる山岳地に追い込まれた民族です。四川省にもその分派がいますがこの山岳地からさらに移民していったのです。鄧小平の祖先も同じような移民組といわれています。リークワンユー元首相も客家の出身で先祖が潮州近辺の出身と伝えられています。この山岳地の中心地に梅県というところがあります。客家のふるさとで覚えておいていい地名のひとつだと思います。葉剣英も梅県の出身です。
 福建省と広東省、そして客家が住む山岳地から東南アジアに出て華僑となったのです。広州市の周辺は珠河デルタがあり、お米もできるのですが、ここらは山がちで雑穀と野菜ぐらいしかとれません。ちなみに閩の字の由来を福建省で聞いたことがあります。長安から来た都人たちは福建省に入るのに高い山々を超えなければならない。この山にはヘビが多く生息しているそうです。中国語でヘビのことを「虫」といいます。「門」が峠や関所の意味ですから、閩はヘビがたくさんいる関所をを越えた地、野蛮人が住むところだと長安の人々は福建省を軽蔑したわけです。そんな野蛮人が住んでいる地域が今や東南アジアの経済を牛耳っている。
 広東省の東北部は潮州といいますが、ここと広東省といっても福建とほとんど言葉が似ている。通じるそうです。広州市までくると福建語は通じません。香港最大の財閥のリーカーシン氏は潮州の人です。ちなみにタイ経済を牛耳っているのはどういうわけか潮州系の華僑です。どういうわけか。ほかのところはいろいろいるんですが、例えば都市住民に絞るとマニラではもう福建圧倒的とかホーチミン、福建圧倒的とかそういうことになっております。‘
 つまり、そういう人たちがアジアで活躍し始めたときに今言いましたような植民都市なんていうのが形成される。それで違和感がないんだと思います。ここから出た人がこの国をつくっているようにとか、シンガポール行った人がここの人がここでつくろうが、シンガポールの人が、蘇州はもっと上海のこっちの方ですけれども、上海から電車で5、6時間ですか、奥地です。ここに工業団地つくろうが、日本人がこれつくったら大変なことになると思うんですけれども、そういう歴史的民族的背景があるというのが非常に彼らに有利に働いているということだと思います。こういうテストケースが成功すれば、きっとベトナムでも同じようなことが起きて、ミャンマーでも同じようなことが起きて、ますますボーダーレスになる。
 それでこのボーダーレスを促進するもう一つの動きが中国側にありまして、中国の外資導入政策なんですが、外資であればいろいろな優遇措置が受けられる。まして特区とか経済開放区に進出すれば、さらにそれを上回る優遇措置があるということになったときに中国人が何をやったかというと、香港に支社をつくった。現地法人をつくった。アモイの国営企業が香港に現地法人をつくる。この現地法人、場合によっては台湾との合弁企業がアモイヘ投資する。いったん香港にクッション置くことによって、法人税が5年間ただになる。そういうことが現実に起きて、今も続いている。さっき言ったように、ボーダーレスで彼らは動くような体質ですから、そういう発想がぱっと思い浮かぶんでしょう。中国が国策でつくったCITICというのは皆さん御存じだと思うんですけれども、中国国際信託投資公司。これの栄毅仁という人が総帥なんですが、この人はもともと上海財閥の出身で、革命中国から年金もらっていたというか、全部資産を共産党に渡したものだから、配当生活をずっとしていた。 80年代後半に郵小平に呼ばれてCITICをつくれといわれ、これが世界中の金を集める役割や商社的機能を果たした。香港法人を、CITICパシフィックと言いますけれども、これが実はもはや香港で10ケツの利益を稼ぐぐらいの企業に発達してしまった。5年もたたないうちに。その企業は何をやっているのかというと、上海に発電所を3つ持っているとか、有料道路の建設をしている。やはりこれは鄧小平肝入りの改革・開放の象徴みたいな企業なんです。各地にこのCITICというのはあるんです。福建CITICというように支社があります。CITICが、香港活用を率先してやっておるわけですから、ほかの企業がやらないはずがないというぐらいボーダーレスになっているんだと思ってください。
 我々が考える以上に、アジアというのは非常に柔軟な発想を持っていたということなんです。さっき言いましたキーワードのボーダーレス。ボーダー越えるということは、つまりもうボーダーの向こうとこっちのレギュレーションが無視されるということなんです。今の話で言えば、こっちの経済特区の方が緩やかというか、税制面で非常に有利だといったら、みんなそれを何とか利用しようと思って香港に出てきてしまうわけです。直接、CITICが上海に投資することはしないです。わざわざ香港を通じてやるということをやってしまう。日本だったらちょっと考えられないし、きっとそれをやったら建設省とかどこか大蔵省に呼ばれて「君、君」ということになってしまうんでしょうけれども、ここでは何も起きないということが、今やはりすごいのではないかと思います。
 雑駁な話になってしまったんですけれども、最近ちょっと印象的な話をアジアの方に聞いたのを幾つか紹介して終わりたいと思います。3年前で古い話なんですけれども、今も同じだと思いますが、香港の証券取引所の理事長でM・Y・チョウというのがいたんです。94年4月ごろでした。 93年末に香港のハンセン指数ピークをつけました、1年間で株価が倍上がったんです。当時、日本は東証平均が1万3,000円まで落ちるのではないかと心配していました。香港の人たちは数字でハンセン指数が東証を抜くとかいううわさがあったぐらい勢いがよかった。ハンセン指数は1万2,000ポイントまでいった。当時、日本の1万4,000円ぐらいです。ところが、93年末を頂点に市場が急落したんです、3分の2ぐらいになった。そのときにお会いしたんですけれども、「日本と同じようなバブルになるのではないか」と聞いたら、「いや違う、この1年間に香港企業は株価が倍になったけれども、収益も実は倍になっていて、配当も倍になっているんだよ」といわれました。「日本企業は、あのとき収益は倍になったけれども、配当出したかい」と言われたときには二の句が継げなかった。当たり前といえば当たり前なんですけれども。
 そこらはちょっとサラリーマン的な発想になるんですが、大分前から思っていたんですけれども、日本というのは平均的社会ですね、だから賃金の格差が少ない。アジアは階級社会ですから、大卒と高卒の賃金が雲泥の差がある。少なくとも我々大卒の社会が2 DKの家で1時間の通勤をかけているという状態の中から見ると、彼らの生活の方がよほどいいのではないかという印象を得ていました。例えば台北に3回ぐらい取材で行ったことがあるんですけれども、台湾も不動産ブームですが、100平米未満のマンションなんか売っていないのです。そんな狭いマンションは家ではないのです。いろんなアジアの人と話ししていても、みんな100平米とか120平米のマンションに住んでいると平気で言う。それが平均的なのかわからなかった。1度ソウルで平均的なサラリーマン3人集めて話を聞いたことがあります。一番関心のある住宅問題とか通勤時間とかそういうのを聞いたら、みんなやはりそれぐらい買っているということがわかった。この間、韓国の雑誌を見ていましたら、平均的ソウル人というのが出ていまして、まだ平均的は高卒なんですね。ある企業へ勤めていて給料が27万円、34歳。最近100平米のマンションを買ってこれからローンで苦しくなるとか言っている。ローンが一千数百万円かな。そういう話なんです。やっぱり日本の住宅はアジアにもおとるのです。
 日本が1ドル100円を超えてから1人頭GDPが3万ドルだとかいったところで、何の意味もないことはもう昔から言われています。1ドル=100円は実際の生活に全く反映された為替水準ではないと思います。だけれども、企業社会がこの10年間、その実態とかけ離れた為替水準をつくり出してきたことは事実だと思います。つまり、一方で80年代に「社員があっての企業だ」と言っていた人たちが、バブルが崩壊すると日本的慣行であったはずの終身雇用は「慣行ではない、そんなものは制度でも何でもない」「どこにも書いてないではないか」「ただそれが続いてきただけだ」というようなことを手のひらを返したように言うわけです。日本が長期的経営だと言いながら、すべての資産をバブルですってしまった企業もあるわけで、言っていることとやっていることが、相当この10年間ずれてきたというのが印象です。
 クリスティン・クンナンというフィリピンのJETROみたいな役割の組織なんですけれども、DITCの29歳の若い支社長がこういうことを言っていました。「5年前、フィリピンにとって資金や技術で協力してくれるのは日本以外にはなかったんです。国民の目が日本にフォーカスされていたと言っていいでしょう。ところが、最近ではフィリピンの経済もようやくアジアの経済トレントに乗るようになって、多くの国からの投資が来るようになりました。協力相手はシンガポールもあり、香港もある、中国だってベトナムだって相手になってくれる。日本はいつの間にかワン・オブ・ゼムになってしまったんですねということを言って、実はそれはなかなか皆さん気がついていないのよね」と。5年前はそうだった。
 最後の締めくくりはまた郵政省絡みなんですが、ミューズ、これは台湾のある半導体の
社長がこの間ビジネスで来てインタビューしたときに言っていました。日本はハイビジョ
ンテレビでアナログ、デジタル論争があるんだと言ったら、うそだと言うんです。そんな
はずはないと。いや、ちゃんとれっきとした論争があるんだ、いまだにNEC、ソニーも
アナログ方式でやるんだと言っていると言ったら、うそだと、5分ぐらい信じてくれない。
そんなはずがない、もしそんなのが本当だったらそれはもうツーレイトだ、日本という国
はと。これが2,600億円稼いでいる会社の社長です。つくってまだ10年ですけれども。そ
う言っていました。つまり、この人も同じことを言っていました。ミューズは5年前は世
界のだれもが届かない、技術の最高峰だったと。
 そういうことで、きょうのお話は終わりたいと思います。(拍手)

○司会 それではこれから質疑応答の時間に入らせていただきたいと存じます。皆様のご
活発なご意見をお願い申し上げたいと存じます。
○質問者 1枚目のデータ、ちょっと事実関連からお聞きしたいと思いますけれども、連
結決算、言わなくても連結だというお話ですが、売上高、純利益、これは分野は全く同じ
の数字なんでしょうか。
○伴 同じです。向こうの決算報告書からとったものです。
○質問者 例えばシンガポールテレコムが10番にあるんですけれども、売上高2,671億円
で税引き後利益が1,006億円。先ほどの話だと27~8%税金がかかるのではないかという
お話だったので、そうだとすると例えば半分はもうけているという数字になると思うんで
すけれども、ちょっとそうかなという気がするのと、それからもう一つ、先ほどボーダー
レスという話がありましたけれども、基本的には純利益といいますか、それは資本金に対
する金利と、長期的にはパリティーになるのではないかと。机の上の理論かもしれません
けれども。そうすれば、この純利益はこれからこのまま維持できるのかなという疑問が、
短期的にはいろいろあると思いますけれども、そういう気がします。
 それと連動してなんですけれども、先ほどNTTの95年の利益が2,900億円とおっしゃ
いましたけれども、7兆円ぐらいの売り上げ、それでそうなるんですけれども、ただこれ
は利益を上げればそれでいいのかというようなことだと思うんです。例えば、我が国の国
内で売り上げの1割の純利益でもって企業というのはそんなに長続きするのか。それは投
資がお互いに入ってきてバランスをしていくのではないか、常識的に、そんなことを考え
ます。
 それから、また例えばNTTの話に関して言えば、純利益が高いということはそういう
意味では、ある意味では競争が完全にないという場面では利用者の料金が高どまりすると
純利益が上がるということになるのではないかなと思ってちょっとお話をお聞きしたいん
ですけれども、お考えをいただければと思います。
○伴 3番目の長江実業を見てもらうと、売り上げ1,600億円に対して1,500億円の純利
益。税金払っているんですよ。これ実は子会社からの持ち分利益というのがちょっと日本
の決算方と違って、これが1,700億円あるんです、この会社。売り上げが1,600億円です
ね、ちょっと記憶が定かでないんですけれども、営業利益は300億円ぐらいなんです。そ
れにその持ち分利益、子会社からの利益が入ってきて、合わせると税引き前で1,700億円
ぐらいになるんです。実はそういう社会というか、例えばここ電力会社持っているんです。
長江実業はハチソン・ワンポアを通じて持っている。そこからも来る。いろんなところか
ら子会社から入ってくるというのを全部足した数字だと一足したというか、差し引きも
している。そこは調べたんですけれども、シンガポールテレコムまでは中身調べていなく
て、ただ17、18位の台湾積体電路、聯華電子、これは両方とも半導体。 10年ぐらいの会社
なんですが、これは本当の利益だそうです。ここは半導体産業については戦略的産業とい
うことで、新竹工業団地で生産する限りにおいては、法人税が当分の間無税になって
います。だからこれが税引き前そのものです。ですから相当半導体というのは、去年もう
かったと。
 日本もかつて60年代の決算見てごらんなさいと言われました。経常利益3割当たり前だ。
日本は税金が高かったから6割持っていかれるから10%ぐらいの税引き後になるというこ
とです。それでアメリカの決算見てください。この間見たフィリップモリスは、日本円に
して6兆円の売り上げに対して7,000億円の税引き後利益を上げています。税引き後で10
%上げるというのは、世界的に何の珍しいこともないことだと僕は思います、欧米企業で。
元気な企業はみんな上げていますし、マイクロソフトとかそんなのだったら、もうとんで
もない数字だと思います。日本の座標軸で見てみるとおかしい、何でこんなになるんだろ
うと思うんですけれども、目を海外に転じていただければ、10%の税引き後はそんなに高
くも何もないと思います。
 料金との関係は、ちょっとわかりません。
○質問者 4ページ(資料4ページ)のアジア高感度企業ランキングなんですけれども、
感度のどういう物差しなんでしょうか。
○伴 6項目ぐらいになっていまして、例えば最も成長した企業とか、トップ、マレーシ
ア航空、2位台湾のエイサー、それとかベスト商品、ペストサービス部門、シンガポール
航空、ダイムラーベンツ、三星電子、ソニーは10位、それから将来の成長性、エイサー、
浦項総合製鉄、それから地域への貢献度、浦項総合製鉄、三星電子、サイアム・セメント、
それから労働、雇用者としての評価とか結構割と幅広い、これはフォーブスのやつに準じ
たものだと思っています。
○質問者 私、個人的にもタイに2年いて、オーストラリアに1年いたので大変興味深く
お話を聞かせていただいたんですけれども、アジアの収益ランキングに出てくる国の中で、
先ほどの華僑経済という意味では香港、シンガポール、タイ、マレーシア、台湾というの
は均一だと思うんですけれども、大きく韓国と日本とのアジアにおける違いというのは一
言で言うとどんなことでしょうか。
○伴 韓国はアジアで、日本は違うんではないですか。成長する集団と成長がとまった集
団との回路がきっとDOS/V機、去年のような日本は98、NECだと、かつてはシェア60%が今5割を割った。回復する見通しはないからやっぱりDOSに乗りかえるべきではないかと。アップルとは言わない、アップルはもっと先進的だったと思います。かつてのトロンみたいな。トロンをつぶした国ですから、日本は。
 一つだけ、なぜこんなに僕がアジアについていろんな方面から分析し始めたかというと、根っこは日米構造協議にあるんです。そのときにアメリカ側か膨大な資料を出してきて、日本の構造問題について追及し始めて「あらっ」と思ったんです。アメリカへも外務審議官にくっついて何遍も行ったり、首相にくっついて行ったりするたびに僕は一緒に帰らなくて、必ず2、3日どこかに滞在して、あわよくぱ民泊させてもらったりしていたんですけれども。それで日本人にも会いましたし、向こうの人にも会いました。
 違うと思ったのは、向こうの社会はアメリカというのはたくさんの民族で成り立っていて、そのために必要な仕組みがたくさんある。 60年代に公民権運動が起きて、少数の権利というものが守られるようになった。それで質的にアメリカ社会は大きく変化したんだと。つまり、日本は日本的慣行だとか日本的商慣行だとか昔からあるようなことを言っているけれども、アメリカはそれを乗り越えて変えてきたのにおまえたちはなぜ変えないのか、僕はそういう感じをしました。だから我々も血のにじむ努力をして変えていかなければいけないのだと。それはアジアを見てみれば、もう変えざるを得なくなっている。もうこれは数年前までは変えなければいけないという議論だったんですけれども、今は余儀なくされているという感じだと思うんです、本当に。いいとか悪いとか言っている場合ではない、嫌でも変えなければいかん時代に突入して、変えなかった5年間、10年間を今から振り返ればむだにしてきたという思いがあるんです。自分もそういう中にどっぷりつかって生きていた人間ですから今さら言うのもおかしな話なんですけれども、いつか変えられるものなら今からでも変えようという、変えなければ日本は蘇生しないだろうしということです。これが構造協議が教えてくれたものだと思います。
○司会 それでは予定の時間が参りましたので、これにて本日のDISCUSSION FORUMを終わらせていただきたいと思います。