HAB Reserch & Brothers



誰がやったって同じさ

1998年04月07日
 元中国公使 伴 正一

ご意見
 誰がやっても同じさ、という気分が有権者の間に漂っている。だからこのところ、補欠選挙という補欠選挙で、これほどまでに声望地に墜ちた橋本竜太郎を総理・総裁にいただいている自民党がかなりいい形で勝ち続けているのだ。

 その適例が東京4区(大田区)である。新井将敬の自殺に伴う補欠選挙だったが、町工場が多く、不景気と貸し渋りの打撃をモロに受けている地区だけに、本当なら自民党がゴッソリ票を失っていいはずだ。それが自民党圧勝の形で勝っている。

 だが投票率に目を転じると何と驚くなかれ39%!

 棄権した6割以上の有権者の中には、"民主主義も猫に小判"の有権者失格組も混じっているうが、大多数は

      誰がやっても同じ

という気持ちで選挙に行く気にならなかったのではなかろうか。

 マルクス・レーニン主義を捨てたのか、捨てずに隠しているだけなのかはっきりしない共産党は別にして考えてみよう。

 一昨年の総選挙で今にして思えば、唯一、正しい経済見通しを立てていた新進党は、政策理念ではなく"小沢憎し"の風にやられて凋落の一途をたどり政権政党への志なかばにして姿を消した。

 代わって野党第一党になった民主党や、それを中心に新「民主党」結成を急ぐ"民友連"も自民党内閣失敗のあとを担う政権政党としては貫禄もまだまだだし、期待感も出渋っている。自民党不信の声が最も上がりそうな東京4区で、自民党に大きく水をあけられ、共産党とドッコイ、ドッコイの得票がやっとだった。

 ただそういう中で、パッとしない「党への期待感」を尻目に、ひとり菅直人は次期総理候補としてどの世論調査でも悠々トップを占め続けている。

 私の見るところ、それは菅直人の政策、理念によるものではなく、厚生省という舞台で示した大臣らしい大臣としての今どき珍しい武者振りによるものだ。しかし、原因が何であろうと、今の菅直人人気は天下の貴重品と言わなくてはならない。

      誰がやっても同じ

という、沈滞し切った有権者のムードを一変させることのできそうな人物は、情けない話だが、日本広しといえども菅直人をおいては見あたらないからだ。だが、菅直人を総理にして、その力を発揮させるまでには、"発射装置"を構築する上で工夫に工夫を重ねなくてはなるまい。

 その一つ、効果てきめんと思われるのは、なるほどと国民がうなずきそうな大蔵大臣候補を、議席のあるなしにかかわらず、予め公約にして総選挙に臨むことだ。大蔵大臣以外にも主要閣僚人事を公約に掲げたら有権者に与える印象はさらに鮮烈になるだろう。(つづく)



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