ネタジ・Ｓ・Ｃ・ボースに捧ぐ　野口米次郎

　ネタジ・Ｓ・Ｃ・ボースに捧ぐ　野口米次郎
断食は最後の切札であった
ガンジーは立派に魂の偉力を示した
私どもは彼に讃歌を称えた
だが彼は英の不法を俎上に責めるのみだった
彼は蛮英の鉄鎖を断つことができなかった
彼は私共の称賛に聾して、再び狭い暗空の結跏に退くに至った
彼は呪文に託して地上魔を払わんとした
彼は余りにも清僧でありすぎた
チャンドラ・ボースよ！　私の君に間わんとする所は、インドの今後だ
貴国の対英離反、これは事実だ
日本は貴国を助けるであろう、これも事実だ
だがこれは間題の解決ではない
ただ両者の意志の一致にすぎない
鳴呼！印度はどうして英を屠るつもりだ
この食婪な障害をどうして殺除するつもりか
敵は貴国に陣して壕を掘り、塞を高く連ねて剣を磨いている
今や貴国はいかに立つか
日本はいかに貴国を助けるか
潮は高まり風は吹く
時局は刻々に切追して来る
印度人よ、決意の卿等を呼ぶを聞かないか
卿等の生命はなぜ行進の息吹となって八裂しないか
日本は卿等の蜂火と跫音に答える用意は出来ている
起て印度人よ、新しい時代は卿等の突撃を待っている
機は光線の泡をつくって渦巻いている
印度人よ、いざ勝利をめざして出陣に急げ
（一九四三年六月二十日）