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首切り屋といわれたアウトプレースメント企業だが・・・

1999年06月24日(木)
メディアケーション 平岩 優



 ●97年の規制緩和で動き出す
 最近、NEC、三越、日商岩井など業界大手の企業が大規模なリストラを表明し、いよいよ本格的な雇用調整が始まった。また、ここ数年、多くの企業が合併や不良採算部門の切り捨て、企業同士による事業部の統合などに取り組んでいる。そのため、人材は能力の有無より、企業組織の変化やコストパフォーマンスの観点などから、リストラの対象にされるケースが多い。長い間、日本の雇用形態の特徴とされてきた終身雇用は、その良し悪しが議論される以前に、崩れつつあるようだ。

 しかし、このように離職者が増えるなか、日本には雇用の流動化に対応できる労働市場が未発達である。その原因の一端は、国が原則として民間の有料職業紹介業を禁止してきたからである。つまり、離職者は原則的に、職安(ハローワーク)の窓口を通じてしか職業をさがすことができなかった。

 それが97年4月に、従来、有料職業紹介業が特別に扱うことが許されていた職種が拡大され、ホワイトカラー職種も取り扱えるようになった。しかし、あくまでも特別であり、自由化ではない。この規制緩和を受け、ビジネスとして成立するようになったのが、「アウトプレースメント」と呼ばれる有料職業紹介業である。現在、その数は約30社、市場規模は80〜100億円といわれている。

 ●人材の不良資産化
 その一つである日本能率協会マネジメントセンターのキャリア・カウンセリング研究所を訪ねた。ここに登録している再就職希望者のスペースには、パーティションで区切られたデスクが並び、置かれた電話やパソコンは自由に使うことができる。壁には求人情報のペイパーが何十枚か貼られ、内容をみると従業員20人、200人と規模も業種もまちまち、業務も営業、経理、技術系とバラエティに富んでいる。

 案内してくれたカウンセリング部の杉本敬三部長によるとこうだ。

 「技術系の求人が多いと思うでしょうが、そんなことはない。たとえば技術に自信はあるがマーケティングの人材がいないなど、求人内容は千差万別。給料は下がりますが、将来性のある中小企業もありますし、受け入れ側も経験豊かなな大企業の人材が獲得できると前向きです」という。
 実はこの杉本部長も昨年、リストラ対象となり、ここでカウンセリングを受けたことがある。大手エンジニアリング会社時代にはいくつもの海外プロジェクトの責任者として活躍し、肩をたたかれたときは寝耳に水だったという。

 それだけにショックも大きく、屈辱感も味わった。しかし、カウンセリングを受けるうちに、名刺の肩書きをはずし、自分の価値やキャリアを客観的に評価し人生を前向きに捉えられるようになり、再雇用の仲介業の必要性を痛感したという。その結果、杉本氏は「修羅場の経験を生かして、皆さんの手助けができれば」と、この1月から現職に転職した。

 そのカウンセリングの一つに、「自分の棚卸し」がある。いってみれば、商品としての自分を再点検することだ。履歴書を書くことはやさしいが、自分の中に蓄積された売り物を棚卸ししてリストを作るとなると、誰もが困惑して作業が進まないという。そうだろう。自分にあてはめて考えても、いや日本人は一般的に、商品としての自分をプレゼンテーションすることが苦手なのでないか。

 この事業部は97年4月に発足し、求職者数は累計で250人、平均52.5歳、そのうち再就職を果たした人は190人にも上る。再就職が決まるまでの平均期間は約3カ月という。リストラ計画を進める企業が、一人につき150万円を支払い、同事業部が再就職が決まるまでカウンセリング・教育を含め求職希望者の支援を行うというシステムだ。

 企画推進部の高松健司部長によるとリストラにはこんな背景もある。

 「たとえば金融機関が100人のリストラを条件に融資をするというような企業事情もあり、リストラの対象者は個人としての能力を否定されたわけではない。パフォーマンスと賃金が合わないからリストラが発生するわけです」

 「しかし、もし、そうした人材の市場がなければ、債券や土地のようにキャリアを持った人材が『不良資産化』します。民間の職業紹介事業がそうした市場を活性化する役割を担うのです」

 ●中小企業にチャンス
 当初、「首切り屋」と揶揄されたというアウトプレースメントも、現在では徐々に社会から認知されてきている。しかし、こうした有料職業紹介業者を利用できる離職者は転職援助におカネを出せる大手企業に限られている。

 なぜなら、有料職業紹介業は個人から料金を徴収することが禁じられているからだ。といって、無料の職安の職業紹介では、キャリアに見合う再就職先を探すことが難しいのは、いまや常識である。

 欧米では「temp to parm」(派遣から雇用へ)という雇用スタイルがある。派遣会社に登録し派遣されたスタッフが、そのまま派遣先の企業の正社員に移行することで、欧米ではごく普通に行われているという。

 「temp to parm」が成立したときには、派遣会社は、受け入れ企業から移籍料が徴収できるので教育訓練コストを回収できる。しかし、日本では派遣業者が職業紹介を目的に人材を派遣することは認められていない。

 その日本で「temp to parm」の手法を取り入れている企業がある。大手人材派遣業パソナの子会社である人材交流システム機構は「キャリアインターン」システムにより、大企業から優良中小企業への人材の橋渡しをしている。人材を送り出す企業は人材交流システム機構に出向という形で人員を送り、同社にその人員の年収の15%をコンサルタント料として支払う。

 そして、同社はその人材のキャリアを生かせる企業を探し、コンサルタント業務委託という形でその企業に人材を送る。受け入れた企業は自社給与水準から算出された業務委託料を支払い、6カ月から1年のインターン期間働いてもらい、双方が合意すれば正式採用となる。

 人材交流システム機構は93年に発足、現在は年間250−300人の人材の橋渡しをしている。パソナの実績を活かし、人材を送り出す大企業300社、受け入れ企業3000社とのネットワークを構築していることも強みである。また、97年からは個人も同社の契約社員として契約し、業務委託の形で受け入れ企業に送り出している。その数は累計1000人を超え、民間の職業紹介業としては、個人を扱う初めてのケースといわれている。

 「不況下でも、新しい風を入れたいので違う発想ができる人材が欲しいとか、店頭公開するので広報課を新設したい、マーケティング部を新設するので部署の責任者が欲しいなどニーズが寄せられています。以前なら、ヘッドハンティングでしか採れないような人材が、自社の給与水準で獲得できるのですから、受け入れ企業にとってはチャンスです」(渡辺尚・人材交流システム機構取締役)
 受け入れ側が求めている人材もマーケテイング・営業が4分の1、人事総務・経理などの間接部門が4分の1、エンジニアが4分の1と幅広く、正式採用される確率も高い。なかには役員に就任するような例もある。渡辺取締役は「今後も雇用のミスマッチを解消し、中小企業にどんどん優秀な人材が流れて欲しい」と抱負を語る。

 ●求人、求職のミスマッチで膨らむ失業率、社会コスト
 このように再就職希望者、採用する側の企業もそれぞれニーズは多様化している。すでにこうしたニーズに職安だけで応えることは不可能となり、民間業者のきめ細かいサービスが求められている。こうした中で、労働省では現在、有料職業紹介の原則自由化を検討している。そのたたき台となる私案では就業後一年未満の新卒者を含めたホワイトカラーの職業紹介を全面解禁すること、事業者の新規参入時の要件緩和、個人情報を漏らした事業者への罰則を設けることなどを打ち出している。

 われわれは、人間や労働を商品として考えることに、どこか後ろめたさを感じる。マルクスの剰余価値説の影響もあるのだろう。しかし、気がついてみれば、先程の棚卸しが苦手なように、買い手から声がかかるのに任せるしかないような状況になっていないか。

 そのための労働市場も未整備なままだ。労働省の推計によれば、ことし1−3月期の失業率4.6%のうち、3.2%は求人と求職のミスマッチによるものだそうだ。そうこうしているうちに、失業保険などでかかる社会コストもどんどん膨らんでいく。

 政府は雇用創出のために中高年を公立学校のパソコンや外国語の教師として臨時採用するプランを検討中などといわれるが、要は規制緩和を進め、もっと根本的に人材の流動化を促すような政策を押し進めるべきである。

 平岩さんへメール yuh@lares.dti.ne.jp

 環日本海経済情報のURLは、http://www.lares.dti.ne.jp/~yuh/index.html

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