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横浜MM21に帰ってきた「お花の萬奮闘記」

1999年03月10日(水)
お花のプロデューサー 近藤 萬右衛門



 1998年11月25日付萬晩報で紹介した近藤さんの花屋台が横浜MM21に帰ってきた。筆者も妻と一緒にクリスマスの朝、訪れたが「クリスマス・イブの夜に売り切れてごめんなさい」ということで有名な花屋台を目にすることはできなかった。わくわくするような話がまた聞けるようになるのが嬉しい。

 みなさん春ですよ。コーヒーでも沸かして、ゆっくりとお読みください。休んでいるのかと思ったら横浜の2000社に突撃セールスをかけていたのだからすごいです。きっとこういう話が日本を明るくするのだと思います。お花の萬奮闘記の第一号はhttp://village.infoweb.ne.jp/~fwgc0017/9811/981125.htmです。3月7日号を転載します。


 ●オフィス街を歩く赤いリヤカー
 桜木町での認知度は思いのほど高くなり、固定客がかなり出来たのである。あの、冬の寒い朝から歩道に立っていた甲斐があり、がんばれがんばれと熱い声援を頂けるようになったのである。差し入れを頂いたり、通りすがりに笑顔をくれたり人それぞれ様々なカタチで気持ちを表現してくれる。

 こんなカタチでコミュニケーションがとれる商売は私自身今まで経験したことがないので、ものすごいことだなと思う。でも商売はこれが基本だとつくづく感じるのである。会社の営業でもそうでしょ?まして今は価値観が流動化して、大きな会社の偉い人たちほど何が正しいのかも判断できなくなってしまったりしてませんか。

 そんな状況の中で単純明解なコンセプトを掲げて安い商品を単純に売る。誰にだって出来る事だけど、なかなか出来ない。でもこれからはそういう時代なのである。

 次の作戦を実行する時がきた。リヤカーに花を一杯積んで横浜を歩こう。顧問税理士がどこからかボロボロのリヤカーを探してきてくれた。何でもそこの会社の先代が使っていたリヤカーらしい。「上等上等」。これをかわいくして自分達で作ろう。材料を市場に拾いに行こう。市場のごみ捨て場には廃棄処分のコンパネやリンゴ箱や角材が山のように積まれてますよ。

 野菜や魚のパッケージなんだけど、新品のベニヤ板とか一杯ある。これを拾って、ホームセンターでペンキを買ってサビ取りを買って、釘を買って屋台を作るのだ。相棒と二人で棚を作ってペンキを塗ってそれなりの屋台ができた。これに花を一杯積んで歩きたい。早く歩きたい。

 ●目線がビックリマーク
 よし、今日から花を積んで歩くんだ。花桶を20個くらい積んでそれに花を入れて出発だ。色とりどりの花の屋台はそりゃーカッコイイですよ。出会う人はみなビックリして立ち止まる。不思議そうな顔をするのである。

 山下公園から神奈川県庁付近、横浜市庁舎から中区役所、地方裁判所から郵便局前。なにしろこのあたりはそういう街だからPR効果はきっとすごいぞ。そう勝手に思い込んでどんどん歩く。関内から馬車道そして桜木町へ。

 このプロモーションは疲れるけど面白いのである。みんなの反応がダイレクトにわかるのである。何日も歩くと反応がいいところと悪いところも風で感じるのである。もはや私の体は歩道販売員の体になってしまったのか と思うほど辻々で感じる雰囲気というものがある。やっぱり営業は足で稼げというのはそのとおりかもね。

 ●一輪の花を会社に配ろう作戦
 桜木町以外でのPR作戦の次の手は会社とお店にチラシと花をくばる作戦なのだ。ガーベラ1輪をラッピングしてランドマークタワーから馬車道、関内、山下町、元町のすべての会社を回るのだ。チラシは手作りと印刷の2種類。印刷チラシはA4・三折りで1枚5円。それにガーベラを1輪ずつ。時間はランチタイムを狙って、2人で総攻撃なのだ。

 チラシを配り終わった後の事を想像すると、その日はどこの会社にもガーベラが1輪飾ってある。どこの店も飾ってある。それを相棒とイメージ擦ると、楽しくなってくる。まさに「会社に花を咲かせましょ」なのである。しかもそれを自分達で実践するのだ。

 この作戦は面白い。オープンドアーのランチタイムに「ダダダ」と会社に入って行って花とチラシを置いてくる。インパクトありますよ。バスケットに溢れる花を持った謎の2人組ですからね。

 でも、調子に乗ってたら、警備員に通報されてしまったのだ。そこのビルの一番うるさい会社に突入したら、会社の人に「なんだおまえ達は!すぐに出ろ」と言われ、警備員を連れてきた。そこのビルの大家さんだったのね。その会社。えーと名前は○菱電○だったっけ。えっと財閥系の。八木先生(注)ごめんなさい。FMヨコハマの人はみんないい感じだったのにね。

 ●花屋台復活セール
 1月後半から2月一杯をそんなことを目一杯して過ごし、3月2日に桜木町に復活したのである。復活セールはガーベラ10本500円。ガーベラだけをリヤカーに満載して、このシルクセンターを朝7時半に出発。

 朝早くからは大変だからと相棒は9時出勤にしてもらって1人で出発。いやー、でも暖かくなったよ。あのころ寒かったもん。桜木町まで行く途中にOLさんが聞いてくる。

 「これ売ってるんですか」
 「はい、そうですよ。10本500円です」
 「え〜、ホント?じゃあ20本ください」

 信号で止まってたらまた女の人が10本くださいって。

 30分かかってホームタウンの桜木町についた。ここ、ここ。この場所のこの匂い。50日くらい来てなかっただけなんだけど、懐かしい。この雑踏が懐かしい。なんだか嬉しい。帰ってきたんだという気持ちだ。なにより嬉しいのは相棒もちゃんとそこに来てくれてるジャン。笑って立ってるジャン。嬉しかったなー。

 そして次々と懐かしい顔がいっぱい。どうしてたんですかー。もうやめちゃったと思いましたよ。嬉しい事を言ってくれるんですよ。常連さんたちの笑顔を見て今までの50日が報われた気がする。

 そして夜。午後4時半にシルクセンターを出発する。相棒と二人で。むこうから信号待ちだったおばちゃん2人が走ってくる。

 「なに積んでるかと思ったらお花じゃない。オランダはみんなこうなのよ。ラッピングもいいわねー」
 「そうなんです、それを目指してるんです」
 「あらそう、素敵ね」

 こんな言葉がわれわれ2人にはいちばん嬉しい。だんだん桜木町に近づいてきた。ドキドキする。みんなの反応が心配だ。信号を渡る。定位置に着いた。いつも隣にいた携帯電話屋さんも笑顔で迎えてくれた。2人で桜木町商店街と勝手に言っていた仲だし、この場所の先輩だし。

 さてさて久しぶりの夜の桜木町。どうなんだろう、売れるだろうか。常連さんは来てくれるかな。やってきましたよ。「久しぶりですー」「どうしちゃったかと思った」。そんな声ばかり。結局この日何十人も来てくれて、満足の結果だった。午後8時に終わってまたリヤカーを引いて帰る。

 でも足取りは軽い。2人でかわるがわるリヤカーを引いて夜のヨコハマを歩く。楽しいよ。自分達のやりたい事をきちんとイメージして、コツコツ地味にいろいろ準備して。復活セールのチラシは手作りで事前に会社に配ったりして。

 事務所に戻って乾杯しました。また明日からお花屋さん改革の闘いが始まるのだ。こんな仕事をいやな顔一つせず何でも一緒にやってくれる相棒に感謝します。冬の寒い朝4時起きでがんばってくれて多分睡眠時間は4時間くらいだったと思うけど、本当にありがとう。相棒の鈴木真理子さん、これからも宜しくお願いします。(こんどう・まんえもん「お花の萬奮闘記」3月7日:第4号)

 (注)文中の八木先生は萬晩報の執筆陣の1人である八木博さんです。


 ご意見・御感想をお待ちしていますhanaya@ryoma.gr.jp。「お花の萬奮闘記」はメールマガジンとしてインターネットの本屋さん『まぐまぐ』で配信しています。http://www.mag2.com/


 【読者の声1999年3月11日】朝、いつものように楽しみにしている萬晩報に目をやると何だかいつもの雰囲気と違う文章が飛び込んできて少し戸惑っていました。読んでいるうちに花を一杯積んだ手作りのリヤカーが横浜の街をのろのろと進んでいる情景が浮かんできて気持ちがほっとしました。たいした話じゃないんですが(ごめんなさい)読んでいるうちに涙が出そうになりました。

 最近私は変わることのできない(変わる気が無いのかな?)この日本が本当に嫌になり失望感で一杯でした。この文章を読んだ時何故涙が出そうになったのか分かりません。しかしこの文章の中の人達はただ"「会社に花を咲かせましょ」なのである。しかもそれを自分達で実践するのだ。”と言いつつリヤカーに花をいっぱい摘んで寒い町の中を歩いているのです。

 変わりたくない政府や、無責任な大企業のトップ、自分達の利権しか考えない官僚達・・・そんな低レベルな人間にはできない自分にしたいこと、自分にできることを精一杯自分の意志で行なっているのです。そしてそこに何より社会性が存在するのです。今の日本人に最も大切なことではないでしょうか。

 きっと、井深さんも本田さんも出発点は同じ思いだったのではないでしょうか。これを読んで私自身、日本の社会に必要以上に失望感を持ったり諦めたりすることが恥ずかしくなりました。大切なのは自分自身がどうやって社会に溶け込むかではなく、自分が社会に何を与えられるかを考えていくことだと思いました。

 こういう人達がいる限り、日本は大丈夫です。気持ちの良い文章ありがとうございました。日本中の会社に花を咲かせて下さい。私も頑張ります。(河辺佳朗)

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