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日銀が銀行の"総持ち株会社"になる日

1999年02月24日(水)
萬晩報主宰 伴 武澄



 「日銀が銀行の"総持ち株会社"になる日」という過激なタイトルを考えついた。だれもがまさかと思うだろう。ピンとこない人もいるかもしれない。

 約1カ月ほど前に「国債という日本の打ち出の小づち」のタイトルで、国債は誰が買っているのかと内容のコラムを連載した。今回は2月12日に内定した大手15銀行への総額7兆4500億円という巨額な公的資金の出し手の問題について考えたい。ちょっと難しいかもしれないが、日本という国の将来を考える上で不可欠な部分なのでつき合ってほしい。

 ●空前絶後の620億ドルという資金調達
 結論から言えば、日銀からの借り入れで賄うことになりそうな雲行きなのだ。「公的資金の注入」は自己資本増強が目的。具体的には銀行が株券を発行して、国が買い入れることになる。たとえば第一勧業銀行は9000億円の公的資金を申請しているが、今日の株価730円で新株を発行すると株数は12億株強。現在の株数は31億株だから、発行総株式数は43億株となり、国のシェアが28%となる。

 すべての公的資金が優先株として投入されると東京三菱銀行以外の大手銀行の"筆頭株主"が日銀となり、発行済み株式の過半数が日銀となってしまう都銀も現れる。つまり実質的子会社である。日銀は1999年3月から実質的に東京三菱を除くすべての日本の大手銀行の「持ち株会社」となるのだ。

 厳密にいえば、銀行から直接的に株式を購入するのは「整理回収銀行」。その整理回収銀行に資金を出すのが「預金保険機構」(預保)。その預保が実際に資金調達することになっている。だから、預保が日銀から借り入れて、現実には整理回収銀行が大手銀行の株主として登場することになるが、分かりやすくいえば、上記の通り日銀が実質的な株主となるのだ。

 「金融機能早期安定化策」では、公的資金の資金調達方法は「金融機関からの借り入れなど」と説明された。預保には債券発行の権限も与えられているため、当初は債券発行で資金を集めようとしたが、長期金利の高騰で断念。当面は0.5%という超低金利の公定歩合で借り入れするのが得策と判断したもようである。

 ただ、3月に調達して大手15銀行に注入される7兆4500億円は米ドルで620億ドル。金額は1回の資金調達としては世界的にも空前絶後である。

 これが金利市場に影響を与えないはずがない。日銀はすでに国債保有に50兆円。預保貸し出しに7兆円。CP買い入れに8兆円内外の資金を出している。CPは大手企業が発行した短期の"社債"のようなもの。いずれにせよ通貨量の増大=日銀券増刷は免れえず、どう弁解しようと将来のハイパーインフレにつながる大きな爆弾をさらに抱え込むことになる。

 ●公的資金=日銀借り入れ
 さて公的資金という言葉である。なんとなく分かったようで、具体的に説明しろと問い詰められれば言葉に窮してしまうはずである。そもそも一昨年の1997年12月、「30兆円の公的資金導入」(その後60兆円に)という表現で突然出てきた感がある概念である。

 「公的資金」は政府のお金である。ところが厳密に政府のお金という意味合いでは「財政資金」しかない。財政資金は税金や国債を発行して得た資金である。公的資金とわざわざ言うからにはこの「財政資金」でないことは確かだ。何を隠そう政府にはもうひとつの打ち出の小づちがあったのである。すでに説明したように最後の貸し手としての日本銀行だ。

 預保が債券を発行するという手もないわけでなはいが、その場合でも誰がその債券を購入するかと言う問題に突き当たる。巨額な資金源といえば、現時点では日銀か郵便貯金を牛耳る資金運用部しかないのである。

 お金というのはそう簡単に貸してもらえるものではない。まず信用力が問われ、返済能力も必要だ。でなければ担保を取られる。いうまでもないことだが、借り手に対して必ず貸し手が存在する。

 しかし、過去の景気対策でも今回の公的資金問題でも議論はいつでも借り手の事情ばかりに偏っていた。国会議員もマスコミも誰が貸す側の事情にはあまり焦点を合わせてこなかった。まだ国家に余裕があったからである。だがこれからはそうはいかない。日本という国が必要としているお金の金額が昨年から桁違いに大きくなった。銀行をつぶさないという政策の代償は限りなく大きい。

 次回は「預金保険機構」について解説したい。

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