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宣戦布告なき米英のイラク空爆の不可解さ

1998年12月22日(火)
萬晩報主宰 伴 武澄


あなたは目の読者です。

 12月21日付け大手新聞は一面トップの選択に迷ったに違いない。「クリントン米大統領の弾劾訴追議決」と「米英によるイラク空爆終了」はともに超弩級のニュースだからだ。アメリカではワシントン・ポストが1面トップで「Clinton Impeached」の横見出しを張るなど、大統領弾劾訴追のニュースが圧倒的に大きく扱われた。アメリカ国民にとって内政問題の方が大切なのは当然だが、世界にとってはイラク空爆の方が重要な問題である。

 ●国際法は懲罰という戦争を認定しているのか
 イラク空爆は、17日の攻撃開始からおかしいと考えていた。日本政府はただちにアメリカを支持する声明を出したが、主権国家が国内で民主的でないとか、国連の査察を拒否したからといって、他国が「懲罰」できる根拠が国際法にあるのだろうか。イラクが大量破壊兵器をつくっているとの疑いがあるのなら、インドやパキスタンの核実験はどうなるのだろうか。萬晩報としては、アメリカによる今回のイラク空爆には大国としての驕りを感じざるを得ない。

 1991年の湾岸戦争はイラクによるクウェートへの侵略行為に対する戦争だったが、今回どこのメディアも「戦争」という表現をしようしていないのが不思議である。今回も「戦争」であって「イラク空爆」ではないはずである。もうひとつ。戦争ならば開戦の理由と宣戦布告が必要だ。今回「宣戦布告」は一切なかった。

 戦争でなく空爆だから宣戦布告はいらないのだろうか。それとも懲罰だから宣戦布告が必要ないのだろうか。アメリカはいまも、1941年の日本のパールハーバーへの奇襲攻撃を卑劣な行為と非難し続けている国家である。そのアメリカが「国連査察を拒否した」として突然、イラクを空爆する権利などはない。

 筆者はイラクに肩入れするものではないことを強調した上で、やはりアメリカの今回の措置にはどうもおかしさを感じる。さらに言えば、湾岸戦争のとき、アメリカはまがりなりにも「多国籍軍」という形態を取った。地球の警察官としての国連軍はいまだに存在しないが、それでも国連加盟国に承認された軍隊派遣だった。だからこそ日本は応分の負担として100億ドルの負担を担った。

 だが今回は違う。アメリカとイギリスによる連合軍でしかない。国連中心外交を標榜する日本政府がなぜ「支持」を打ち出したのか。この点についても疑問が晴れない。ロシアや中国だけの非難や反対でない。今回の「イラク空爆」には湾岸諸国ですら積極支持を控えたのである。

 ●イラク孤立は原油市場に「朗報」?
 空爆が4日で終わったのも不思議である。アメリカは「イラクの多くの拠点を破壊した」としているが、空爆開始の際にクリントン大統領が言及した「打倒フセイン」のスローガンはどこへいったのだろうか。国際的な批判を覚悟で開始したのなら徹底的に攻撃すればよいものを空爆そもののさえ中途半端に終わらせた。

 これでイラクへの大量破壊兵器の査察はほとんど不可能になったし、イラクに対する禁輸措置解禁も当面、おあずけとならざるを得ない。どこのマスコミも今回のイラク空爆を大統領弾劾訴追との絡みで報道した。大きな要因のひとつだったかもしれない。しかし、筆者はもうひとつの側面を指摘したい。原油価格の暴落である。

 いまやアジア経済の不振もあって原油価格は1バレル=10ドル近辺まで下落している。1973年の第4次中東戦争後の2回にわたるオイルショックで原油価格は同3ドルから30ドル台に急上昇し、1986年からは同10数ドルまで急落した経験を持つ。その後は20ドル近辺で比較的安定していたが、ことしに入って86年当時の水準まで逆戻りした。

 国連によるイラク査察が終了して、石油輸出国であるイラクを国際経済社会に復帰させることは、軟化している原油市場をさらに下落させる「波乱要因」につながることはまぎれもない。イラクを国際的な孤立状態に閉じ込めておくことは国際石油資本にとってこの上なく「良い選択」であったことにも留意しておきたい。

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