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12月から590億円得したたばこ屋さん

1998年12月09日(木)
萬晩報主宰 伴 武澄


あなたは目の読者です。

 12月からたばこの定価がほぼ全銘柄で20円ずつ値上がりした。たばこを吸わない人にとっては他人事だし、「いいチャンスだから辞めたら?」などと言われる愛煙家も多かったのではないかと思う。

 今回は従来の値上げとちょっと様相を異にしているため黙っていられない。第一に、旧国鉄の借金を喫煙者に肩代わりさせた点だ。第二は今回は増税ではなく、新特別税である点、そして第三として値上げ分がすべて税収とならず18%もの金額が雲散霧消する点だ。

 特にこの第三点目について説明すれば、たばこを吸わない人といえども聞き捨てならないだろうと思う。

 ●愛煙家はどこまで旧国鉄負債を負担するのか
 国鉄清算事業団の長期債務及び国有林野事業の累積債務の一般会計への承継に伴い、新しい税目として4月から「たばこ特別税」が創設された。税収見込みは年額で約3800億円だから決して小さくない。実施時期は1998年10月1日からだったが、旧国鉄の28兆円もの借金を国鉄清算事業団から一般会計、つまり国民の借金に付け替える法律の成立が金融問題の審議で遅れたため、実施時期が2カ月遅れたる。

 借金の付け替え先は「国債整理基金特別会計」である。一般になじみはないが、過去に発行した国債の返済を行う窓口である。もっとも実質的にただの1円も返済したことはない。日本という国が国債の金利しか払ってこなかったことについては、萬晩報が何度か指摘してきた通りである。

 もともと旧国鉄への借金のほとんどは政府の資金運用部から借りたものである。28兆円は国鉄が民営化した1985年時点で27兆円だった。金額が増えたのは金利分だ。10年もたっている割に増え方が少ないのは多少は資産を売却したからである。資金運用部は郵便貯金などを運用するセクションだから、旧国鉄の借金はいわば郵貯の不良債権として生まれ変わったと言ったら刺激的すぎるだろうか。

 どうしてこの特別会計に付け替えたかといえば、いずれ多額の国債を発行して郵貯の不良債権を少しでも減らそうという魂胆なのだ。郵貯の不良債権が旧国鉄分だけで28兆円ということが分かったら大騒動である。そうならないように、分からないようにこの特別会計に移したのだが、萬晩報の目をごまかすことはできない。

 もちろん、旧国鉄の資産を処分して少しでも国債依存を減らしたところだが、歯止めのかからない地価下落のなかでは売却はたやすくない。そこで「たばこ特別税」の出番となるが、どう考えても3800億円程度の税収では28兆円の金利の足しにしかならない。

 仕組みを長々と書いたが、本当はなぜ喫煙者だけが不合理な借金付け替えの犠牲にされるのか、説明も議論もないことは大いに不満である。

 第二も問題は、たばこ税の増税ではなく、「特別税」と名乗るからには期限が必要だということである。たとえば「28兆円の借金のうち1割の2兆8000億円を喫煙者に負担してもらいたい。ついては10年間だけ値上げを許してほしい」というのならば、まだ納得できようというものだ。だが、たばこ特別税法には実施時期は明記されているが、終わりの時期が明記されていない。これは特別法の趣旨を逸脱しており、大蔵省による完全なルール違反である。

 ●増税でも値上げでも実入りが増えるたばこ店
 第三の問題である。法律には「課税標準」として「税率は1000本当たり820円」とある。20本当たり16円40銭でしかないのに、20円の値上げが実施されたのである。差額の3円60銭はどこに行ったのだろうか。たった3円60銭というなかれ。年間のたばこ消費量は3280億本だから、1箱3円60銭の積み重ねは590億円にもなる。

 そもそも昨年4月の消費税値上げで220円だったセブンスターは230円へと10円も値上げされた。2%の値上げだから4円程度で済んだ値上げ幅が倍以上になった経緯がある。値上げには基本的に反対だが、税金がそのまま上乗せされるのならまだ、納得がいくというものだ。だが、この国のたばこはそうはなっていない。

 たばこは公共交通機関と電器・ガスを除いた日本の物価のなかで唯一残された「認可制」である。富士山の頂上でも、銀座の高級クラブでもたばこの価格が同じなのは公定価格だからである。当然ながら安売りも許されていない。昨年4月の値上げでは実はタックス・オン・タックス、つまりたばこ税を加えたたばこの価格にさらに2%の消費税を上乗せしたのである。これはガソリン税でも同様だ。

 さて、この疑惑の3円60銭の行方である。結論を言えば、たばこ販売店の手に入る。ほとんどのたばこ販売店は年間売り上げが少ないため、消費税の納税義務がないことも付け加えなくてはならない。

 たばこの流通は日本専売公社の時代から近代化されていない。たばこが公定価格であることにも理由がある。たばこ販売店の手取りは小売価格の10%と決まっていた。いまではブランドによって10−10数%の範囲で決まっている。だからたばこ税が上がると自動的に販売店の手取りも増える仕組みなのだ。

 おおまかに全国のたばこ販売店数は28万件。平均1300万円の売り上げで、手取りは130万円である。その実入りが今回約10万円増える勘定となる。消費税増税に続いてまたおかしなことが起きつつある。「風が吹けば桶屋がもうける」というのは経済原則だが、増税によってまたたばこ小売店の実入り増につながったのでは禁煙者でなくとも立つ瀬がない。

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